第28話 黒騎士、探してみる

 ぽろっと、思わず東雲さんにS級ゲート攻略に参加することを教えてしまった。


 一応、S級ゲートの攻略はすでに告知してある。日本中の人間が知ってることだ。


 紅さんからも口止めはされていない。


 だが、案の定東雲さんは、僕が参加することに難色を示していた。


 かつて多くの犠牲者を生み出し、千葉県を地獄に変えた最悪のゲート閻魔殿。


 その恐ろしさを知っているからこそ、彼女は知り合いが死地に赴くのを黙って肯定できない。


 かと言って、よそのギルドのメンバーに「行かないでほしい」とは言えず、最終的には、


「その……無事に帰ってきてくださいね?」


 という言葉に落ち着いた。


 僕はハッキリと頷く。


 笑みを浮かべて答えた。


「もちろんです。東雲さんは僕の強さをご存知でしょう? これでも防御力には自信があるので、いざとなったら仲間を連れて逃げますよ。それくらいは余裕です」


 無駄に元気に、問題ないアピールをする。


 信用してるかは解らないが、彼女はくすりと笑った。


「ふふ……でしたら、ゲートから帰ったらまたデートしてくださいね? 今度は明墨さんのおすすめのお店に案内してください」


「えっと……これってデートなんですよね?」


「え? 男女が出かけるならそれはデートなんじゃあ……っ!」


 みるみる内に東雲さんの顔が真っ赤に染まった。


「わ、わた……私、ずっとこれがデートだとばかりに……~~~~! ごめんなさい! 勘違いして調子に乗って!」


「ああいや! 僕なんかがデートの相手でよかったかなぁって思っただけで、決して東雲さんとデートがしたくないわけじゃないですからね!? むしろ東雲さんとデートできるなんて光栄です!」


 目の前で東雲さんが恥ずかしがる姿が居た堪れなくて、思わずおかしなことを口走った。


 わずかに沈黙が流れる。


 ちらりと東雲さんのほうへ視線を向けると彼女はさらに顔を真っ赤にして呟いた。


「ほ、本当ですか……?」


「え、ええ……まあはい」


「ありがとう……ございます」


 ぺこりと頭を下げられる。僕もぺこりと頭を下げた。


「いえいえこちらこそ……?」


 なんだこの空気。


 まるで青春してるみたいで甘酸っぱい。だが、決してそんなものではないことを僕はよく知っている。


 なぜかって?


 これはあくまで、彼女が僕に助けられたことへの感謝を返しているに過ぎない。


 恩であって好意ではないのだ。


 そこを勘違いすると酷い目に遭う。


 しかし、その後も僕たちはなんだか気まずい空気のまま、お互いに照れながらぎこちない会話を交わした。


 一応、夕方までは楽しく遊んだ。


 沈黙は多かったけど、決してそれが苦しいわけではない。なんていうか……素直に居心地がよかった。


 彼女もそう思ってくれているといいな。




「結構遊びましたね。そろそろ帰らないといけないので失礼します」


「は、はいっ。今日はありがとうございました!」


 次の沈黙のときに僕から別れを切り出す。


 彼女はいまだに顔を赤くしたまま低姿勢で頭を下げる。


「こちらこそありがとうございました。また誘ってくださいね。今度はお金は出しますから」


「そ、そそ、そんな! お金くらい出すっていうか課金させてくださいっていうか……」


「え?」


「ななななな、なんでもありません!! それじゃあ! 私はこれで!」


「あっ……!」


 止める間もなく東雲さんは、最後に大きく頭を下げてから猛スピードで走り去っていった。


 その背中が一瞬にして見えなくなる。


「あ、あはは……まるで嵐みたいな人だったなぁ……」


 デートの最中はあんなに静かだったのに、終わってみると最後は東雲さんは元気だった。


 ダンジョンでもそうだったが、今日の彼女は緊張でもしていたのかな?


 実は僕も心臓バクバクだ。美少女を前にした男性の正常な反応だと言える。


 おまけに彼女はどんな話にも上手く相槌を打ってくれた。


 S級ゲートの件で心配をかけてしまったが、それでも無事に円満に解散することができた。


 僕なりに頑張ったほうじゃないかな? 冒険者になったことで精神的にも成長したのかもしれない。


「ふふっ……小さな一歩は大きな成長ってね。それにしても……」


 言いながら僕も踵を返して歩き出す。


 新宿駅を目指す傍ら、オレンジ色に染まった空を見上げた。


 わずかに遠くに紺色の闇が見える。


 この時間帯はやたら哀愁を誘う。理由はわからない。


「今日のデートは楽しかったなぁ……二度目はないだろうけど、また東雲さんとデートがしたい」


 次は僕のおすすめの店に行こうと言ってくれたが、生憎と僕が足を運んだことがある店なんて近所のカフェかラーメン屋くらいだ。


 今日行ったようなお洒落なお店なんてひとっつも知らない。


「……い、一応それっぽい店を探しておこうかな?」


 帰り道、懐から取り出したスマホで周辺の、というか東京都にあるオススメの店を検索する。




 うーん……どれもアダルティ。


 高校生が行くところではなかった。


———————————————————————

あとがき。


明日の木曜日、新作出すかもしれません!

今度は異世界ファンタジーです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る