第9話 【速報】掲示板。黒騎士と姫
世界が震撼する。
それは、SNSの〝紅神楽〟のアカウントが発信した、写真付きの呟きを見たからだ。
そこにはこう書いてある。
『本日から、あの黒騎士こと明墨庵くんがウチのギルド〝天照〟に幹部として所属でーす! いえーい。パチパチ』
これを見た多くの人間たちは、話題沸騰中の黒騎士がまさかギルドに所属するなんて、と大きく騒ぎ立てた。
その勢いはすでにトップクラスだった明墨庵の勢いを後押しし、件の東雲千を助けた動画の再生回数をさらにぐんぐんと伸ばした。
某有名掲示板でも、紅神楽のツイートを見たファンたちが大盛り上がりを見せている。
『【速報】若き期待の新星、黒騎士が、〝灰燼〟と手を組む模様』
掲示板にはその手のスレッドが乱立する。
【おまいら姫のツイートは見たか】
【見たに決まってるじゃん。まさか黒騎士くんが天照に所属するとはな~】
【最初見た時は冗談かと思ってたけど、ちゃんと公式サイトの名簿には名前載ってた。マジやん】
【しかも一気に幹部とかヤバくね? たしかいまいる幹部は全員、下積み時代なかったっけ?】
【あったあった。最初は全員が下っ端だったはず。そこから厳しい訓練と実戦を繰り返して、初めて天照の幹部が生まれたとか】
【うはぁ。それ絶対モメるやつじゃん。気に食わない奴とか出てくるだろ】
【でも黒騎士くんは実際に強いしなぁ】
【あの姫が直接スカウトしたんだろ? ならその強さは本物ってことで】
【もしかすると黒騎士がイケメンだった説】
【冒険者ギルドの公式サイトに名簿が載ってるけど、とびきりのイケメンではなかったぞん】
【どっちかっていうと可愛い系? 女装とかしてもギリいけるんでね?】
【最近のメイクはすごいからなぁ。たぶんかなり似合うと思われる】
【お前ら黒騎士くんを女装させようとすんなよ。そうじゃないだろ話は!】
【なんだっけ。女装で全部飛んだわ】
【黒騎士くんがどれくらい強いかって話。ちなみに俺はかなり強いと思ってる。そうでなきゃミノタウロスをあんな一瞬で倒せんべ】
【あれが全力なら中堅上位くらいだろ。はしゃぐほどか?】
【他の天照の幹部でも同じことできるんじゃね?】
【五体のミノタウロスを倒すことができるだろうけど、あんなあっさり倒せるか? 一撃で一瞬だぞ】
【それな。大事なのは、黒騎士が超高威力高範囲の攻撃を使えるってこと。姫と相性いい】
【ああ、姫のあの技と黒騎士くんの広範囲攻撃があれば、殲滅戦とかクソ有利だろ】
【でも他のギルドも納得しなさそー。自分たちにもスカウトする権利をよこせって】
【そんな抗議するくらいなら直接スカウトにいくだろ。俺はてっきり〝円卓〟に所属するかと思ってたし】
【あの広範囲技ならワンチャン〝夜会〟も興味あり】
【円卓はたしかにあの外見だし欲しいだろうけど、夜会はいうほどか? あそこ女ばっかじゃん】
【わかってないねぇ。夜会は遠距離専門だからこそ、どっちもいける黒騎士くんの能力が活きるんよ】
【まあどう転ぶかはそうなってからしかわからんけどな】
【予測を立てるのもまた楽しいぜ】
【俺は姫の幹部になれた庵くんがうらやましす】
【それは思った。あの巨乳を近くで見られるなんて……】
【お前みたいな奴は確実に燃やされる。姫は容赦しない】
【そういや前に、姫が解決した犯罪者との戦いがあったな。あれ、相手側の覚醒者全員を半殺しにしたんだべ?】
【あー、二年前にあったやつか。当時はやりすぎって意見があったけど、姫はガン無視してたな】
【それでこそ我らが姫。紅神楽の通った道にはなにも残らんのよ】
【すべてを灰燼にするってな】
【つか話脱線してる。黒騎士くんのことだよ。姫の話によると、今度の休日にダンジョン配信するってさ】
【え? まだダンジョン配信続けるの? てか、なんで姫がそれを管理してんの? 個人情報なのでは?】
【天照側が黒騎士くんの単独行動を認めたってことだろ。普通、ギルドに所属したらみんなでダンジョン攻略にのめり込むのに】
【黒騎士くんまだ高校生だしなぁ。卒業してから頑張るとか?】
【それがどうも、あんまり仕事はさせないらしい。自由に過ごしてもらうとかなんとか言ってた】
【はぁ!? マジかよ。超絶VIP待遇じゃん。やべぇ】
【基本的に好きなことしてOKなん? すげぇな。たまにしか参加しなくていいのか、ダンジョン攻略】
【でも、それくらいの条件を付けてでもスカウトしたかったってことだよな】
【新人のくせに何者だよ、明墨庵……】
本人の知らないところで、庵の噂はどんどん巨大で歪なものへと変わっていく。
天照の新たな最終兵器と呼ばれているとかいないとか。
普段、アカウントは作ってもロクに触っていなかったSNS。そのことに気付くのは、そう遠い未来ではないのかもしれない。
▼△▼
「ほ、本当に……こんな奴が……!」
薄暗い部屋の一角、柔らかなソファの上でひとりの男性がスマホを握り締めていた。
画面に映し出されたSNSには、今しがた呟かれた紅神楽のツイートが見える。
それを見た瞬間、男の頭が怒りで埋め尽くされた。
あろうことか本当に、彼女は新人冒険者をギルドの幹部としてスカウトしたのだ。
名簿を確認したから間違いない。
そう、間違いないのだ。
——パキッ。
握り締めていたスマホの画面にヒビが入る。
徐々にヒビは数を増やし、パキポキピキと不思議な高音を立てる。
男は覚醒者だった。
素手で、握力だけでスマホを握り潰すのはわけない。
そのまま尋常ではない握力がかかったことで、彼のスマホはバラバラになって砕け散った。
ぱらぱらと床に破片が落ちる。
それを無視して男は叫んだ。
「ふざけるな! 俺がどんな想いであなたのそばまで上り詰めたのか。俺がどんな苦しみを抱いて強くなったのか……! それを、こんな男ひとりに特別待遇など……」
許せない。許せるはずがなかった。
文字通り血を吐いて、仲間を失ってでも上り詰めた頂。
ただ彼女のためだけに強くなろうと決心した心が、ここにきて強く揺らぐ。
それは裏切られたという気持ちではない。
邪魔者が現れたという激しい敵意だった。
「この男もこの男だ! 新人のくせに幹部だと? 調子に乗りやがって……。たまたまミノタウロス五体を倒したくらいで、なにが期待の新人だ! なにが黒騎士だ! こんな男、俺の足元にも及びはしない!」
床に散らばったスマホの破片を踏みつけ、何度も何度も砕く。
しばらくその繰り返しをしたおかげで、ふつふつと湧き上がる怒りは少しだけ軽くなった。
しかし、依然、明墨庵への怒りは収まらない。
ゆえに、男は決意する。
「しょうがない……姫を守るナイトとして、この俺の手で彼女の目を覚まさせてあげるんだ。あんな男、天照の幹部には相応しくないと。最悪——殺せば終わりだ」
くくく、と喉を鳴らして男は部屋から出る。
新しいスマホでも買いに行くかと邪悪な笑みを作った。
これまた知らない所で、勝手に恨まれる庵だった。
———————————————————————
あとがき。
ざまぁ展開もあるよ。たぶん!
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