第21話 黒騎士、恨まれる
天照ギルドのギルドマスター紅神楽さんに呼ばれ、俺はギルドホームへと足を運んだ。
通された最上階ひとつ下のフロアには、ギルドマスターを除き四人の幹部がいた。
内ふたりの名前は聞いていないが、苗字がわかればそれでいい。
改めて自分の名前を名乗ると、早々にギルドマスターが口を挟む。
「はいはい~、そういうことで自己紹介終わり! さっさと会議を続けるわよ」
「そう言えば面白い話があるってことで呼ばれてたんでしたっけ」
俺の挨拶をスルーしたギルドマスター。意外と短気なのかせっかちなのか。
他のメンバーが気にしていないあたり、これが彼女のデフォルトなんだろうな……。
俺も席に座り、特に気にしないことにした。
すると、にやりと笑ってギルドマスターが言った。
「そうそう、面白い話だよ。なんせ——S級指定のゲートに関する話なんだからね」
「S級指定のゲート?」
「なっ!? まさかギルドマスター、こいつを閻魔殿に連れていくつもりですか!?」
俺が状況を理解するより先に、座っていた火口さんが席を立って抗議の声を上げた。
——閻魔殿? たしかその名前は……。
「うるさいわねぇ、火口。他のギルドから幹部はなるべく連れていくほうがいいってことで決まったでしょ~? 今さらなに? 不満なの?」
じろりとギルドマスターが火口さんを睨む。
ほんの一瞬だけギルドマスターの圧に押された火口さんは、しかしキッっと俺を睨みながら続けた。
「不満があるのか? あるに決まってるじゃないですか! そいつはまだギルドに所属したばかりですよ。聞いた話じゃ、まだ冒険者になったばかりでもあると。そんな新人をS級ゲートの攻略に連れていくなんて……問題が起きたらどうするんですか!」
S級ゲート——〝閻魔殿〟。
その名前は、冒険者になったばかりの俺でも知ってる。
千葉県をモンスターが跋扈する地獄に変えた、日本史上最悪のゲートのひとつ。
ゲートには、ダンジョンと同じように〝推定攻略難易度〟と呼ばれるものが付けられている。
ランクはE~Sまであり、普通、高くてもA級までしかゲートは開かない。
が、その上、S級ゲートが日本に開いたことがある。
何十年という歴史でたった数回ほどだが、ひとつひとつが県を呑み込むほどの規模の災害を起こしたとか。
そして、千葉県に発生したS級ゲートこそが〝閻魔殿〟。
かつて冒険者ギルドのギルドマスターが、特級冒険者になる前に挑み、多くの仲間を失って撤退せざるを得なくなった凶悪なゲートだ。
現在、モンスターが千葉県から出れないように県境が封鎖されており、千葉県にはだれも住んでいない。
否。
だれも住めなくなった。
そんなS級ゲートを、いまさら攻略しようと言うのか?
昔と違って、冒険者ギルドのギルドマスターを含む五人もの特級冒険者が現れたからか?
「ふうん。あんたの言いたいことは解ったわ。けど、ギルドマスターであるあたしの命令よ、これは。幹部は全員参加。新人だろうとベテランだろうと関係ないわ。それに、庵の実力はあたしが認めてる。彼ならS級ゲートのモンスターが相手だろうと、問題なく戦えるってね」
「うんうん。動画、わたしも見たよ~。火口くんが言うように、あたしたちの足を引っ張るようには見えなかったなぁ」
「最近、新宿に開いたゲートをたったひとりで攻略したそうだ。規模は小さかったが、ボスまで単独で撃破できるならなんら問題はないだろう」
ギルドマスターの言葉に、美空さんと赤坂さんが援護射撃を行う。
どうやら火口さんは、ポッと出の俺が気に食わないらしい。最初からやたら険悪な雰囲気だったのはそういうことか。
それ以外の幹部のメンバー、美空さんに赤坂さん、あと日高さんはギルドマスターの判断を信じている。
特に反対の言葉はなかった。
「ぐぐぐ……! お前らは、悔しくないのか!? いきなり出てきて天照の幹部だと? 俺たちがどれだけ努力してここまで上りつめたと!」
「まあまあ。たしかに素直に受け止められない気持ちはわかるよ。僕だって、動画を見て、ギルドマスターの話を聞いて思うところはある。けど、それと彼の実力を疑うのは話が違う。明墨くんの実力は間違いない。強いよ」
「いつの時代も、天才っていうのは現れるからねぇ。時間をかけた人間が、イコール優れてるってわけじゃない。一般論では優れてるだろうけどさ~」
憤る火口さんを日高さんが宥める。
飄々とした美空さんの言葉が刺さったのか、額に青筋が浮かんでいた。
俺を睨む眼力に殺意まで乗っかる。
「美空の言うとおりよ。優れた才能を使うのは世の常。あたしだって最年少で特級冒険者になった。自分の才能が何度も疎まれ、恨まれた。それでも、大事なのはだれかを救うこと! 火口、あんただって優秀なんだから腐るんじゃないわよ。個人の感情より、世界を救うほうが大事なんだから」
ぴしゃりとギルドマスターが話をまとめて、先ほどの続きに戻る。
「それでー……えっと、どこまでゲートのことを話したっけ?」
「まだ何も話してませんよ。これからです」
ギルドマスターの問いに、隣に座っている日高さんが答える。
「そうだったかしら? ならちょうどいいわ。庵もいるし、ゲートの攻略に関する話を伝えます。聞き逃したらぶっ飛ばすわよ?」
やや乱暴な口調で、それでいて真面目に彼女は語った。
今回、大手ギルド全員参加の大規模なゲート攻略戦が行われることを。
俺は黙ってそれを聞いていた。
依然、対面に座る火口さんからは睨まれたままである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます