第39話 黒騎士、最悪を知る
休んでいた冒険者たちの下に、複数のモンスターが押し寄せてくる。
どたどたと足音を鳴らしてきたのは……。
「な……なんだ、コイツら!」
先頭にいた大剣使いのリーダーは、現れたモンスターを見て驚愕した。
それは、先ほどまで倒していたモンスターとは違う。姿・形は似ていたが、大きさがまず違った。
従来のモンスターが二メートルほどの人型であるのに対して、新たに現れたモンスターは三メートルほどまで背丈が伸びていた。
おまけに顔も、様々な生き物の血が混ざったとしか思えない複雑な特徴を示している。
形容できる動物や人間がいるわけではないため、その場にいた冒険者の誰もが異様な空気に呑まれる。
まるでホラー映画でも見ているかのような気分だった。
「気持ち悪い……エイリアンか何かなの?」
「犬みたいな奴もいるぞ。四足歩行のタイプなんて初めて見るな……注意しろ!」
「了解!」
それなりに場数を踏んでいる彼らは、たとえ相手が新種の、情報がないモンスターでも狼狽えたりはしなかった。
キリっとした表情を浮かべて武器を構える。
対するモンスターのほうも、地面を蹴って勢いよく冒険者たちに迫る。
戦闘が始まった。
▼
「ぐあっ!?」
戦闘が始まって早十分。
タンクでもありダメージディーラーでもある大剣使いのリーダーが、モンスターの突進を喰らって吹き飛ぶ。
「リーダー! くそっ! 魔法で距離稼ぐぞ!」
「遠距離攻撃回して!」
弓を持った仲間が。杖を持った仲間が、それぞれ攻撃を仕掛ける。
モンスターは炎を見ると動きを止めた。ジリジリと下がりつつリーダーを仲間のひとりが起こす。
「大丈夫ですか、リーダー!」
「あ、ああ……なんとかな」
リーダーの男性は無事だった。治癒系の魔法を使ってもらい、よろよろと立ち上がる。
「全員、よく聞け。コイツらは強い。下手すると俺たちでも勝てない可能性がある。ここは他の冒険者と合流すべきだろう。撤退優先! 足止めをしながら距離を稼ぐぞ!」
「了解!」
彼らの撤退戦が始まる。
素早い判断は有能な指揮官には必須の条件。これまで何度もリーダーに救われてきた彼ら彼女らは、大人しく大剣使いの意見に従った。
それだけ目の前のモンスターが強いということ。
後ろに走りながら、リーダーの男性は呟いた。
「クソッ……なんなんだ、アイツらは」
モンスターが追いかけてくる。
▼
「……チッ」
俺の前を走る紅さんが、唐突に舌打ちをした。
今しがた無線で届いた情報が原因だろう。明らかに彼女が不機嫌になる。
「まだゲート攻略戦を始めて数時間しか経ってないのに、もう新種と他のメンバーたちがぶつかったの? どうなってるのよ、今回のゲート!」
——そう。今しがた入ってきた情報というのは、俺たちが戦ったような新種の発見報告だ。それもギルドマスターたちからじゃない。雑魚を殲滅するために参加したほかの冒険者からの報告だった。
それはつまり、ゲートに近付くほど新種が増えるのではなく……ゲートから出てきたモンスターが成長を遂げている、と考えるほうがより自然になったということ。
ゲートから新たに新種が出てきているのなら、普通、遭遇するのは近付いている俺たちだ。一番遠いところにいる冒険者たちじゃない。
「問題なのは、モンスターがどうやって進化しているのかですね。警備担当の冒険者が死亡したという報告は?」
「ゼロじゃないけど、ほとんど少数よ。目的が撃退だから誰も無理をしないし」
「ですよね……だとしたら、他に強くなる要因は……」
パッと考えられるのは二つ。
ひとつは、彼らモンスターが時間の経過と共に進化してるパターン。
地球に生息する昆虫や魚だって日々成長してるくらいだ。異世界産のモンスターともなれば、その成長速度は測りしれない。可能性はかなり高いだろう。
そしてもうひとつは……あまり考えたくはないが——。
「庵」
「っ」
思考の途中で急に紅さんが足を止めた。
指差しで前方を示す。
続けて発せられた声は、やや震えているようにも聞こえた。
「あれ……何してると思う?」
「あれ?」
彼女が示したほうへ視線を送る。
するとそこには、俺の最悪な想像が形になっていた。
モンスターがモンスターを食べている。
「……共食い」
間違いない。モンスターの死骸を食べているように見える。
「そうよね。やっぱりあれ、共食いってやつよね?」
「謎が解けましたね。閻魔殿から出てきたモンスターが強くなったのは……あれが原因かと」
「最悪だわ……まさかモンスター同士が食べあって成長していただなんて……軽く悪夢ね」
「生き物が生き物を食べるのは当然の摂理かと。それはモンスターであっても変わりませんね」
人間や動物も肉を食べる。虫や魚だって他の虫や魚を食べる。生き物とはそういうものだ。
「今後はもっと注意する必要がありそうだわ」
そう言って紅さんは拳に赤い魔力を集めた。
異形の怪物がこちらに気付く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます