第44話 黒騎士、殲滅する
S級ゲート閻魔殿の攻略の途中、ゲートからボスのドラゴンが出てきた。
それ自体は他の特級冒険者の人たちと協力して追い込みはじめたが、まるで誰かが手を貸すように緊急事態が起こる。
ゲートから大量のモンスターが追加で現れた。
それも、これまで見たことのないタイプのモンスターだった。
強さはそれほど感じないが、まったく異なる外見のモンスターとなるとおかしな話だ。
前に剣さんがぽつりと言った多重ゲートの件が、ここにきて真実味を帯びる。
「せっかくあのトカゲを倒せるかもって時に……!」
「神楽、あなたと明墨さんであちらのモンスターを対処してください」
「は? あたしはともかく、ドラゴンに攻撃を通せる庵は残ったほうが……」
「問題ありません」
きっぱりと轟さんはそう断言した。
にやりと笑う。
「明墨さんが弱体化を付与してくれたおかげで、我々の攻撃も通るようになりました。ご覧ください。ドラゴンの皮膚が焦げているでしょう? あれなら地道に削って殺せますわ」
「けど……」
紅さんが渋る。
理由はなんとなく理解できた。
しかし轟さんは首を横に振る。
「正直、もう明墨さんの攻撃は必要ありません。より範囲を広げて攻撃できるわたくし一人で十分です」
「僕もいるよ~。攻撃くらいできるよ~たぶん」
遠くでは手を振りながら天上さんが主張する。
が、轟さんは平気で無視して話を続ける。
「明墨さんの攻撃が本当に生きるのは、ああいう回避のしにくい敵でしょうからね。それに……あちらのゲートのことが気になりますわ」
じろりと轟さんは遠くに見えるゲートを睨んだ。
その意見には俺も紅さんも同意する。
「……そうね。急に出てきた追加のモンスター。あまり強くないS級のボス。おまけに、新種が出てきたり共食いをしたり……あたしも気になるわ」
「でしょう? その調査にお二人で向かわれてください。わたくしと花之宮さんでここは死守します」
「だから僕もいるよ~」
「……わかったわ。何も問題なかったらすぐに戻るから、精々負けないように頑張りなさい」
「わたくしが負けるわけありません」
紅さんの言葉に、くすくすと轟さんは笑った。
なんだかんだ二人の間には信頼のようなものがあるように見えた。
俺も覚悟を決める。
轟さんが言うように、防御能力が下がったいまのドラゴンに対して、攻撃のヒット数が少ない俺はあまり役に立たない。
より攻撃範囲の広い轟さんこそが適任だろう。
あと、ずっと手を振ってる天上さんにも少しは反応してあげて……。
花之宮さんも、
「頑張ってくださいね、お二人とも。応援してます」
と言って天上さんをスルーしていた。
「任せなさい! あたしと庵がいれば楽勝よ楽勝!」
そう言った紅さんに腕を掴まれる。
彼女は勢いよく跳躍した。
常人離れした身体能力により、一足で増援にやってきたモンスターたちの前に着地する。
「さあ庵……ここからは自由に攻撃可能よ。幸いにも攻撃範囲には自信あるし、派手にいくわよ? 続きなさい」
「りょ、了解です」
紅さんは見るからにやる気を出していた。
さっきまでドラゴンにかわされ続けたこともあり、意外と表情には出していなかったがフラストレーションが溜まっていたのかな?
……いや、普通に表情に出てたわ。態度にも。
何度も汚い暴言を聞いていたので間違いない。
その怒りを目の前のモンスターたちにぶつけるらしい。
「————
紅さんの全身から膨大な量の魔力が練り上げられる。
近くにいると肌が震えるほどの魔力量だ。
ドラゴンに対して行っていた攻撃は、どうやら全力ではなかったらしい。
どんどん魔力が上昇していく。まさに竜を彷彿とさせるような……それ以上の魔力総量だった。
俺もそれなりに魔力は多い。俺の場合はそこから魔力を凝縮し制御することで威力を底上げしている。
が、紅さんの場合は制御しない。ただ暴力の化身のように魔力を撃ちだすだけだ。
威力は俺より下がるものの、圧倒的な攻撃範囲を誇る。
朱色の閃光が煌く。
紅さんを基点に炎が噴射した。
横幅数十メートルが赤く染まり、前方へ波のように炎が殺到。
こちらに迫っていたモンスターたちを一瞬にして灰にした。
これこそがあらゆるモンスターを消し炭してきたという〝灰燼〟の紅神楽。
あまりのエネルギーに、鎧越しでも熱を感じた。
素直にすごいと思う。
が、俺も負けていられない。お金をもらう分、しっかり働かねば。
「————魔剣グラム」
闇を凝縮したひと振りの剣。
それを横に薙ぐ。
炎が止んだ瞬間に走り出したモンスターたちを、その一撃で軽々と粉砕した。
斬られた個体は、吸収、崩壊を起こして絶命する。
いまの俺たちの攻撃でかなりの数のモンスターが減った。
隣に並ぶ紅さんも満足げに笑う。
「うんうん、やっぱり殲滅って最高ね。気分あげあげよ」
「あげあげって……」
その表現は古くありませんか?
その後も俺たちの攻撃は続く。背後でも絶賛、二つの色の雷が衝突し合っていた。
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