第40話 深まる疑問
S級ゲート閻魔殿を目指して千葉県を突っ切る俺と紅さん。
徐々にそこかしこで新種の目撃や、強化されたモンスターの報告が入る。
俺たちが知ってるダンジョンとは違った法則に、俺も紅さんも嫌な予感がした。
そしてその予感は現実のものとなる。
「——ったく……気持ち悪いわね、コイツら」
炎をまとった拳で次から次へとモンスターを駆逐していった紅さん。彼女は吐き捨てるように言った。
俺もモンスターを討伐しながら彼女の意見に同意する。
「ですね……まさかモンスター同士で共食いをしているなんて」
あんな光景、俺は初めて見た。
基本的にモンスターはモンスター同士が仲間だ。人間と同じ。
共食いは一種の禁忌であり、知能の低いモンスターであろうとそれは行わないとばかり思っていたが……その常識は、あっさりと覆された。
「けど、どうして共食いを?」
「それは……やっぱり空腹だったからなんじゃ?」
紅さんの疑問にありきたりな返事を返す。
しかし彼女は首を横に振った。
「モンスターは食事を必要としないはずよ。娯楽で人間を食べることはあっても、これまで一度も共食いの報告はされていない。それが、どうして今になって……」
「……食べるように命令されたから?」
「誰に? この閻魔殿のゲートを治めるのはドラゴンよ? ドラゴンにそんな知能があるかしら」
「可能性は高いかと。相手は異世界のモンスター。知能が高いモンスターがいても何らおかしくありません」
あくまでこれは俺たちの常識での話だ。異世界にそんな法則が通用するとは思えない。
事実、ゲートやモンスター、ダンジョンなんて不思議なものがあるくらいだ。未知の生命体がいてもぜんぜんおかしくない。
「……たしかにそうね。常識に囚われすぎていたわ。でも、剣さんからはボスのドラゴンが知的な行動をしたなんて報告は受けていない……ちょっと話してみるわ」
そう言うと、彼女は無線ではなくスマホの電源をつけて電話をかける。
相手はもちろん剣会長だ。
わざわざ俺にも聞こえるようにスピーカーに変更する。
少しして剣さんが電話に出た。
『もしもし。紅か? いまはゲートの攻略中だろう。なにをしている』
「爺に聞きたいことがあんのよ。いいからサクッと答えてちょうだい」
『私に聞きたいこと? なにかね』
「爺が過去に戦ったっていう閻魔殿のドラゴン。あれ、知能が高かったりした?」
『なに? ドラゴン? どうして急にそんな話を……』
いきなりな質問に、あきらかに剣さんの困惑の声が聞こえた。無理もない。紅さん、何も説明してないからな……。
「たったいま、共食いするモンスターがいたのよ。閻魔殿から出てきたモンスターがね」
『——共食い!? どういうことだ!』
「こっちが聞きたいわよ! だからわざわざ爺に電話したんでしょ! モンスターが共食いするなんてことありえるの?」
『いや……私も知らない。これまでにそんな報告は受け取っていない。事実なのか?』
「また見つけたら動画でも撮影してあげるわよ。それより、共食いの件で他にも聞きたいことがあるの。というか、それが最初の質問に繋がるんだけど」
『なにかね』
「今の爺の反応を見ればわかる。やっぱり共食いは異常事態だってね。その上で、あたしと庵はひとつの仮説を立てた。仮説っていうか、ただの想像のひとつに過ぎないけどね」
一拍置いて、紅さんは続けた。
剣さんは静かに紅さんの話を聞いている。
「もしも……もしもモンスターたちを共食いさせてるのが、何者かの指示だとしたら? それはゲートを治めるドラゴンに他ならないわ」
『……なるほどな。お前がわざわざ電話をかけてきた理由がわかった。当時戦った私にそれを聞こうということか』
「そゆこと。で、どうなの?」
『ふむ……答えを出すなら否だ。私が戦ったドラゴンにそこまで知性は感じなかった。本能で動く獣だと思われる』
「ふーん……ならこの仮説は外れね。ただモンスターたちが進化しているってことかしら」
『新種や強化されたモンスターの話はすでに聞いている。そのことを踏まえて、その原因が共食いにあるのなら……もしかすると、ドラゴン以外にも強力な個体がいる可能性が出てくる』
「……は? どういうことよ」
急に話がきな臭い感じになってきた。
ぴくりと紅さんも強い反応を示す。だが、俺も彼女も落ち着いてはいた。その考えに至らなかったわけではない。
『これまでの報告といまの紅の意見を合わせてみると、ゲートから出てきたモンスターが多すぎる。おまけに異常事態だ。すべての過程に繋がる結論として、多重のゲートが開いた可能性……もしくは、新たなボスのような存在が現れたと考えてもおかしくはないだろう?』
「多重……ゲート」
なるほどその発想はなかった。だが、ありえない話じゃない。
ゲートが異世界と地球を繋げる扉なら、それを自在に相手が操れても不思議じゃない。その上で、閻魔殿に起きてる状況の説明にもなる。
俺も紅さんもさらなる嫌な予感を抱き、その後、少し話して剣さんとの電話は切った。
もしかすると……状況は思った以上に悪いのかもしれない。
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あとがき。
驚くことに本作も50万PVを迎えました!
皆様ありがとうございます!
今後も本作をよろしくお願い致します!
あ、新作もよかったら応援してくださいね〜
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