第20話 黒騎士、幹部たちと挨拶する

 東京都新宿の一角に発生したゲートが閉じて数日。


 ここ数日で、すっかり〝黒騎士〟の知名度は上がっていた。


 ネットでもテレビでも皆が黒騎士こと明墨庵——つまり俺のことを褒め散らかしていた。


 多くの住民を、日本を救った英雄だと美化される始末。


 攻略難易度の低いダンジョンをひとつ終わらせただけで、俺はどこまで高みに上るのだろうか。


 おかげで登録者数はまた伸びてるし、SNSのアカウントへフォローが殺到している。


 ダイレクトメッセージもリプライも鬼のように飛んでくるし、動画の再生回数も一億を突破した。


 まだ活動を始めたばかりで一億再生だ。


 これが如何に偉業であるか、学校のクラスメイトたちが滔々と語ってくれた。


 語ってくれた上で意味不明だったが、とにかく凄いことらしい。




「そんなこと言われてもね……規模が大きすぎて、実感わかね~」


 スマホからSNSの画面を眺める。


 いまや黒騎士は、だれもが認める英雄だ。人によってはダークヒーローとも言う。たぶん、外見だな。


 外を出歩けば一発で俺が明墨庵——黒騎士であることがバレる。


 前に見た、東雲さんの変装理由がよくわかった。変装しないとまともに外も出歩けない。


「これも有名税ってやつなのかな」


 そう呟き、家の窓から外を眺める。


 最近では、自宅を特定した迷惑ファンたちによる監視がついていた。


 家中まで突撃してくるような荒くれ者はいないが、常にカメラやスマホを構えているから、玄関に出た時点で写真を撮られる。


 もはやモラルも法律も関係ない。やったもの勝ちの状況が出来上がっていた。


「警察……いや、冒険者ギルドに被害を訴えたほうがいいのか?」


 冒険者はほかの人よりルールが厳しい。


 暴力を振るった場合、それが過剰だったり一方的だったりするとかなり重い罰を受ける。


 プロ野球選手やサッカー選手、政治家が問題を起こすと袋叩きに遭うように、冒険者もまた特別な存在なのだ。


 ゆえに、俺はこうしてしばらくは我慢していたが、いい加減に奴らが鬱陶しいので何かしらの行動に出ることにした。




 そんな時、ふいにプルプルとスマホが鳴る。


 液晶画面に表示された名前は。所属するギルドのギルドマスターだった。


「はいもしもし」


「庵? ギルドマスターの紅よ。いまちょっといいかしら」


「なんですか? なにか問題でも?」


「そういうのじゃないわよ。前にあなたが攻略したゲートの話。難易度とかの測定も終わったし、モンスターの死体もすべて回収し終えたわ。あの辺りの復旧には時間がかかるけど、それはあたしたちの専門じゃないしどうでもいい」


 どうでもいいって。


 まあ、それが得意な分野は黄魔法の使い手だ。


 破壊するのが超絶得意な俺とギルドマスターには確実に向いていないな、うん。


「今回電話したのは、そのゲートの攻略で出た報酬の話よ。すでにあなたの口座に振り込んでおいたから。結構な大金になったわよ」


「おぉ! ありがとうございます、ギルドマスター」


「ギルドメンバーの手柄なんだから気にしなくてよろしい。これもギルドの仕事よ。それより、あたしは庵に感謝したいくらいだわ」


「感謝?」


「ええ。天照ウチに所属する黒騎士が、ほとんどひとりでゲートをクリアしたって有名な話よ。おかげでスポンサーが増えて、注目度がぐんぐん上がってるの。あなたへの取材の話とかもきてるわよ。どうする? 受ける?」


「取材……」


 俺はまだ高校生なんだが?


