第46話 黒騎士、人型モンスターと交戦する
紅さんの放った炎が、人型のモンスターに当たる。
凄まじい爆発を起こした。
しかし、炎はすぐに消える。
否。
モンスターによって軽々とかき消された。
「なるほどなるほど。悪くない攻撃だな。本気出なかったとしたら相当な魔力の使い手だ。よもやこれほどの使い手がすでに誕生しているとは……異世界も侮れないな」
「ハッ。無傷かよ……」
紅さんが乾いた笑い声を漏らす。
攻撃が直撃したにも関わらず、人型モンスターに変化はない。さも当然のように無傷だった。
「落胆する必要はない。少なくとも俺は強すぎるだけだ。貴様が本気を出せばこの体に傷をつけることくらいはできるだろう。だが、貴様らでは俺には勝てない」
バチバチと、言い終えた途端に男の体に雷が走る。
「あのドラゴンと同じ……!?」
「ほう? 俺のペットを知っているのか。いまは外で戦っているようだが……ふむ。近くに複数の膨大な魔力を感じる。貴様らと同じトップクラスの戦士だな?」
「感知能力まで持ってると。あんた、一体何者なの?」
「貴様らからすればただの異世界人だろう? それともお前たちは俺のことをモンスターと定義するのかな? まあ、どちらでもいい」
人型モンスターが消える。
次の瞬間には、俺たちの背後に立っていた。
咄嗟に紅さんが攻撃を仕掛ける。
「————
炎が巨大な爪の形を描く。
振り下ろされた一撃を、しかしモンスターは簡単に避けて紅さんの前に迫った。
拳を握る。殴りつけるモーションに入った。
その頃にはもう、俺は紅さんのほうへ闇を放出していた。
モンスターの一撃を俺の闇が防御する。
衝撃を吸収し、音も殺した。
「これは——!?」
人型モンスターが俺の闇を見て驚愕する。
大きく後ろに飛び退き、その視線が俺を捉えた。
「貴様……その力、まるで闇の君主のようではないか」
「闇の君主?」
「知らない、か。まあ無理もない。ただ同じ系統の魔力を宿しただけに過ぎぬからな。仮に闇の君主と同じ実力であれば、今ごろ俺は殺されている」
くくく、と喉を鳴らして人型モンスターが笑う。
俺は再度男に訊ねた。
「なんだよ、その闇の君主って」
「さあな。お前たちが俺の部下になると言うなら説明してやってもいいぞ。教えたところで無意味だがな」
「……あっそ」
「じゃあ死になさい!」
話しているあいだにも紅さんが男へ迫る。
先ほどの爪がモンスターを捉えた。
今度は避けきれず、咄嗟にガードして吹き飛ばされた。
何度か地面をバウンドしてから止まる。空中で体勢を整えた。くるりと地面に着地する。
「やれやれ……話の途中だと言うのに野蛮な女だ。異世界の女はみなお前のような獣なのか?」
「さあね。自分の足で外に出てたしかめれば? その前に殺すけど」
「ふむ。一理あるな。俺の部下にならないのなら、お前たちを殺して外に出るか。まだ、君主たちから命令は出ていないがな」
「君主たち?」
先ほどの話ぶりからして、異世界に存在する王みたいな存在のことか?
恐らく目の前のモンスターより強い。そんな奴が、異世界には複数いるってことになる。
だが、ここで注目すべきなのは、異世界人の最後の発言。
まだ、君主たちから命令は出ていない、という部分だ。
先ほど男は闇の君主が相手ならもう自分は死んでいると言った。
敵対しているわけでもないのに、俺をその君主と比べた理由はなんだ?
魔力? 似ているから? いや違う。
もしかして異世界に進行しようとしてる勢力がいて、闇の君主はその中に入っていない?
——などと考察してみたが、無意味だな。
あってる保障はないし、その闇の君主が味方である保障もない。
今はただ、目の前のモンスターを倒さなきゃいけないってことだ。
「いろいろと気になるが……紅さん!」
「ええ。庵はサポートをお願い。アイツはあたしが——殺す!」
そう言って紅さんは膨大な炎の魔力をまとう。
まさに炎が人の形をとったかのような姿だった。
俺も闇を周囲に放ち、紅さんの防御などを担当する。
「やる気まんまんじゃないか。こい。格の違うというものを見せてやろう。異世界の猿どもが!」
人型モンスターも紅さんと同じく雷をまとう。
バチバチとその余波が周囲を襲っていた。
恐らくあのドラゴンより強いと思われる。そんな相手を二人で抑えられるか。
それはわからないが、いまはやるしかない。
時間を稼ぎ、他の特級冒険者がくるまで凌ぐんだ。
俺の役目は防御。紅さんに攻めに集中してもらい、すべての攻撃を防いでみせる。
地面を蹴り上げて男のもとへ迫る紅さんを見ながら、そう心に誓った。
「————
膨れ上がった紅さんの魔力が、激しい戦闘の開始を知らせる。
視界が赤く染まった。
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