第22話 黒騎士、また強制連行される
「…………とまあそういうわけで、あたしたち天照もそのS級ゲート閻魔殿に挑むことになるわ。なにか質問や、参加が嫌だったら言ってね? 後者は聞くつもりはないけど」
「あはは~紅さんらしいや」
幹部で唯一の女性、美空朱莉さんが腹を抱えて笑う。
他のメンバーたちは誰ひとりとして笑っていない。無邪気な彼女らしいと納得しているのかそもそもS級ゲートへの不安があるのか。
ただ火口さんだけ未だ俺を睨んでいるのが気になった。いまは私情は捨てるべき場なのに。
「こらこら美空~あんまりふざけてるとあんた死ぬわよ」
「えー? 私が死ぬとかありえないんですけど。どうせメインは他のギルドのギルドマスターたちでしょ? 特級冒険者が揃えばS級ゲートの攻略も簡単ですよ」
「そう上手くいくかしら……一応前回は剣さんが挑んで負けてるし」
「あの時は剣さんも若かったじゃん。それに、特級冒険者は誰もいなかったしねぇ」
「まあね」
美空さんの反応に紅さんはこくりと頷く。
前の攻略というと多大な犠牲を払った第一回攻略戦の話か。
俺の記憶が正しければあの一件以来剣さんは前線を退いた。
そのまま今に至るまで閻魔殿は攻略されていない。
「けど油断は禁物よ。なるべくしっかり固まってモンスターを討伐するように。各ギルドの幹部はなるべく前線で戦ってもらうから」
「つまりそこの新人も一緒ってわけですか。やれやれ……お荷物を抱えて戦うのは苦手なんですがね」
ぶすっとした表情と人を馬鹿にするような声色で火口さんが口を挟む。
紅さんの瞳がわずかに細められた。
「あたしの決定に文句でもあるのかしら? 庵は強いわ。それにあなたたちとは一緒じゃないから安心して?」
「え? それはどういう……」
反応したのは火口ではなく幹部たちのリーダー的ポジションの日高さんだった。
紅さんは日高さんのほうへ視線を向けて答える。
「庵はあたしと一緒にボスを攻略するの。万が一を考えて遊撃も担当してもらうわ」
「——新人がボス討伐!? 我々をおちょくるのも大概にしてくださいギルドマスター!」
バン! と立ち上がった火口さんがテーブルを叩く。
紅さんが盛大にため息をついた。
「何度も同じことを言わないでちょうだい……あたしが二度手間を嫌うの知ってるでしょ? 庵は強い。あたしは庵ならサポートにも向いているって思った。だから連れていくの」
「黒騎士くんって攻撃以外にもいろいろできる感じぃ?」
「少なくともあなたたちよりはかなり汎用性の高い魔力を操れるわ。ウチの幹部は火力一辺倒のが多いし」
美空さんの疑問に答えつつ紅さんは火口さんを睨む。
さらに美空さんは続けた。
「いやいやいや、私と日高さんはサポート得意ですよリーダー」
「知ってるわ。だから他の幹部たちのサポートも任せるのよ。庵なら攻撃もできるしたったひとりで戦況が変えられる。都合のいい駒ね」
「こ、駒……」
俺って紅さんの駒なのか。そうか……いやギルドに所属してるなら駒という表現もあながち間違いではない?
「ぐぐぐぐ……! 本当にずいぶんとその新人を贔屓してますね。あなたらしくもない」
「贔屓する価値のある人間には贔屓だってするわよ。凡人と天才が同じ目線に立って話ができるとでも? それと同じ。あなたたち幹部にだって十分な待遇を与えているわ」
火口さんの文句はことごとく紅さんにブロックされる。
彼もまた真面目にギルドや紅さんのことを想っているんだろうが、この場に彼の味方をする人はいなかった。
美空さんたちも特にリーダーの決定に不服はない。抗議しているのは火口さんだけだ。
「そだね~もう諦めなよ火口。見苦しいだけだよ」
「黙れ美空! お前に俺のなにが……くっ!」
言いかけて火口さんは席に座る。
シーンとした空気を紅さんが手を叩いて霧散させる。
「はいはい。それじゃあ話を戻してゲートに関してね。幹部の四人は最前線でモンスターの駆逐。強力な個体が出たら優先して倒しなさい。あたしと庵は他のギルドマスターたちと一緒にボスを攻略する。ただしあたしたちはイレギュラーな要素が発生した場合の遊撃もこなすわ。柔軟に動きなさいよ庵」
「はい解りました」
俺にできることならなんでもする。
火口さんが黙ったことでその後の会議はスムーズに進んだ。
しかし、やはり彼からの視線は続く。
▼△▼
「庵ー!」
会議が終わってすぐ席を立った僕のそばに紅さんがやってくる。
「なんですか紅さん」
「このあと時間ある? 二、三時間くらい」
「時間ですか? まあ……ありますけど」
「よかったよかった。じゃあ行くぞ~」
「え? どこに!?」
肩を組まれて無理やり連行される。
ちょ! 力強ッ!
「冒険者ギルドに行くのよ。そこで今日ボス攻略に関してギルドマスターが集まって話をする。そこにお前も参加するってわけ」
「…………え゛」
そ、それってつまり……日本の特級冒険者が全員揃ってる場に行くってこと?
俺が?
………………。
「やっぱり用事が……」
「今さらダメに決まってるでしょ。平気平気。変な奴らしかいないから」
「余計にダメじゃん!」
俺の抗議の声は虚しく響いただけ。
紅さんのマッスルパワーに負けてそのまま無理やり車に乗せられた。
うぅ……胃が痛い。
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