第57話 黒騎士、満足する
やや甘酸っぱい空気を醸し出すものの、俺と東雲さんのデートは順調に時間が進む。
テーブルに並べられた料理を食べながら、今回のゲートに関する話をした。
周りも同じことを話しているのだ、木を隠すなら森の中ってね。もうバレてるけど。
「それで……実際はどれくらいの強さだったんですか、その人型モンスターというのは」
「うーん……俺は紅さんのサポートをしただけですからハッキリとは。ただ、特級冒険者に並ぶほどの力は感じましたね。実際、俺たちは二人で戦って勝ちましたし」
紅さんが聞いたら怒りそうな内容だった。
「あたしなら一人でも勝てたし!」とね。
「映像を見るかぎり私も同じことを思いましたが、どうにも紅さんの力量が高すぎて……最後も明墨さんがトドメを刺しましたし」
「あれは申し訳ないと思ってます……」
映像に残っているのを忘れていた。
俺は真剣勝負する紅さんの戦いに水を差したのだ。
今でもあの行いが正しかったと俺は主張するし、別に誰にも責められていない。気にする必要はないとは思うが、話題に出るとなぜか後ろめたい。
横槍入れたからかな? 横槍ってだけで嫌な意味に聞こえる。
「ああ! 別に私は責めているわけではありませんよ! ネットの反応を見ても誰も明墨さんを——黒騎士に文句を言ってる人はいません。ヒーローだってもっぱらの評価です」
「俺がヒーロー……それはまた見る目がありませんね、みんな」
俺は誰がどう見たって悪役だ。
あの外見で横槍までしたんだぞ? 普通に敵キャラである。
でも世間がそういう目で見ないことを知れてよかった。少しだけ肩の荷が下りる。
「ふふ。黒騎士が世界を救う! なんて言ってる人もいるくらいですからね」
「普通、世界を救うのは白騎士とか勇者の役目でしょうに」
「そんなことありませんよ。わ、私も……黒い騎士に救われましたし」
「懐かしいですね。初めて出会ったときの話ですか」
過去を振り返る。
俺が東雲さんと初めて顔を合わせたのはダンジョンの中。
モンスターに襲われている彼女を助けたのが始まりだ。
それからまだほとんど時間は経っていないのに、こうして二回もデートする中になっている。
もしかして彼女は俺に気があるのでは?
そう思ってしまいそうだ。
「懐かしいですねぇ……あのときは本当に死ぬかと思いました。明墨さんがいなかったら確実に死んでましたけどね」
「案外、東雲さんなら逃げ切れていたかも?」
「どうでしょう。自信はありません。今なら話は別ですけどね」
「何かあったんですか?」
「それはもう。明墨さんを見て、私も頑張ろうと思いました! 次のS級ゲート攻略戦の時には一緒に戦場に立ちたいとすら思っています!」
グッと彼女は拳を握り締めてそう言った。
ものすごい自信に満ちている。
「東雲さんと一緒に……それはすごく楽しそうですね」
東雲さんとは一度共闘している。
俺と彼女は属性が異なるがゆえに相性がいい。
殲滅の俺。回復の東雲さん。
——いや俺も白魔法くらい使えるけどね? あえて彼女に譲ってあげるんだ。
悔しいけど今の俺よりは白魔法が使えるからね。うんうん。
「まあ、まずは許可をもらうところからですけどね。そもそも次はいつになるのやら」
あはは、と彼女は笑いながら食事を摂る。
そこから少し沈黙が続いた。
けど、悪い意味の沈黙じゃない。
俺も東雲さんも心底楽しんでいるとお互いにわかっていた。
彼女との共闘、本当に叶うといいね。
▼
二時間ほどで食事は終了した。
食後のデザートも堪能し、彼女を駅まで送る。
「——あ、ここまでで大丈夫ですよ。電車から降りたらすぐに家ですから」
駅のそばに到着すると俺と彼女はぴたりと足を止めた。
俺も東雲さんも駅が違う。真逆だ。
だから彼女は俺のことを配慮してくれた。
「そうですか。では帰り道には気をつけてくださいね」
それだけ言って俺は手を振りながら駅のホームを目指す。
振り返ると、彼女は俺がいなくなるまでずっと手を振ってくれていた。
立場が逆かもしれないね。
そのまま電車に乗って自宅へ帰る。
靴を脱いで自室へ。
乱暴に着ていた服を脱ぐと、ため息を吐きながらベッドに倒れる。
「あー……さすがにちょっと疲れたなぁ」
ゲートの攻略に祝勝パーティー。あとはデート。
ここ二日でいろいろあった。おかげで体力が久しぶりにガリガリ削れたよ。
明日は学校がある。
しかし俺は休む予定だ。一日くらいサボっても誰も文句は言わないだろう。
それだけ俺は働いた。
まだまだ日本の脅威は残っているものの、昨日、たしかに俺たちはそのひとつを取り除いたのだ。
いまはそれを噛み締めながら、先ほどの光景を思い出す。
「楽しかったな……デート」
ふふっと笑って押し寄せてきた眠気に意識を落とす。
ものすごく気持ちよく眠ることができた。
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