第41話 黒騎士、遭遇する

 ピッ。


 剣さんと繋がっていた電話を紅さんが切る。


 懐にスマホをしまい、こちらを向いた。


「……どう思う、庵」


 シンプルな質問だ。


 何がですか、——とは言わない。さすがにこの流れなら彼女が何を訊ねているのかくらいわかる。


「そうですね……やっぱり情報が少ないかと。いまのところ、剣さんが言った多重ゲートの件が有力候補ですが、それももっと情報を集めないとハッキリとは」


「ってことは、このまま任務は続行ね。他のギルドマスターの連中も向かってはいるし、ゲートまで走るわよ庵」


「了解です」


 再び俺と紅さんは走り出す。


 お互いに胸中に浮かんだ不安を、明確な言葉にはしなかった。


 進化するモンスター。共食い。多重ゲート……。


 気になることだらけで正確に情報は掴めないものの、一種の確信のようなものがあった。


 それは、俺たちが求める答えがゲートの中にある、ということ。


 その答えを求めて俺も紅さんも走る。


 その結果は果たして……。




 ▼△▼




 道中、俺と紅さんの前には複数のモンスターが立ち塞がった。


 中には、ただの強化個体ではない異形種もまぎれこんでいる。


「なにあれ……キモッ」


「融合……というより適合に失敗した感じですかね? あれは俺が処理しましょうか?」


「平気よ。気持ち悪いけど触れずに燃やして灰にするわ」


 そう言うと、紅さんは手のひらから炎を噴射した。


 眼前にいるヘドロ状のモンスターを焼き尽くす。


 ゲートに近づくにつれて、おかしなモンスターが現れだした。


 最初の合成されたモンスターや四足獣のようなモンスターはまだ可愛いほうだった。


 いましがた燃やされたモンスターなんて、ドロドロの液体……まるでスライムのように姿・形が変形している。


 体の端に爪が出ていたり、瞳が複数ぎょろぎょろしていたりと、恐らく最初に遭遇したあの合成種の慣れの果てと見るべきだろう。


 それはつまり、共食いが頻繁に行われていることを差している。


「こんな調子で他のメンバーの人は大丈夫ですかね? 明らかに情報より強いですよ、モンスター」


「数だけは多いから大丈夫でしょ。それに、いざって時のために幹部が三人もいる。他のギルドのほうでもそこまで被害報告はない。たとえ多少の犠牲が出ても、こんな気持ちの悪いゲートは閉じるに限るわ」


「……そうですね。愚問でした」


 幹部のメンバーはみな強い。


 あまり認めたくはないが、あの火口だって相当な実力者ではあった。


 仲間を信じるのもまたゲート攻略戦では大事なこと。


 余計な思考は頭の片隅に追いやり、俺は俺のできることを考えた。


「さあ、地図の情報とゲートの位置が正確ならそろそろ閻魔殿のそばよ。他のギルドマスターもほとんど同じくらいの位置にいるし、気合入れなさい。本当の戦いはここからよ」


「はい!」


 言われた通り再び気合を入れなおす。


 ゲートまであともう少しだった。


 ゲートさえ閉じれば、この地獄は終わる。彼女が言ったように俺はただ勝利することだけを考えた。




 ▼△▼




 そこからしばらく走ると、遠目でもわかるほど大きなゲートを見つけた。


 空間にできた縦の穴。歪み、切り裂かれたように見える。あれがゲートだ。


「——あら、遅かったですわね、神楽」


「げっ! 紫音……」


 ゲートの近くに到着すると、すでにそこには魔女っぽい服装の女性・轟紫音さんがいた。


 わかりやすく紅さんは表情を歪める。


「どうやら私が一番乗りですね。うふふ、残念で・し・た」


「うがあああ! うるさ————い!!」


 轟さんの挑発に簡単に乗っかる紅さん。


 ゲートの前だっていうのに、ガミガミと暴言を吐きあって喧嘩を始める。


 そこへ、残りの二人もやってきた。


「お待たせして申し訳ございません。お二人ともお早いですね」


「おやおや? 僕は花之宮ちゃんと同着かな? これは運命だとは思わないかい?」


「思いませんね」


 遅れてやってきた二人。その内のひとり、天上さんのラブコールをバッサリと花之宮さんは切り裂いた。


 相変わらずニコニコしてるのに口調は鋭い。


 もはや天上さんの顔すら見ていなかった。


「ほ、ほら紅さん! 天上さんと花之宮さんも来ましたよ。喧嘩してないで準備してください」


「がるるる! コイツが悪い!」


「そんな子供じゃないんだから……」


 ビシッと轟さんの顔を指差す紅さんが、小学生くらいの男子に見えた。


 誰が悪いとかそういう問題じゃない。喧嘩を止めろと俺は言ってるんだ。


「せめて喧嘩はゲートを攻略してからやってください。剣さんに怒られますよ、あとで」


「くっ……覚えておきなさい、紫音! あとでボコボコにしてやるわ」


「それはこちらの台詞です。精々、モンスターに虐められないように注意するんですわね!」


 喧嘩はやめろって言ってるのに、二人の間の火花は収まらない。


 俺が再び口を開いて仲裁しようとした——そのとき。


 僕の言葉より先に、大きな大きな咆哮が響く。


「ッ」


 全員の視線がゲートのほうへ向けられた。


 遅れて、ゲートの中から一匹のモンスターが現れる。それは……事前に聞いていたとおりの外見をした、——巨大なドラゴン。




———————————

あとがき。


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