第29話 掲示板【悲報】黒騎士と東雲千の熱愛

 庵が千とデートしたその日。


 インターネット上では、とある写真が拡散されていた。


 それは、明墨庵と東雲千のツーショット写真だった。


 顔にモザイク処理をかけてすらいない、完全なる盗撮。それが凄まじい勢いで掲示板やSNSを介して広がっていく。


 それぞれのサイトで、ファンたちがヒートアップしていた。


 まずはSNS。




【千ちゃんと黒騎士が一緒にデートしてるっぽい写真を見たけど、あれって本当なの?】


【俺は実際にこの目で見た。仲よさそうに見えたぞ】


【う、嘘だああああ! 俺の千ちゃんがああああ!】


【ユニコーン勢が発狂してる件。今どきアイドルの恋愛だって珍しくもないのに】


【それは裏で恋愛してるってことだろ? さすがに表沙汰になるのはまずくね?】


【でも千ちゃんはそもそも、アイドルとして活動してるわけじゃないし……俺も悲しいけど彼女が選んだ相手なら許す!】


【そういや動画も拡散されてたな。千ちゃんに絡む害悪ファンを撃退する黒騎士くん】


【黒騎士って誠意ありそうだし、俺は納得。彼になら千ちゃんを任せられる】


【俺は納得できねぇよ! 千ちゃんは俺たちのアイドルなのに……】


【いい加減現実見ろって。配信追い続けたら好きな相手と付き合えるわけじゃないんだぞ】


【俺らには俺らの生活があって、配信者には配信者の生活がある。しょうがない】


【お前ら意外と物分りいいのな。まだ付き合ってると決まったわけじゃないのに】


【写真や動画を見るかぎり、千ちゃんのほうは黒騎士くんに惚れてるっぽい?】


【少なくとも黒騎士くん側に好意があるかは不明。まさかの千ちゃんの片想い?】


【だとしたらなんだ、俺も強くなれば彼女に振り向いてもらえる!?】


【よっしゃ今すぐ冒険者になるぞ! 急げえええ!】


【冒険者は覚醒者しかなれない←】


【ぐああああああ! どうして俺には魔力がないんだああああ】


【黒騎士くんのファンです……黒騎士と千ちゃんの恋愛に反対!】


【黒騎士くんのファンもいるのか。しかも反対してるし】


【まあ有名人同士が付き合うのはよくあることだけど、一定のファンはショックあるわな】


【俺も黒騎士になりたい人生だった……】




 リプや引用リツイート、それらしい発言が飛び交う。


 噂が噂を呼び、人によってはすでに黒騎士と東雲千が付き合っている……と誤解する者までいた。


 他にも有名掲示板の一角には、今回の件を見たファンの一部が似たようなスレを乱立させていた。




【黒騎士と有名ダンジョン配信者・東雲千の熱愛】




0001 ただの名無しさん :

「SNSでバンバン拡散されてる写真ってマジ?」


0002 ただの名無しさん :

「マジマジ。何人も実際に見た人が湧いてる」


0003 ただの名無しさん :

「どうせいつもの決め付けだろ。まずは証拠をだな……」


0004 ただの名無しさん :

「その証拠に写真と動画をアップしたんだろ?」


0005 ただの名無しさん :

「俺も見たけど、あれはただのデートしてるかどうかのやつじゃん。付き合ってるってわけじゃない」


0006 ただの名無しさん :

「たしかに付き合ってるかどうかは判らないけど、少なくともデートしてたのは確定っぽい」


0007 ただの名無しさん :

「どゆこと?」


0008 ただの名無しさん :

「遠巻きに黒騎士くんたちを追いかけたファンがいたらしい。そいつ曰く、二人は楽しそうに談笑しながら食事をしてたとか」


0009 ただの名無しさん :

「ほーん。まあ若い男女だしな。別に恋愛くらいよくね?」


0010 ただの名無しさん :

「たしかどっちも学生のはず。青春だなぁ」


0011 ただの名無しさん :

「いやいやダメダメ。千ちゃんは俺らのアイドルだぞ!」


0012 ただの名無しさん :

「うわ出たよ童貞。お前ら夢見すぎな」


0013 ただの名無しさん :

「コイツSNSでも文句垂れてた奴だろどうせ。うるせぇからシコって寝ろ」


0014 ただの名無しさん :

「お前らに俺のなにが解る! 初配信の頃から追っかけてきた古参の気持ちがあああ!」


0015 ただの名無しさん :

「ガチもんのファンじゃん。けど現実見ろ。いくら頑張っても付き合えるはずないから」


0016 ただの名無しさん :

「鋭いナイフが飛んでて草。もっと優しく慰めてやれ」


0017 ただの名無しさん :

「優しさをインターネットに求めるとかガキかよ。不特定多数がいるような世界でそんなもん期待すんな」


0018 ただの名無しさん :

「まあそれは置いといて、千ちゃんのことよ。どう思う? 正直」


0019 ただの名無しさん :

「正直残念ではあるけど、まあそういうものだと割り切れるね俺は」


0020 ただの名無しさん :

「まあ子供だし、今どき恋愛くらい普通だよなぁ。アイドル営業してるならまだしも、彼女は普通にダンジョン攻略してるだけじゃん。ファンが勝手に夢見てるだけ」


0021 ただの名無しさん :

「ということでユニコーンくんは気持ち悪いので、綺麗サッパリ忘れて頑張れ!」


0022 ただの名無しさん :

「言い方キツすぎ。でもこれまで通り推すか離れるかはさっさと決めたほうがいい。またいい出会いがあるさ」


0023 ただの名無しさん :

「あー、俺も可愛い子と付き合いてぇ」




 その日の夜は、ファンたちによる盛り上がりがピークに達した。


 熱しやすく冷めやすい。そんなインターネットの特色が色濃く出ていた。


 しかし、実はこの掲示板を見ているのは一般人やファンだけじゃない。


「…………ふへへ」


 話題の渦中にいる本人も、たまに眺めることがある。


 東雲千本人が。

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