第25話 黒騎士、デートに誘われる

「……ひとまずは今日はこれくらいでいいだろう。何か問題があっても、紅と明墨くんがいれば対処できる」


 ごほん、と咳払いを一回。一番奥の席に座る剣景虎が話をまとめる。


 結構ざっくりとした作戦だったが、誰も口を挟まない。


 元より剣さんが一度は挑んだゲートの攻略だ。十年は経っている現在において、どれだけ噛もうとほとんど味はしない。


 それを他のメンバーはよく解っている。


「ん~! やっと会議は終わりだね? 俺はすぐにでも帰るよ。みんなが俺の帰りを待っているからね」


 きらっきらのウインクをかまして、ギルド円卓のギルドマスター天上輝が席を立つなり部屋を出ていった。


 もはや返事を待つ暇すらない。


 続いてその隣に座っていた轟紫音も席を立つ。


 アメジスト色の瞳がちらりと俺のほうを向いた。


「私もさっさとギルドホームに帰るわ。ここにいると暑苦しいゴリラがいて気分悪いしね」


「あ゛?」


 ごくごく自然に轟さんは紅さんを煽る。


 紅さんも紅さんですぐ挑発に乗って険悪な雰囲気が漂った。


 幸いにも近くには剣さんと花之宮さんがいる。


 二人とも、特級冒険者を敵に回すことはしない。睨みこそして拳を使った殴り合いには発展しなかった。


 ぷいっと視線を逸らして轟さんが入り口に向かう。


 扉を開ける前に一言、


「じゃあね明墨庵くん。またあなたに会いに行くわ」


 特大の爆弾を放り込んで出ていった。


 隣にいる紅さんのほうを見るのが怖い。


 ちらっ。


 般若がいた。


「ああ、あの野郎……!」


「紅さん紅さん、口調が乱暴になってますよ」


 もう轟さんはいないのだから落ち着いてほしい。


「わたくしもこれで。今日は楽しい時間を過ごせました」


 三人目の退場者は花之宮さんだ。


 恭しく頭を下げると、ゆっくりと部屋から出ていく。


 立ち去る様子も清楚だった。


「俺たちも行きましょうか。そろそろ夕食の時間ですし」


「……そうね。やることも簡単だったし、幹部の連中には後で適当に伝えておくわ」


「お願いします」


 剣さんに別れの言葉を告げて俺たちも部屋を出た。


 エレベーターを使って一階のエントランスに戻る。


 入り口の自動扉をくぐり紅さんの車で自宅まで送ってもらった。




 ▼△▼




 およそ三十分ほどで自宅に到着する。


 車を降りると紅さんが、


「今日はお疲れ様。紫音や春姫の言葉が忘れなさい。絶対に、忘れなさい」


 と忠告をしてきた。


 従順な俺は当然、


「もちろんです。俺は天照に所属してますから」


 と返す。


 彼女はそれを聞いて満足げに頷くと、最後に「それじゃあさようなら。おやすみなさい」と言って車を走らせる。


 紅さんを見送って自宅に帰った。




 ▼△▼




「ふう……今日は疲れたな」


 玄関で靴を脱いでリビングへ。


 どさっとソファに腰を落とすと、一気に疲れがやってくる。


「S級ゲート閻魔殿の攻略か……いきなり大変だなぁ」


 正式にギルドマスターから依頼を引き受けたが、最初の初陣がS級ゲートとはこれ如何に。


 普通のゲートと違って、閻魔殿はゲート内部を含めた千葉県全域が戦場だ。


 いまもあの地獄には大量のモンスターが蔓延っている。


 それこそ危険度は前に探索したダンジョンの中層をはるかに超える。


 たくさん人が死ぬ可能性もあるし、俺だって無事でいられる保障はない。


 それでも誰かの役に立てるなら頑張ろうと思えた。


 一歩、また志だけでも白騎士に迫る。


「それにしても……紅さんと轟さんがあんなに仲が悪いとは」


 いま思い出しても笑えてくる。


 帰り道、紅さんにその理由を聞いたが、なんでも紅さんと轟さんは同期らしい。同じ時期に、それも同じ日に冒険者登録をした縁で、特級冒険者に認定されたのも同じタイミングだとか。


 しかし年齢は、一歳だけ紅さんのほうが下らしい。


 それゆえに、轟さんは強いライバル心を紅さんに向けているとか。


 紅さんも紅さんで、一つ上なだけの轟さんには負けられないと頑張っている。


 そのせいで、ギルド天照とギルド夜会の仲も悪い。


 S級ゲートの攻略にはトップギルド四つが協力し合う。


 必然的に夜会と天照も一緒に戦うわけだが……ちょっとだけ不安だった。


 いくらなんでも大切な戦いに私情を挟んだりしないだろうが、一応は頭に置いておく。


 何かされたら倍にして返さないと。


 俺は仇は全力で返す派だ。




「……ん?」


 のんびりソファの上でくつろいでいると、ふいに取り出したスマホの画面に通知の知らせが届いていた。


 それに気付き、顔認証してパスワードを外すと、アプリ経由でチャットを送ってきたのは……。


「——東雲千さん?」


 俺が前に、ダンジョン探索中に偶然助けた女性ダンジョン配信者だ。


 その縁で彼女とは連絡先を交換したが……送られてきた内容を見てびっくりする。思わずスマホを落としそうになった。


 気になるその内容とは……彼女からの、のお誘いだった。


———————————————————————

あとがき。


本作を介したギフトありがとうございます!

ランキングの勢いは失速しましたが、まだまだ投稿は続けます。


皆さま今後ともよろしくお願いしますね!



ちなみに近況ノートを投稿しました!

よかったら目を通していただけると幸いです!

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