第47話 黒騎士、紅をサポートする

 紅さんと俺、人型モンスターの戦闘は激しさを増していく。


 紅さんの炎による攻撃は苛烈を極めた。男は雷による迎撃で攻撃を防いでいくが、火力では紅さんのほうに分があった。


 逆に人型モンスターは、速度で紅さんを圧倒する。


「後ろがガラ空きだぞ、人間」


 バチバチバチッ!


 激しい閃光が紅さんを後ろから襲った。


 しかし、紅さんは表情を一切変えない。


 からだ。


 男の攻撃を俺の闇が受け止めた。


 紅さんほどの火力でもないかぎり、俺の闇はそう簡単には敗れない。


 人型モンスターの攻撃を完全に吸収した。


「防御が空いてるわよ、クソモンスター」


 紅さんのカウンターがヒットする。


 炎に焼かれながら人型モンスターが吹き飛ばされた。


 けれど相手は肉体が凄まじい硬度を誇る。


 たとえゼロ距離で紅さんの攻撃が決まっても、ほとんどダメージはなかった。


「やれやれ……やれやれ、だな。そっちの人間が邪魔すぎる。さすがに二対一では分が悪いか?」


 ぱっぱっと服に付いた炎を払いながら男は呟いた。


 あの服、紅さんの炎を受けても簡単には燃えない。どんな素材で作られているんだか。


「今さら言い訳? 負けたときに自分のプライドでも慰めるのかしら」


「ははは。違うさ。俺は負けない。お前たちの攻撃ではこの通りダメージが通らない。ただ、時間がかかって面倒なだけだ」


「だったらそっちが降参しなさいよ。特別に半殺しで許してあげる」


「魅力的な提案だな。それならお前たちが降参するっていうのはどうだ? 特別に半殺しで許してやるぞ?」


「やっぱ殺す」


 炎をジェットみたいに噴射して人型モンスターのもとへ迫る紅さん。


 直線の動きなら紅さんの速度も人型モンスターに負けてはいない。


 問題があるとしたら、相手は多角的な移動・攻撃ができるって点だ。それも、高速移動しながら。


「おお怖い怖い」


 軽々と紅さんの攻撃を避ける。


 先ほどまでのペースならここで紅さんへの反撃が行われるが、今回は違った。


 閃光を見せて紅さんから遠ざかる。


 というか、こっちに来ていた。


 一瞬で俺の背後に回る。


「こっちを先に狙ったらどうする?」


「庵!」


 急いで紅さんが方向転換する。


 しかし、間に合わない。人型モンスターが攻撃するほうが速い。


 一撃で大ダメージを追うだろう。必中の距離だ。


 ——俺の鎧を貫けるなら、の話だが。


「ぬぅっ!?」


 男のゼロ距離攻撃が俺の鎧に吸収される。


 深淵の帳。


 俺が持つ最強の盾だ。常に全身を守っているこの鎧があるかぎり、大半の攻撃は受け付けもしない。


 惜しむらくは、男が素手による攻撃を行わなかった点。


 雷の放出では弱体化までは負わせられなかった。


 代わりに、普通に拳で殴る。


 剣を出す暇すら惜しんで人型モンスターを攻撃するが、さすがに速い。


 一瞬で俺のもとから消えると、先ほどの位置まで戻っていた。


 すぐに紅さんも俺のもとへやってくる。


「庵、無事?」


「ええ。敵の攻撃力では俺の魔法は突破できないようです」


「さすがね。その防御力の高さは春姫クラスよ」


「それほどでも」


 日本最高の防御能力を持つという花之宮さんと比べられるとは恐縮だ。


「ふむ……ずいぶんと堅牢な守りだな。俺の攻撃もまったく届かない。ますます……闇の君主を彷彿とさせる。実に不愉快だ」


「もしかして色々と聞かせてくれる気になった?」


 俺は男に問う。できるだけ倒す前に情報を得ておきたかった。


「まさか。あんな理不尽なバケモノでなくてよかったと思っていたくらいだ。もっと出力を上げてやる。ようは、貴様の防御さえ突破すれば殺せるわけだからな。二人揃って」


 バチバチバチ!


 男がまとう雷の大きさ、音が上がった。


 その範囲はもはや男の体にのみ収まるレベルではない。


 周囲にまで及び、俺と紅さんはその余波を魔力で防御する。


 まだまだ本気じゃなかったってわけだ。さすがに俺も魔力を上げとかないとまずそうだった。


「ふーん……クソ野郎のくせになかなかやるじゃない。あたしも久しぶりに本気を出せるかも」


「紅さんの……本気?」


 背筋がゾッとした。


 俺は知っている。この人が過去に何をやらかしたのか。


 そもそもどうやって特級冒険者として認められたのか。


 それは、簡単に説明すると一言で済む。


 彼女は、特級冒険者になる前に……町の一角を灰にした。


 文字どおり機能停止になるまでボロボロにした。そのときの被害があまりにも酷すぎて、彼女は正式に灰燼と呼ばれるようになった。


 それだけじゃない。彼女の灰燼という二つ名は……という意味でもある。


 本気を出した紅さんは、剣さん曰く——「モンスターと見分けがつかない」そうだ。


 その話を裏付けるように、隣に並んだ紅さんが一歩前に出る。全身がさらに莫大な量の魔力で満たされていった。

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