第10話 黒騎士、また配信する
視界いっぱいに、薄暗い岩肌が見える。
ここは東京都にあるダンジョンのひとつ、通称——〝新宿ダンジョン〟と呼ばれる場所だ。
世界各地にはこんな風に、突如として謎の異世界が現れた。
新宿ダンジョンはよくある洞窟型のダンジョンで、見た目は殺風景な岩肌のみ。一時間も歩けばさすがに見飽きる。
他のダンジョンだと、渋谷にある渋谷ダンジョンなんて広大な森が広がっている。原宿ダンジョンも廃墟みたいな建物が並び、実に攻略のし甲斐がありそうだ。
ではなぜ俺は、こんな殺風景で面白味に欠ける新宿ダンジョンに足を踏み入れているのか。
理由は単純だ。
この新宿ダンジョンは、見た目だけじゃなくその攻略難易度も他のダンジョンより劣っている。
俺の目的は白魔法を使ってチヤホヤされることだが、そのためにはまだまだ実力が不足している。
まったくもって使えないわけではないが、まだまだ駆け出しの俺にはこのダンジョンの難易度が相応しい。
そういうわけで、今回もまたダンジョン攻略を行っていこう。
「ふふふ。今回のダンジョン配信は、前とは気合の入り方が違うぜ」
それもそのはず。
なぜなら今回は、ギルド〝天照〟に入ったことで購入できた、配信用ドローンを持ってきたからな!
説明しよう! 配信ドローンとは、ダンジョン配信に特化したとても便利なドローンなんだよ。
特にソロで配信しようとすると、カメラにしろスマホにしろ、手に持ちながら戦うとどうしても画面がブレる。あと普通に邪魔。
集団戦闘においても、離れた空中に浮かびながら攻略戦を撮影できるドローンは、どこのギルドでも導入している。もちろん配信だけじゃなく、録画もできるからだ。
あの人気ダンジョン配信者だった東雲千さんだって使ってるくらい便利な代物である。
しかし、当然、この配信用ドローンにも致命的なデメリットがある。
それは、電力消費がエゲつないのと、本体のお値段がドチャクソ高価ってこと。
普通の学生どころかサラリーマンですら手を出せない値段だ。
それをギルドマスターの紅さんが宣言してくれた通り、俺は経費で購入しました。
やったね。やっぱり金しか勝たん!
これで俺が抱えていた、一人称視点みたいな配信方法から、三人称視点のわかりやすい配信に変えられる。
もっともっと俺の活躍を視聴者たちに見せられるんだ!
それを考えるとすでに心は満たされていた。
もう準備は万端。
ドローンの細かい配信の設定や操作などは、手元のスマホからでもできる。
接続した画面から、あとは【配信開始】のボタンを押すだけでいい。
同じくスマホの画面からコメントなども見れる。
「よし……それじゃあ、初めてのドローン配信……スタート!」
意を決して配信開始のボタンを押した。
スマホの画面に、俺の背中が映る。
「おっ、ちゃんと映ってる映ってる——ぅっ!?」
な、なんだこれ!?
配信を開始した瞬間、わらわらと視聴者の数が増えた。
恐ろしい速度で増えていく。
同時に、コメントも追いきれないほど大量に投下された。
ひとつ前の配信では考えられない光景だ。本当に俺は、あの時の活躍でバズったらしい。
……ところでバズってなんだ? 宇宙飛行士の名前か?
「えっと、なになに……ほとんど挨拶だな。俺もしっかり挨拶くらいはしておくか。今回から、新規が大量に増えたしな」
気を取り直して、背後のドローンのほうへ振り返る。
ややぎこちないと思われる笑みを浮かべて手を振ると、簡単に自分のことを紹介した。
「こ、こんにちは~、皆さん。明墨庵です。最近、ネットでは黒騎士、なんて呼ばれてるみたいですが、配信では黒魔法は使わないのでよろしくお願いします」
宣言した直後、スマホを覗くと、
【え? なんで?】
【黒魔法使わないってま?】
【じゃあどうやってダンジョン攻略していくの?】
【つうか黒騎士なら黒魔法使えよ】
【偽騎士かぁ?】
【この人は白魔法使いだよ】
【白魔法使えないけど使い手なんだよ】
【なにそれ無意味じゃん】
【適性ないってこと? 謎すぎる】
【使えないってよほど……ぷぷ】
いくつものコメントが殺到した。
画面の外に追い出されるまで、俺は何人かのコメントを拾う。
どれもこれも罵声や煽り、文句ばかりだった。
ぶちりとキレる。
「白魔法使えるわっ! お前ら見とけよ!? すぐにその面、驚愕に変えてやる!」
苛立ちのままダンジョンの奥へ向かう。
いまもなおポコポコとコメントは投下されているが、それを無視して歩き続けた。
すると、しばらくしてようやく最初のモンスターを見つける。
上層だけあって、出てきたのはゴブリンだ。コイツは本当にどのダンジョンでも出てくる。
「ゴブリンか。ちょうどいい。お前を俺の白魔法の練習相手にしてやるぜ」
ポキポキと手を鳴らしてから、右手に魔力を集める。
ずずず、と魔力が集まり、不思議な温もりが右手を包む。
その感覚を忘れないうちに、俺は高らかに叫んだ。
ゴブリンが走ってくる。
手にした棍棒を振り回し、俺へ攻撃を仕掛ける。
俺も魔法を発動し、引いた拳を相手の顔面に合わせて打ち込んだ。
「————〝浄化の光〟!」
ごくごくごく少量の光が、ゴブリンの顔面へ当たり————パアァッン!
弾けた。ゴブリンの頭部が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます