第53話 様子のおかしい東雲さん

 記者たちからの質問を捌くのに残りの体力をほとんど消費した。


 ある意味、人型モンスター以上の手ごわさだった。


 そんな俺のスマホに電話がかかってくる。


 かけてきたのは東雲千。同じ冒険者仲間の女性だった。


「紅さん、すみません。電話がかかってきたんで席を外しますね」


「了解。帰りの支度が済んだら呼ぶわ。彼女さんにもよろしく~」


「彼女じゃありませんよ」


「はいはーい」


 ふざけたこと言って紅さんは部下たちのもとへ向かった。


 その背中を見送ってから通話ボタンをタップする。


「もしもし。東雲さんですか?」


『もしもし。いま電話大丈夫でしょうか、明墨さん』


「問題ないですよ。攻略戦も終わってくつろいでるところだったんで」


『よかった……お疲れ様です、明墨さん。私は手伝うこともできなかったけど、明墨さんの勇姿は逃さずこの目に焼き付けました! すごい大活躍でしたね!』


「大活躍……だったのかな。俺は紅さんのサポートをしただけですよ」


 正直、紅さんがいなかったら俺ひとりであの人型モンスターを倒せなかった。


 一撃に重きを置く俺とは相性が悪い。


『そんなことありません! あのドラゴンに最初にダメージを負わせたのも明墨さんじゃないですか! 明墨さんのデバフがあったからドラゴンを安全に倒せたって夜会のギルドマスターも言ってましたよ!』


「あはは……そう言えばそうでしたね」


 記者たちの質問に、たしかに轟さんはそう答えていた。


 恐らく彼女たち特級冒険者が本気を出せば、あんなドラゴンくらい簡単に倒せただろうけどね。


 それでも褒められるのは嬉しいものだ。素直に受け取っておく。


「ありがとうございます。東雲さんに褒められると嬉しいですね」


『ええ!? そ、そうですか……?』


「はい。知り合いっていうのもありますけど、なんだろう……東雲さんだから?」


 言葉にするのは難しいな。


 でも、あえて言葉にするなら……彼女の応援や称賛には嘘がないように思える。


 きっと本人の性格がいいからだろうね。彼女なら本気でそう思ってる。そう感じるんだ。


『わわ、わわわわ……私だから!?』


「東雲さん? どうしました?」


 急に東雲さんの様子がおかしくなった。言葉をつっかえまくっている。


『私だから……私、だから……ぐふ』


「東雲さん?」


 いま、明らかにおかしな声が聞こえたな……電波障害か?


 この辺りに電波を妨害するものは何もない。だが、たまに電波が飛ぶことはよくある。機械も電波も万能ではないのだ。


『な、なんでもありません! それより、明墨さんにご相談が……!』


「相談? 俺にですか?」


『はい! 大切なご相談がありまして……』


「なんでしょう。東雲さんの話ならなんでも聞きますよ」


『なんでもぉ!?』


「東雲さん?」


 今日の東雲さんは様子がおかしい。


 何度も声を荒げている。


 熱でもあるのかな? それともS級ゲート閻魔殿が消えてものすごい喜んでいる?


 俺には答えはわからなかった。


「大丈夫ですか、東雲さん」


『あ、いや、大丈夫です! ちょっとうれし——じゃなくて! ご相談の件ですが』


 ごほん、と彼女は一回咳払いを挟んでから続けた。


『いつでもいいので明墨さんのお暇な日時とかございますか?』


「日時……ですか」


『はい。その……口に出すのはたいへん恥ずかしいお話なんですが、また明墨さんを遊びに誘うのはありかな、と思いまして……』


「それって……」


 もしかして、いわゆるアレか?


 アレと認識してもいいのだろうか!?


 ——S級ゲート閻魔殿攻略を祝って! といういわゆる祝勝会!?


「祝勝会ってやつですか?」


『……え?』


「え?」


 あれ? 違った? 東雲さんの反応が急に悪い。


「違い……ました?」


『ち、違いません! そう、それです! 祝勝会です!』


「ああよかった。ひとりで浮かれるところでした」


 答えがあっていてホッとする。


 自分だけ喜ぶとか地味に恥ずかしいからね。でも、なぜか東雲さんの声から哀愁のようなものが……気のせいか。


「じゃあこれから東京に戻るんで、明日の夜とかどうですか?」


『明日の夜……はい! わかりました! それでお願いします!』


 なんか気合の入った返事が返ってきた。


 テンションの上がり下がりが激しくないか? 大丈夫かな、東雲さん。


「他に用事があったら来週でもいいんですが……」


『問題ありません! 明墨さんとの約束以上に大切なことなんてないですから!』


「え? さすがにそれは……」


『大丈夫です』


「あ、はい」


 ぴしゃりと言い切られてしまった。


 彼女が大丈夫と念を押すくらいだ。本当に大丈夫なんだろう。


 相手は人気ダンジョン配信者だというのに……なんだか悪いな。


 それでも予定はそのままに、俺たちはもう少しだけ雑談したあとに電話を切った。


 俺は懐にスマホを入れると、まだ呼ばれてないが紅さんのもとへ向かう。


 あとは帰って剣さんに報告するくらいかな?




———————————

あとがき。


近況ノートを書きましたー!

よかったら読んでください!

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