第27話 黒騎士、口がすべる

 前回、ダンジョンで助けた東雲千さんに遊びに誘われた。


 特に断る理由がなかったのでOKする。


 そして数日後。


 東京都新宿駅の近くで待ち合わせたした僕たち。駅を出てすぐに僕を待っている東雲さんを見つけた。


 見つけたのだが……彼女のファンと思われるチャラそうな男女数名に絡まれていた。


 僕も彼女みたいに絡まれたことがあるから解る。あれってしつこいとかなりウザい。


 東雲さんの表情が困っているのでそれが解った。


 急いで彼女を助けに向かう。


 しかし、すると今度は俺の正体がバレた。


 ある意味で俺の名前はホットな情報だ。指差して女性のひとりが、「黒騎士だ黒騎士」と騒ぐ。


 その声が大きくて、周りにいる人たちにも聞こえてしまった。


 じろじろと人の視線が集まる。


 黒騎士と東雲千。自分で言うのもなんだか、人気ダンジョン配信者が二人もいると、周りの興味も凄いことになる。


 わらわらと老若男女さまざまな人が押し寄せてきた。


「千ちゃん!? 俺ファンなんです! 握手してください!」


「私も千ちゃんのファンなの! よくコメントしてるけど見てる!?」


「黒騎士おれだー! 結婚してくれー!」


「黒騎士くんなかなかいい尻をしてるじゃないか……悪くないゾっ」


 ???


 東雲さんのほうのファンは比較的まともなのに、俺のファンは頭のおかしい台詞しか聞こえてこない。


 それでいて騒いでいるのは特に東雲さんのファンだ。


 俺のそばに寄る人たちは、意外とマナーよく静かにしてる。


 一応は握手などを求めてくるがすべて無視する。


 ひとりでも受け入れると際限がなくなるからだ。周りの人たちを押しのける勢いで、僕は東雲さんを連れてそこから脱出を図った。


 これでも覚醒者だ。どれだけ一般人に囲まれようと問題なくフィジカルで勝てる。


 東雲さんの腕を引っ張りながら走った。急いで集団から離れる。


 厄介なファンたちは追ってくるが、覚醒者の足の速さには勝てない。次第に彼らの姿すら消えて——。


 十分もすると、あっけなくファンたちを撒くことに成功した。




 ▼△▼




「ハァ……ハァ……ひ、酷い目に遭いましたね……」


 結構な距離を走ったことで、僕も東雲さんも肩で息をする。


 きょろきょろと周りを何度も見渡すが、それらしい影はなかった。


 深呼吸のあと、東雲さんも返事を返す。


「た、助かりました……明墨さんのおかげで」


「いえいえ。東雲さんと遊ぶのが楽しみで早く来てよかったです」


「え?」


「え?」


 なぜか東雲さんが驚いた。その反応に僕も驚く。


「た……楽しみだったんですか?」


「それはもう。実は恥ずかしい話、普段からあまり外には出ないので。誰かと遊びに行くのも久しぶりでした」


「彼女さんとかはいないんですか?」


「いませんよ! いたらさすがに東雲さんと遊びに行けませんし、生まれてこの方、恋人どころかデートすらしたことありません……」


 自分で言ってて心を深く抉った。


 別に彼女がいなかったことが辛いとか、哀しいわけではない。


 彼女がいない寂しい奴だ、と他人に思われるのが辛い。


 今どき独身とか普通だしぃ……うんうん。


 傷付いた自らの心を、自らの優しい言葉で癒す。


「そ、それってつまり……私が……~~~~!」


「東雲さん?」


 きゃーきゃーと目の前で東雲さんが顔を横に振っていた。


 気のせいか顔が少しだけ赤い。走って疲れたのかな?


「大丈夫ですか? 疲れたならどこかお店にでも入ります?」


「……え? 疲れ? いえ、疲れてはいません。休憩したので大丈夫です!」


「そ、そうですか……じゃあ、どこかに行きましょう。行きたいところがあったら言ってくださいね。どこでも付き合いますよ」


「えっと……実は行きたい店があって」


「お店ですか? いいですね」


 結局店には行くのか。


 聞くかぎり、最初からそこに行くのが目的だったっぽいけど。


 東雲さんに案内を任せて、近くにあるお洒落な店に向かった。


 東雲さんがお洒落だと言うからハイカラなものを想像していたが、なんだか学生には似合わない高級店みたいな所に連れて来られた。


 完全に場違いで萎縮したが、すべて彼女の奢りらしいので少しだけホッとする。


 席に着くなり注文を済ませると、お互いになんとなく最近あったことを話す。


 そこでたまたまゲートの話がでたので、思わず口を滑らせてしまった。




「実はそのS級ゲートの攻略に僕も参加するんですよ」


「……えぇ!?」


 お店中に響くくらい大きな声を東雲さんが発した。


 全員の視線がこちらに向く。彼女は慌てて口を押さえてから、おずおずと僕に訊ねた。


 しっかりと声を潜めつつ。


「そ、そのお話は本当なんですか? 日本でもトップクラスに危険だと言われているゲートじゃないですか。もう一種のダンジョンと化してますよ、そこ」


「そうですね。ほら僕、天照に所属したんで。ギルドマスターからの期待には応えないと」


「それは……そうですけど……」


 東雲さんはやや浮かない表情を作る。


 しばらく無言の沈黙が続いたが、ぼそりと小さく彼女は呟いた。




「その……無事に帰ってきてくださいね?」

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