第13話 黒騎士しか勝たん

「グルアアアアアアアアアアアアア!!」


 大きな断末魔の声を上げて、巨大なトカゲが地面に倒れる。


 ズウゥゥッン! という轟音を響かせて、地面が派手に揺れた。


 フロアボス、サラマンダーの討伐だ。


 全身を覆っていたはずの熱気が霧散し、広範囲に暑苦しい熱風が吹いた。


 それを闇色の魔力で防ぎつつ、絶命したボスが消滅するのを待つ。


 あれだけの巨体だ。討伐後、ボスが消滅するのは他の雑魚より遅い。


 だが、次第に体の端から崩壊していく亡骸を見ると、戦闘が終了したのだと解る。


 他のだれでもない。必死に魔法を駆使して戦った多くの男女が、俺より先に感動の叫びを発した。


「よおおおおおおっしゃああああああ!!」


「ボスを倒したぞおおおおおおお!」


「なんとか生き残れたぁ……」


 あれだけ絶望的な状況に陥ったこともあり、メンバーの中には泣き出す者もいる。


 それでも犠牲者はゼロ。


 俺が最前線でタンクとして頑張ったおかげで、そのあいだに残りのメンバーが回復する時間ができた。


 あとはひたすらタンクしてデバフをばら撒いて終わりだ。


 自分で言うのもなんだけど、かなり活躍したと思う。




「黒騎士さん、ありがとうございます! 黒騎士さんのおかげで、みんな無事でした」


 数名の冒険者たちが俺の周りを囲む。


 すでに黒騎士モードは解除してある。いつも通りの明墨庵なんだが、黒騎士モードの時の印象が強いのか、ナチュラルに黒騎士と呼ばれた。


「どういたしまして。犠牲者が出なくてよかったです」


 これは本心だ。


 目の前で人死にとか見せられても面白くないからね。助けられる命はそりゃあ助けたい。


「いやぁ、黒騎士さんのタンクは凄かった。さすが騎士! その上デバフまで使えるんですから、黒騎士さんは最強のタンクなのでは?」


「馬鹿野郎! おまえ、ミノタウロスの動画見てないのか? 黒騎士さんの真骨頂はあのえげつない攻撃力だろ! 今回は俺らに譲ってくれたんだよ、討伐を」


「でもデバフだけでも凄かったです! あの大きなトカゲが、ぜんぜん動けていませんでしたし!」


「あはは……」


 なんだか凄い褒められようだった。




 今回、俺がフロアボスに使ったデバフは、主に三つ。


 一つ目は速度を落とす〝敏捷力低下〟


 二つ目は攻撃力を落とす〝筋力低下〟


 三つ目は防御力を落とす〝耐久力低下〟だ。


 それ以外にも状態異常を与える魔法はあるが、フロアボスにその手の状態異常はあまり効果がない。


 ボスっていうのはゲームでもそうだが、やたら耐性が高いんだよなぁ。


 黒魔法には世知辛い相手だ。


「それより、フロアボスと戦ってずいぶん疲れたでしょう? よかったら地上まで護衛しますよ」


「い、いいんですか!? ただでさえ、ボス討伐でお世話になって命まで救われたのに……」


「ここで皆さんを放置したら、俺が視聴者たちに怒られますから」


 そう言ってちらりと上のほうへ視線を向ける。


 その場にいた他の冒険者たちも俺の視線を追って上を見る。


 上空には、二台のドローンが飛んでいた。


 片方は彼らの所有物だが、もう片方は俺のもの。いまもカメラ越しにバンバン映像を送っている。


 音声もピンマイクから配信のほうへ送られているので、視聴者たちは盛り上がっていることだろう。


「なるほど……理由はわかりました。すみませんが、お言葉に甘えさせていただきます」


「お世話になります!」


 バッとその場の全員が頭を下げる。


 まるで運動部みたいなノリだな。


「では支度が終わり次第、地上を目指しましょう。ちょうど俺もそろそろ帰る予定でしたし」




 ▼△▼




 明墨庵こと黒騎士が、困っていた冒険者たちを颯爽と助けたあと、庵の予想どおりに視聴者たちは盛り上がっていた。




【マジかよありかよ……なぁ、見たかおまいら】


【見た。見たけど信じられない。戦闘シーンが凄すぎてぜんぜんチャットできなかった】


【あのギルドの人たちも頑張ってたけど、黒騎士ヤバない?】


【ひとりでフロアボスの攻撃防いでたぞ。少なくともタンクとしての能力は特級冒険者並み】


【見たとこ、戦ってた人たちは中堅くらいの実力者が多かったね。あれで勝てるの凄すぎ】


【連携がよかった。普通、数は多くてもあの実力だとフロアボスを倒すのには向いてない】


【まあ最終的に勝てたのは、黒騎士のタンクとデバフがあったから。あれは反則だろ】


【そんな黒騎士は駆け出し冒険者ってマ?】


【嘘だろ。もしくはチートだろ。いつ頃覚醒したんだ? 特級冒険者の大半が中学生とか高校生の頃に覚醒してるらしいし、黒騎士もそんくらい?】


【いやいや、そんなことより戦闘の振り返りよ。お前らも見ただろ。あのぶっ壊れ防御魔法とデバフ魔法】


【フロアボスの攻撃を平然と凌いだ挙句、ボスにも通用するくらいのデバフとか初めて見た】


【夜会の攻略動画とか見てみ。向こうの魔女も似たような攻撃してるから】


【黒騎士は攻撃してない件。ただのデバフが容易くボスの耐性を貫いてる。あんなのバランス壊れるだろ】


【今回の配信で改めてデバフの重要さが際立つな。あとタンク】


【タンクはともかく、デバフは闇魔法か紫魔法でしかほとんど使えないからなぁその上、防御と攻撃までできる黒騎士くんは頭がおかしい】


【方向性は違うけど、世界樹のギルドマスターを見てる気分になった】


【たしかに。彼女もタンクとヒーラーを兼任できるしな。やはり特級か黒騎士】


【なにはともあれ、彼らが助かってよかった。悲惨配信にならなくて】


【それな。今後も黒騎士の配信からは目が離せないぜ】


【黒騎士しか勝たん】




 ワイワイと、改めてだれも犠牲にならなかったことを視聴者たちも喜ぶ。


 スマホを見ていない庵は、そんな彼らの気持ちなど知らずに、準備を済ませた冒険者たちと共に地上を目指す。


 依然、庵は彼らからチヤホヤされていた。年下ということもあり、お菓子や飲み物を大量に手渡されるほど。


 それを見た視聴者たちは、


【黒騎士が貢がれてる】


 と笑うのだった。


———————————————————————

あとがき。


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