第43話 黒騎士、優勢になる

 空が光った。


 同時に俺が漆黒の剣を振る。


 なるべく周りに被害が出ないよう配慮した結果、黒魔法で作られた魔剣グラムを縦に振る。


 空から雷が落ちて、俺の剣とぶつかった。


 わずかに勢いが落ちる。


 しかし、魔剣グラムは物質の吸収能力を持っている。


 ドラゴンが落としたと思われる雷の攻撃を打ち消し、再びドラゴンのもとへ迫った。


 すると今度は、周りに浮かぶ轟さんの雷に向かって落雷がぶつかる。


 轟音を立てて黒き雷が吹き飛ぶ。


 衝撃でわずかに剣の軌道がズレた。ドラゴンも翼を動かして横に転がる。


 空中戦においてドラゴンの機動力は凄まじい。


 直前まで当たる、と思っていた俺の攻撃を避けやがった。


 あの体勢からかわすとなると、普通のモンスターには不可能だ。


 翼があり、高い機動力を持つドラゴンだからこそ可能だった。


 俺の魔剣グラムが、虚しく空気を切り裂く。


「あのトカゲ……なかなか面白い真似してくれるじゃない」


「わたくしの攻撃を利用されましたか。同じ雷使いとして面白いですわね」


 紅さんがぎりぎりと奥歯を鳴らし、轟さんがパチパチと拍手する。


「ぜんぜん面白くないわよ! あんたのせいで庵の攻撃が避けられたじゃない!」


「勝手にわたくしのせいにしないでくれます? 最初からわたくしの目的はサポート。あのドラゴンの動きを一時的に封じたのですから役目は果たしました」


「避けられたじゃない!」


「そこまで責任は持てません!」


 ぎゃあぎゃあ、と目の前で再び喧嘩を始める二人。


 その間にもドラゴンは体勢を整えて攻撃を行う。


「まあまあ、冷静に戦いを進めましょう、お二人とも」


 ゴゴゴゴゴ。


 地面が激しく揺れた。


 そう思ったときには、土を壊して巨大な木……? が現れた。


 複数の大木が俺たちの周りを覆い、ドラゴンの雷を防ぐ。


 これは黄属性の魔力。


 隣を見ると、清楚な顔で笑う花之宮さんの姿があった。


「守りは私と天上さんに任せてください」


「え? 僕も?」


「三人は攻撃を。サポートします」


「え? 僕が?」


 ニコニコ笑顔の花之宮さんと違って、あんまり乗り気じゃない天上さんは困惑していた。


「いやぁ……僕、あのドラゴンに対してはあんまり役に立たないと思うよ? 水も相性悪いだろうしね」


「なんとかしてください」


 バッサリ天上さんの言葉を両断する花之宮さん。


 声が冷たかった。


 天上さんもそれ以上は何も言えない。


「……ま、春姫がそう言うなら頑張りますか」


「わたくしは最初から最善を尽くしています。お任せください」


「庵もとにかく攻撃しなさい。ガンガン魔力をぶち込んであのトカゲを殺すわよ」


「了解」


 やや乱暴な物言いに、注意するでもなく俺は頷いた。


 炎と雷が中空を走る。


 ドラゴンが機敏な動きでそれをかわしながら戦闘が繰り返される。


 正直、S級ゲートのボスにしてはそこまでの脅威を感じなかった。


 その証拠に、攻撃を繰り返していく内に変化が起こる。


「——やった!」


 紅さんの呟きのあと、ドラゴンの腕が斬れる。


 隙なく紅さんたちが攻撃してくれたおかげで、ようやく俺の魔剣がドラゴンに届いた。


 腕の一本を斬り落としただけだが、それでも十分な進歩である。


「今のうちにどんどん攻めるわよ、紫音! あたしに続きなさい!」


「わたくしに命令しないでくださる? 明墨さんならともかく、あなたに従う義理はありません」


「なんでよ!?」


 喧嘩しながらも二人の攻撃は続く。


 嵐のようにドラゴンを挟み、空中移動するドラゴンを雷と炎が追いかける。


 俺はその攻撃によって生まれた隙を狙うパターンだ。


 ドラゴンの攻撃は、さっきからすべて花之宮さんと天上さんが防いでくれている。


 おかげで攻撃にのみ集中できた。


「キエエエエエ!」


 バリバリバリ!


 何度目かの落雷が視界を覆う。


 さっき黒騎士モードに入ったからドラゴンの攻撃も防げるだろうが、その雷が俺のもとに届くことはなかった。


 数メートル先で花之宮さんの操る木々に防がれる。


 あの木は黄魔法で生まれた特別製だ。ただの木ではない。


 ドラゴンの雷を防げるし、決して燃えたりしない。


 頑丈な盾だ。さすが防衛において日本最高と言われる花之宮さん。


 俺はただその隙間から剣を振るだけでいい。


 ——今度は尻尾を斬り裂いた。


 夥しいほどの鮮血が周囲に撒き散らされる。


「なんだかんだ余裕で倒せそうね。地味だけどこんなもんか」


 紅さんが炎を放ちながらそう呟いた。


 タイミングよく、無線が入る。


『緊急事態発生。緊急事態発生! ゲートから大量のモンスターの反応あり! 増援です! 注意してください!』


「はぁ!? なんでこんなタイミングで……」


 全員の視線がゲートのほうへ向く。


 ゲートの中から、これまで見たこともないモンスターが姿を見せていた。徐々にその数を増やしながらこちらに向かってくる。

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