第37話 S級ゲート攻略戦
天照のメンバーたちを乗せたバスが、封鎖されている千葉県近郊に到着する。
地面に打ち付けるように設置された壁が、S級ゲートの被害を現していた。
「ここが……かつて千葉県と呼ばれていた場所か」
今では閻魔殿と言われるほうが増えた。昔はそれなりに人気の場所だったらしい。
観光スポットもあり、平日・休日問わず賑やかだったとか。
しかし、今やその影はない。
壁で向こう側は何も見えず、漂ってくる空気も悪かった。
肌で感じる。ここから先は生半可な覚悟では通れないと。
「総員、バスを降りたら素早く準備を済ませなさい。他のギルドのメンバーが配置に着いたら行動を始めるわよ」
「了解!」
ギルドマスター紅神楽の指示を聞いて、その場に集まった全冒険者が大きな声を出す。
普段はおちゃらけている幹部のメンバーも、その表情は全員が真剣だった。
「最初に言った通り、一般メンバーは扇状に広がりながら進行。先頭は幹部が務める。強敵が出てきたら無線で知らせなさい。時間稼ぎをメインに、幹部の到着を待つの」
「ハッ!」
誰も彼女の指示に異論は挟まない。
「日高たちも絶対に三人で行動すること。多少の犠牲には目を瞑りなさい。今日はそういう任務よ」
「ええ、解っています。より多くの仲間を救うためにも勝手な行動はしません」
幹部のリーダー日高さんが、紅さんの指示に頷く。
そして最後に紅さんの視線は俺に向けられた。
「庵はあたしと一緒に行動。場合によっては単独でモンスターと戦ってもらうけどいけそう?」
「よほどの強敵でなければ問題ありません。頑張ります」
「その心意気やよし! 期待してるわよ、ルーキーッ!」
「ッ!?」
カツカツと靴音を鳴らして僕に近付いてきたと思ったら、ぐいっと背中を押されたあとにまた叩かれた。
それ、する必要ありますかね!?
俺の抗議の視線を無視して、紅さんはバスから降りる。順番に幹部を先頭に他のメンバーたちもバスを降りた。
素早く全員が装備をまとめ、指示された通りに広がっていく。
「さあ……まもなく作戦開始よ」
▼
現地に着いて三十分。
紅さんが予想したとおりに作戦開始の合図が下りた。
ほぼ同時に、四つのギルドのメンバーが封鎖された千葉県に突入していく。
一番前を走るのは俺と紅さんだ。他の幹部たちに別れを告げてどんどん先を目指す。
「んー……この空気、初めて感じるわ」
千葉県の一角を走りながら紅さんがそう呟いた。
まだモンスターは出てきていないから雑談タイムらしい。
「もしかして、紅さんもS級ゲートに挑むのは初めてなんですか?」
「そうよ。一応、あたしが特級冒険者になったのは最近だしね」
「ああ……たしか最年少でしたっけ」
「ふふん。まあね。正直、庵がその記録を塗り替えそうで気が気じゃないわ」
「俺は別に特級冒険者の肩書きなんていりませんよ。評価されているのは黒魔法でしょうし」
「相変わらず白魔法が大好きなのね。変な子」
「変って……」
酷い言い草だ。
紅さんだって結構変わってる人だと思うが、俺はそんな人から見ても変人に入るのか?
特級冒険者の大半は変人だし、まさか俺も……いやまさかね。
同じ括りにされたくはなかった。
「——ん? そろそろモンスターの気配が近いわね」
「え? 紅さんってモンスターの気配とか解るんですか?」
「ある程度近かったらね」
「す、すごっ……」
彼女は野生の動物かなにかか? 俺は彼女と違ってそういうのはぜんぜん解らない。
外れている可能性も考慮して半信半疑だったが、少しして数体のモンスターと遭遇する。
「本当にいたよ……紅さん凄いですね」
「それほどでもないわ。悔しいけど、こういうのは世界樹の春姫のほうが上よ。あの子、数百メートル単位で索敵とかできるし」
「数百!?」
それはまた……規格外の能力だな。
「それより、さっさとコイツらを蹴散らして先に進むわよ! 時間が惜しいわ!」
「他のギルドマスターたちもゲートに向かっていますしね」
「そうそう。あたしらが最後だったら、紫音の奴になんて言われるか……」
「そこは仲良くしましょうよ……」
「アイツと仲良くするなんて無理! 無理無理!」
叫びながら紅さんはモンスターのほうへ突撃していった。
拳に炎をまとわせて次々にモンスターを殴り飛ばす。
俺が参加する暇もなく、紅さんが全部倒してしまった。
「ほら庵! さっさと行くわよ! あのバカ紫音より先にゲートに着かないと!」
「そういう競争じゃありませんよ……っと」
言いながらも走り出した彼女の背中を追いかける。
さっきより走る速度が速いように見える。本気で対抗心燃やしてるなぁ、この人。
まあ、紅さんの場合はそっちのほうが調子いいみたいだし、ほどほどに見守っておこう。
モンスターを瞬殺しながら進む彼女を見て、俺はそう思った。
———————————
あとがき。
皆様!反面教師の新作異世界ファンタジーをよろしくお願いします!
清き一票を!
(選挙っぽい)
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