第19話 黒騎士、ニュースに取り上げられる
巨大な漆黒のゴーレムを倒してゲートを閉じた。
周囲はメチャクチャだ。
ゲートから出てきたモンスターが好き勝手に暴れたのもそうだが、特に俺が立っている場所がヤバい。
短時間ながらに、凄まじい崩壊を迎えていた。
「悪いのはゴーレムで俺じゃない。知らないうちにゴーレムが壊してたんだ」
ぶつぶつと呟いて現実から逃げる。
そろそろ他の冒険者も増援に来る頃かな? と思っていると、ゲートが閉じて十分。
一番最初に現場に到着したのは、避難民誘導を受け持っていた東雲千さんだった。
「明墨さん! よかった、無事でしたか」
「お疲れ様です、東雲さん」
「お疲れ様です。周囲のモンスターはあらかた片付いたようですね。ゲートのボスが出てくる可能性もありますし、ここからは私も協力しますよ!」
グッと拳を握り締めてやる気を見せる東雲さん。
生憎と、もうボスは倒したあとだ。やる気があるところ悪いが、彼女にとっての悲報を伝える。
「もう倒しましたよ、ボス。でっかいゴーレムでした。ほら、あそこに倒れてる」
「……え? た、倒した?」
「この人は一体なにを言ってるんだろう」みたいな顔で俺の顔を一瞥したあと、指差した方角へ視線を向ける。
彼女の視界に、建物を半壊させて倒れる巨大なゴーレムの姿が映った。
そして、ゴーレムを見てから周囲をきょろきょろと見渡す。
「な、なにあのゴーレム……本当にゲートがなくなってるんですけど……え? まさか明墨さんひとりでゲートを攻略しちゃった!? え!?」
なんかすごい驚いてる。
ゲートを生で見るのも、ゲートを閉ざすのも初めての体験だったが、そんなに驚くほどのことかな?
たしかにミノタウロスより強かったけど、結局、俺の攻撃が通る以上は牛と大差ない。
魔剣グラムで斬れない相手がでてきてからが、本当の勝負だと思ってる。
「まあまあ。今回のゲートは規模も小さいですし、ボスも雑魚だからしょうがないですよ」
「ゲートが発生したばかりだから、敵が少なかったんだと思いますよ……その上、ゴーレムタイプのモンスターは普通に強いかと。体が鋼鉄なのでなかなかダメージが通らない代名詞では?」
「…………雑魚でしたよ!」
今回のゲートは攻略難易度が低い、という話でゴリ押す。
あとで確認のために派遣される冒険者ギルドの職員が、細かく難易度などを調べるため、どうせおおっぴらになるがゴリ押す。
実際に弱かったし。
「そうですか……まあいいです。明墨さんのおかげで被害はほとんど広がらずに済みましたしね。先ほどの負傷者たちも全員が避難し終えたかと。あとは隠れている可能性のあるモンスターに関してですが……明墨さん、探知とかできたり?」
「無理ですね」
「私もです。だとしたら、魔法道具を持つ冒険者が来るまで待機ですかね」
モンスターを知覚することに長けた魔法は、主に水と風、黄の分野だ。
そのどれにも適性がない俺と東雲さんは、逃げて隠れているかもしれないモンスターを探すのに手間がかかる。
どうせ通報を受けて、冒険者ギルドから魔力を探知する魔法道具を持った職員が現れる。
それまで、余計なことをしないで待つことにした。
▼△▼
しばらくすると、俺と東雲さんの予想どおり冒険者ギルドの職員が到着する。
ゲートが開いてからすぐにボスを討伐してゲートを閉じたため、残ったモンスターはほとんどいなかった。
応援に駆けつけたほかの冒険者と協力して掃討すると言われたので、活躍した俺と東雲さんは先に帰ることになる。
かなり魔力を使ったので正直助かった。
危険指定されたエリアの外に出て、グッと背筋を伸ばす。
「お疲れ様でした、明墨さん。これで帰れますね」
「お疲れ様でした、東雲さん。負傷者の治癒と避難誘導、本当に助かりました」
「いえいえ。大半のモンスターとボスを倒してくれた明墨さんのおかげで、今日は楽して帰れます」
「ふふ」
「あはは」
お互いにお互いを褒めるので、同時に笑ってしまう。
デートの話はアプリでのやり取りで決めることにして、その日は彼女と別れて家に帰る。
しかし、この時は俺は考えもしなかった。
ゲートを即行で閉じて多くの人を守った自分が、目立たないはずがないということを。
▼△▼
翌朝、程よい疲労を抱えながらもベッドから起きる。
肉体的な疲労は若さがカバーしてくれるが、魔力の激しい消耗は年齢に関係がない。
まだほんの少しだけ気だるい気持ちを覚えて、それでも生活リズムを壊さないようリビングへ向かった。
休日だというのに家にはだれもいない。
静かなリビングで、テレビのリモコンを掴んで電源を入れる。
すると、タイミングよく冒険者に関するニュースがやっていた。
欠伸をしながらそれを眺める。
『速報ニュース! 昨日、東京都新宿に現れたゲートをたったふたりの冒険者が解決しました!』
「おー……もうニュースになってるのか。凄いな」
『その内のひとり、男性のほうはボスを討伐。多くのモンスターを殲滅したとの報告が入っております。さらにもうひとりの女性のほうは、何人もの逃げ遅れた住民を避難誘導、治療まで行ったという! なんて素晴らしいことでしょう』
「あはは。いざ自分が取り上げられてると、匿名でも笑っちゃうな。少しでも役に立てたなら何よりだよ」
ソファに全身を沈める。この疲労感も、だれかの役に立てたなら幸いだ。
白魔法は使っていないが、少しはあの白騎士に近づけただろうか?
『男性冒険者の名前は明墨庵さん。女性冒険者の名前は東雲千さんです!』
「————ぶっ!?」
まさかの実名公開に吹き出した。
そう言えば、テレビで報道される冒険者たちは全員、名前が載っていたような……。
冒険者は強力な力を持つ存在だ。危険じゃないことを周知するために実名の公開が求められる。
そんな、登録した際に許可を求められるような初歩の初歩を今のいままで忘れていた。
こ、これはまずい!
だが、俺の不安をよそにニュースキャスターの女性は続ける。
『男性冒険者の明墨庵さんは、最近、ネットを中心に人気の高い人物ですね。どうやら黒い甲冑をまとい戦う姿を見た人が〝黒騎士〟と呼んでいるそうです。たったひとりでボスを討伐した実力もさることながら、人助けを率先として行う姿は、似た名前を持つ〝白騎士〟を彷彿とさせますね』
「ッ」
憧れの人物である白騎士と同列に扱われ、思わず照れてしまう。
実名公開による弊害より、彼女に少しでも近づけたことが嬉しかった。
『女性冒険者、東雲千さんも、いま大人気のダンジョン配信者で——』
それ以上はニュースの話は耳に入らなかった。
とにかく嬉しくて、しばらくのあいだ、ソファの上でごろごろと奇声を発しながら転がる。
学校で面倒な目に遭うことなんて、もはや些細な問題だった。
その学校に、これから行かないといけないのだが。
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