第12話 黒騎士、中堅ギルドを助ける

 長らく、道中の雑魚を白魔法パンチで殴り続けて奥に進むこと数時間。


 ようやく中層手前のボスエリアまで到着する。


 そこでは、すでに先客がボスモンスターと戦っていた。


 ボスは巨大なトカゲ型モンスター。


 広範囲に火を噴くバケモノで、遠距離攻撃がないとかなりキツそう。


 おまけに図体もデカいし攻撃力も高いとなかなかに厄介な個体だ。


 まあ、前に黒魔法で戦ってみたけどそんなに強くなかった。


 まあ、見たとこ魔法に対する耐性は低い。攻撃を喰らう度に叫んでいるのがその証拠だ。


 恐らく〝魔剣グラム〟でちょちょいのちょい。あの攻撃は、そういう敵には確殺になりえる火力を秘めている。




 内心でボスモンスターの戦力を分析した。ボーっと近くに腰を下ろして戦いを見守っていたわけじゃない。


 ドローンにも彼らの戦う様子は映っている。ダンジョン内であればこういう盗撮まがいの行いも許されるのだ。


 ただし、配信以外の動画や画像の撮影はダメ。あとエロもダメ。


 あくまで許されているのは、配信中の他冒険者の映り込みなど。




 俺は彼らがボスを倒すか殺されるまでは挑めない。奪い合いになど発展にしたらそれこそ犯罪行為なので、こうして待っていることしかできなかった。


「いい連携だなぁ……中層でも通じるね」


 暇だし、感想を漏らしながらスマホを取り出す。


 こういう時はコメントを見るに限る。


【あの人たちも配信してるじゃん。中堅ギルドのメンバーだ】


【おお! あのサラマンダー相手によく戦うねぇ】


【最近結構伸びてるギルドか。やるね】


【でもちょっと危なくない? タンクと火力が少し足りないかも】


【それをヒーラーで補っているのでは?】


【一度でも大きく崩れたら、ヒーラーの回復でも間に合わないでしょ】


【でもボスもボロボロだし、そろそろ決着つくと思われる】


【油断するな~、頑張れ~】


【あんなバケモノに白魔法パンチ打ち込むってマジ?】


【だんだん楽しみになってきた件】


【早く殴れよ】


【せっかちさんもいます】


「はいはい。ちゃんと後で挑んであげますから————うん?」


 話しながら、ふいに、扉の向こうで悲鳴が上がる。


 なんだなんだと俺の視線がそちらへ向くと、俺も視聴者も恐れていたことが起こった。




「前衛が……ボスのブレス喰らって崩れたぞ!」


 見ると、何人かの分厚い装備をまとった男たちが、全身から黒い煙を発している。


 あれはボスの高火力ブレスを喰らった証拠だ。装備からして間違いなくタンク。


 前衛を支えるメンバーの何人かが倒れたらしい。急いでヒーラーたちが回復させていくが、そのあいだに盾を失った他のメンバーたちが、一気にボスの攻撃を受け始める。


 かと言ってヒーラーたちは、タンクの回復があって他のメンバーには回せない。


 叫び声が増えていき、次第に状況が傾く。


【おいおい……あれ、まずくねぇか?】


【配信見たらヤバいって!】


【犠牲者出るぞ! 回復追いついてねぇ!】


【どんどんボスの攻撃を喰らって倒れていく……まだ死傷者は出てないけど、さすがに時間の問題】


【逃げろおおおおお!!】


【黒騎士さん、彼らを助けてあげて! このままじゃ何人もの冒険者が死んじゃう】


【黒騎士!】


【頼む黒騎士くん!】


 視聴者たちが一斉に、俺へ救助要請する。


 中には、「戦闘中ではあるし、関わるべきではない。面倒なことになるかも」と言う人もいるが、俺の回答は決まっていた。


 立ち上がり、にやりと笑って言う。




「ま、このまま黙って見てられないよな」




 ▼




 炎が舞う。


 熱が皮膚を焦がし、鋭い爪が仲間たちの体を深々と切り裂いた。




 現在、中堅ギルドのメンバーたちは、意を決して中層手前のボスに挑んでいる。


 そろそろ自分たちもボスの一体くらい倒せるのだと証明したくて頑張った。


 最初は上手くいってた。ダメージや動きをコントロールできていた。


 しかし、タンクが小さなミスをしてブレスが直撃。そこから、パーティーが一気に瓦解した。


 相手はボスモンスターだ。普通の個体とは違う。


