第52話 黒騎士、ヘトヘトになる
「お疲れ様でした、紅さん、明墨さん」
S級ゲート閻魔殿を攻略して戻ってきた俺たちを、巫女服姿の花之宮さんが迎える。
そばには天上さんや轟さんの姿もあった。
「お疲れ様です、花之宮さん」
「お疲れ~。あのドラゴンは無事に倒せたのね。さすが春姫」
「いえいえ。ドラゴンを倒してくれたのは轟さんと天上さんですから。わたくしはただ防御に徹しただけ。本当にすごいのは轟さんですよ」
「あれ? 名前が出たのに最終的に省かれたぞ~?」
相変わらず天上さんには冷たい花之宮さんだった。
天上さんは慣れているのか自虐的なジョークを呟いている。
片や一番活躍したであろう轟さんは、ちらりと紅さんの姿を視界に収めて訊ねた。
「そっちはずいぶんと無茶したようね。こっちにまであんたの魔力が伝わってきたわ。全力を出さないといけないほど強い敵がいたのかしら?」
「ええ。あたしの全力でも仕留めきれなかったわ。最終的に隙を突いて庵が深手を負わせた」
「それでも最後には逃げられましたけどね」
「中で何があったの?」
「……ゲートの中に人型モンスターがいた。それも、日本語を喋る男がね」
「!?」
俺と紅さん以外の三人に衝撃が走る。
あの天上さんですら真面目な表情を浮かべていた。
「人型モンスター? それはゴブリンとかオーク、オーガみたいなのじゃなくて?」
「あたしたちと何ら変わらない人間みたいなモンスターよ。ありえないほど強かった」
天上からの質問に、いつもみたいに茶化したりしない。紅さんも真面目に答えた。
「日本語を喋る人間のようなモンスター……それは本当にモンスターだったのですか?」
今度は花之宮さんが訊ねる。
「ゲートの中にいたのよ? それもゲートの先に繋がっているであろう異世界に関して知ってる口ぶりだった。攻撃してきたし間違いなく敵よ。モンスターかどうかは置いといて」
「それはまた……面白い状況ね」
轟さんが乾いた笑い声を鳴らす。
「男は自分のことを異世界人と称していたわ。その上でいくつか情報をくれた。知りたい情報はたくさんあったけど、教えてくれたのはごくごくわずかね」
「それはどんな内容よ」
「秘密」
「神楽!」
「冗談よ。ただ、ここで言っても二度手間だし、剣の爺のところで話すわ。庵もそこまではついてきなさい」
「了解」
報告は大事だ。実際に戦った俺や紅さんからしか伝わらないものもある。
二つ返事で頷いた。
「では皆さんのもとへ戻りましょうか。きっと今か今かと待っていますよ」
「はーい」
「待っててくれたまえ、僕のヴィーナスたち!」
「やれやれね……疲れたわ」
花之宮さんが全員を先導して歩いていく。
紅さんはどこか気だるげに。
天上さんは相変わらず。
轟さんも肩を竦めて疲労を浮かべていた。
俺も四人の背中を追っていく。
すると、ふと紅さんが何かを思い出したかのように振り返った。
歩きながら彼女はにやりと笑う。
「そうだったそうだった。庵はたぶん初めてよね?」
「初めて? 何がですか?」
「インタビュー」
「……え?」
僕はぽかーんと口を開ける。
紅さんがよりいっそう楽しそうに笑った。
「その様子なら知らなかったのね。まあ、前にゲートを攻略したときはさっさと帰っちゃったし無理もないわ。普通、ゲートを攻略したらインタビューとかされるのよ。特にS級ゲートの攻略なんて美味しい話の種、記者が見逃すと思う?」
「あー……それって……」
「回避できないわよ。ウチのメンバーなんだからシャキッとしなさい!」
ささっと俺の背後に回る紅さん。
バシーン! と背中を叩かれた。
気合など入らない。だが、僕は頑張るしかなかった。
「なぁに、適当に訊ねられたことに回答すればいいのよ。簡単簡単」
「本当ですか?」
なんだか紅さんがそう言うと無性に不安になってくる。
俺の足取りは重かった。
▼
「…………うへぇ」
盛大にため息を吐く。
その様子を見て、俺の隣では紅さんが腹を抱えて笑っていた。
「あははは! 初めての体験はどうだった? って訊く必要もなさそうね」
「そりゃあそうですよ……なんで揃いも揃って、特級冒険者の皆さんがいるのに俺にばかり質問を……」
現在、ゲート攻略戦が終わったあとのこと。
紅さんの言うとおり本当に記者たちに突撃をかまされた俺は、ドキドキしながらもなんとか彼ら彼女らの猛攻を凌いだ。
凌いだのだが……その量がすごかった。
なぜか俺にばかり質問が飛んできて、一番喋った気がする。
「まあみんな期待してたのよ。ネットで話題の黒騎士をね。それに、今回のボス攻略に特級じゃない冒険者は庵だけだったし」
「まあ、目立ちますよね」
「目立つわね。幹部と言えども他の連中は雑魚討伐ばっかりしてたし」
「こんなことなら雑用でもやってたほうが楽だったかな……ん?」
愚痴をぼやいた直後、懐のスマホが振動した。
画面を見ると電話がかかってきている。表示された名前は……。
東雲千だった。
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