 取材とか言われても無駄に緊張するだけであまり気乗りはしない。


 だが、ギルド側からしたら取材させたいに決まってる。


 少し悩んで、


「まあ、仕事なら喜んで」


「決まりね! 暇ならこの後ギルドホームに来なさい。ちょうどいいから、面白い話を聞かせてあげる」


「面白い話?」


「きっと気に入るわよ。ふふ」


 なんだろう。ずいぶんと自信満々だな。


 そこまで言われると謎に気になるし、どうせ暇だからいいか。


 俺もギルドマスターにストーカーたちの件をどうにかしてもらおうと思ってた。タイミングも悪くない。


 通話を切り、急いで出かける準備をした。




 ▼△▼




 帽子にサングラス、マスクを着けて家を出る。


 カシャカシャと写真を撮る無礼者たちを無視して駅を目指し、電車に乗ってギルド天照のホームがある最寄り駅へと向かった。




 片道三十分ほどで到着する。


 巨大な高層ビルの入り口を通ると、近くにいた職員がびくりと肩を震わせる。


 完全に不審者を見たときのそれだ。


 もう変装する意味はないし、帽子とサングラス、マスクを取って挨拶する。


「こんにちは。ギルドに所属してる明墨と申します」


「あ、なんだ、明墨さんでしたか。急に変な人が来てびっくりしましたよ~」


 わかりやすく従業員の女性はホッと胸を撫で下ろす。


 その後、所属を表す専用のライセンスを見せると、幹部やギルドマスターだけが利用できる専用のエレベーターに乗って上層を目指す。


 最上階のひとつ下に止まると、赤を基調とした豪華なフロアに到着した。


 いくつか個室に繋がる扉が見られるが、一番奥の部屋から声が聞こえた。たぶん、この部屋にいるのかな?


 コンコン、と扉をノックすると、中からギルドマスターの声が聞こえた。


「庵? 入ってもいいわよ~」


「失礼します」


 よくわかったなぁ、という言葉を呑み込んで部屋の中に入る。


 すると、広々とした会議室にはギルドマスターを含めて五人の男女が席に座っていた。


 ギルドマスター以外は初めて会う。全員、天照に所属する幹部の人かな。


「早かったわね。あたしの隣にかけなさい」


 指示されたので、彼女の言うとおり隣へ移動する。


 四人もの視線が一気に体へ刺さる。すごい注目のされっぷりだ。


 ……しかし、たったひとりだけやたら剣呑な目付きなのはなんでだろう。


 俺、なにかしたのか?




「みんな知ってると思うけど、紹介するわね。彼は明墨庵。いまネットで有名な黒騎士よ。最初にバズったあの動画を見て、あたしが直々にスカウトしたの! しかも、冒険者ギルドの爺の前でね!」


「おー! その話、もう三回くらい聞いてるけど凄いね~。相変わらずウチのギルマスは自由だ! ギャングだよ!」


「庵、あの生意気な女は美空みそら朱莉あかり。もうすぐ三十路だっていうのに痛い奴よ。実力はまあまあ」


「だれが痛い奴よ!! 年下のくせに生意気ぃ!」


 美空朱莉と紹介された黒髪の女性は、たいへん元気いっぱいに憤慨していた。


 口でセルフ「ぷんぷん」言ってる。すごぉい……。


「で、隣のクールぶってる男は赤坂あかさかつばさ。仏頂面でいまだに童貞よ」


「30を過ぎたので賢者と言ってほしいな」


「誇るなよ」


 淡々とした口調でそう反論する赤坂さんに、ギルドマスターは呆れた声を漏らす。


 ちなみに無視された美空さんはものすごい形相で紅さんを睨んでいた。見なかったことにする。


「残りの二人は火口ひぐち日高ひだか。元気が有り余ってる男と、顔からわかるほどの苦労人よ」


「ふん」


「苦労人って僕のことですか? 酷いなぁ……事実ですけど」


 火口と呼ばれた男は、視線を逸らして態度が悪い。全身から俺を歓迎していないオーラが漂っていた。


 対するもうひとりの日高さんは、「あはは」と笑っているがたしかに薄幸のオーラを感じる。


 なんだか二人とも真逆な人物だな。個人的には、日高さんみたいな人は嫌いじゃないけど。


「明墨庵です。皆さんよろしくお願いします」


「はいはい~、そういうことで自己紹介終わり! さっさと会議を続けるわよ」


「そう言えば、面白い話があるってことで呼ばれてたんでしたっけ」


 俺の挨拶をスルーしたギルドマスター。意外と短気なのかせっかちなのか。


 他のメンバーが気にしていないあたり、これが彼女のデフォルトなんだろうな……。




 俺も席に座り、特に気にしないことにした。


 すると、にやりと笑ってギルドマスターが言った。




「そうそう、面白い話だよ。なんせ——S級指定のゲートに関する話なんだからね」


———————————————————————

あとがき。


読者の皆様には日頃からたいへんお世話になっております!


本日、反面教師の新作が投稿されました。本作と同じダンジョン配信ものです!

本作とはまた違ったテーマ?で進む新作を、よかったら見て、応援してください!


なぜか新作が表示されない?らしいので、タイトルを載せておきます。

『二度目の人生は最強ダンジョン配信者〜』というタイトルです!

小説一覧には表示されるようです!

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