 その強力な一撃は、受ければ大半のメンバーが重症を負うほどだった。


 リーダーの青年が撤退を合図するとともに、皆が後ろへ下がろうとするものの、中には逃げ切れない者も生まれる。


 ある者は火に焼かれ、ある者は爪で刻まれ、ある者はなぎ払われる。


 奇跡的に死傷者こそ出ていないが、急いで回復、あるいは撤退しないと確実にだれかが死ぬ。


 恐らく死傷者は免れない。そんな絶望的な未来が脳裏に浮かび、リーダーの男は顔を青くした。


 せめて自分が仲間たちを逃がすべきだと、大きく前に一歩踏み出した。


 次にボスに狙われたのは、支援を担当するヒーラーの女性。


 彼女は必死に近くの仲間を癒し続け、そのせいで逃げ遅れた。


 巨体が彼女の前まで移動すると、大きく息を吸ってブレスのモーションへ入る。


 ——ダメだ、間に合わない。


 咄嗟に男は奥歯を噛み締める。


 自分も女性も確実に炎に焼かれる。他のメンバーたちは今も撤退してるだろうから、ブレスを耐えても確実に殺される。


 それがわかっても、一向に男は足を止めない。必死に女性のもとまで駆けよろうとして————視界が朱色の光に包まれた。




 ——その直後。


 それらの輝きを呑み込むほどのが広がる。


 闇は呑み込んだ。すべてを呑み込んだ。


 絶望の光を通さず、熱も衝撃もそこにはない。


 リーダーの男も、死を覚悟していた女性ヒーラーも、同時に顔を見上げて目の前の闇を見つめる。


 まるで闇が具現化し、壁のようになっていた。


 なにも見えないが、なにも届かない。


 あれだけ抱いていた恐怖心すらほんの一時忘れてしまい、遅れて後ろから聞こえた声に、彼らは振り返る。




「危ない危ない……ギリギリセーフでしたね」


 男たちの背後には、ひとりの黒騎士が立っていた。




 ▼△▼




 ——あっぶねぇな、あのトカゲ野郎!


 もう少し俺が闇を展開するのが遅れていたら、目の前の二人が焼き殺されていた。


 間に合ったのは、決断が早く、迷いなく彼らのもとへ向かったおかげだろう。


 ボスのブレスが止むと、展開していた闇が薄っすらと虚空へ溶けていく。


 魔法を解除した。再び、デカくてブサイクな炎トカゲが視界に映る。


「——————!!」


「うるさっ」


 トカゲが大きな声で叫ぶ。これまでとは違う敵の出現に、たいへんご立腹である。


 もしくは、自分の攻撃が防がれて怒っているのかな?


 どちらにせよ、俺には知ったことじゃない。


 それより先に、視線を下にさげて問う。


「すみません。あのボス、倒しちゃってもいいですか? それともあなた方が倒します? 立て直すまで待ちますよ」


 にこりと、できる限り人当たりのいい笑みを浮かべて言うが、なぜか男性も女性も揃って唖然としていた。


 あれ? 無視?


 もうトカゲの野郎がこっちに来てるから、さっさと決断してほしいんだけど……まあいいか。


 獲物を横取りする趣味はない。


 一歩、また一歩と前に出て、突進してくるボスの攻撃を、自慢の闇で防御して止める。


 俺の闇は防御性能も高い。衝撃を殺すための効果が宿っており、広く高密度の魔力で固めれば、サラマンダーによる突進を受けてもビクともしない。


 すべての衝撃が闇の中に吸収され、周囲の地形へダメージを通さなかった。


 ついでにボスへいくつかのデバフをばら撒きながら、


「ほらほら、立ってくださいよお二人とも。仲間を集めて戦いましょ。俺が皆さんの壁になりますので」


 と言って、半ば無理やり彼らに戦わせようとする。


 しばらく放心していた二人は、何度も話しかけたことでようやく現実を理解し、慌てて動き出す。


 その後のことは、もう一方的だったとだけ言っておこう。


———————————————————————

あとがき。


黒騎士の本当に恐ろしいところはその防御性能の高さにあります。中層の敵は雑魚どころかボスの一撃を受けても傷一つつきません。さらに鎧に触れた、攻撃してきた対象にカウンターでデバフをかけることも可能。

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