第4話 【掲示板】速報。黒騎士が強すぎた件
地面に横たわる数体のミノタウロスを見下ろす。
ヤツらはもう動かない。しばらくはぴくぴくと体を動かしていたが、いくら生命力が高くても、胴体を横に真っ二つにされてはどうしようもない。
加えて、先ほど使った黒魔法〝魔剣グラム〟には、対象へ複数の呪いや状態異常を与えるデバフまで付いている。
どの道、生きていようが助かる見込みはなかった。
「これなら〝帳〟は必要なかったかもね。初めて中層に来たけど、予想より敵が弱いや」
全身にまとっていた防御用の黒魔法〝深淵の帳〟を解除する。
これは一種のシールドだ。全身に闇の魔力をまとうことで、あらゆる外部からの干渉を無効化できる。
もちろん防御能力を貫通するほどの攻撃を受ければ話は異なるが、手加減した状態の魔剣グラムでも殺せる程度の雑魚が相手なら、魔力が尽きないかぎりはダメージなど負わなかっただろう。
深淵の帳は攻撃魔法より魔力を食うし、常時発動させるメリットは低い。
徐々に全身を覆っていた闇が、フルプレートが、足元へ沈み消え去る。
完全に人間としての姿を晒すと、踵を返して棒立ちしたままの女性冒険者に声をかけた。
「ほらね? 問題なかったでしょ? あれくらいなら余裕ですよ。初めて戦闘しましたけど」
「…………」
「あれ? 無視ですか? おーい。どうしたんですか~?」
彼女の顔の前で手をぶんぶん振ってみるが、なぜか反応がない。呆然としたままの目で正面を見つめ続ける。
正確には、俺の後ろに転がっているミノタウロスの死体を見ていた。
そんなに驚くほどのことだったかな? それとも、助かって安心したとか?
恐らく後者である可能性が高い。だれだって命が助かったらホッとするからね。気が抜けても不思議じゃない。
俺はしばらく彼女の意識が引き戻されるまで待った。
——五分後。
ようやくハッと意識を取り戻した女性冒険者は、近くにいた俺の顔を見ると、慌ててぺこりと頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! あまりにもあなたの力が凄くて、思わず放心しちゃいました!」
「……え? 俺の力が?」
そんな理由で放心してたんだ。てっきりこれくらいの戦闘は見慣れているかと思っていたけど……あれかな? 動画とかで見るより生のほうが凄い、みたいな。
昔は野球やサッカーの観戦とかもメジャーで、テレビじゃない生のほうが凄かったって話はよく聞いた。
それと同じかな。
「俺の力量なんてまだまだですよ。上位の人たちに比べればぺーぺーです」
「そんなことありません! 私は中堅と呼ばれるくらいには強くなりましたが、ミノタウロスを一度に五体も倒すなんて、間違いなくトップ層と同じくらい強いと思います!」
「あはは……ありがとうございます」
そこまで褒められると悪い気がしないな。でも、どうせ褒められるなら白魔法のほうを褒めてほしかった。
「とりあえず、どうしますか? 疲れてると思いますし、地上まで護衛しますよ」
「い、いいんですか、本当に? 見ず知らずの私にそこまで優しくするなんて……」
「困ってる人を助けるのは、人として当然のこと。それに、ここでひとりにして死なれたら後味悪いですし」
「……ありがとうございます。お言葉に甘えてよろしいでしょうか?」
「もちろん」
くすりと笑って、俺と彼女は地上へ一緒に出ることになった。
今日の収穫は、ミノタウロス五体の魔石。
これがあれば少しはお金も手に入るだろう。
魔石は新たなエネルギー源。大量に採れるようになった現在においては、価格も落ちているが、その需要は尽きない。
安心安全なエネルギー開発って素晴らしいね。
そう思いながら、道中、お互いに自己紹介をしながら地上を目指した。
この時の俺は忘れていた。
彼女の後ろを追いかけてくるドローンの存在を。
目の前の美少女にばかり気を取られていた……。
▼△▼△
東雲千が配信を切るなりアップされた動画は、なんの編集もなくただ切り抜かれただけの動画なのに、驚くほどの速度で拡散されていった。
有名SNS上では、最初にアップされた動画が、一時間たらずで表示回数七桁を突破。
合成だなんだと言われもしたが、大本の動画を見て考えが変わる。
動画の投稿主が有名配信者だったからだろう。加えて、配信を見ていた多くの視聴者たちが、本物だったことを証明する。
それでも疑う者は一定数いたが、動画の拡散は留まるところを知らない。
有名掲示板にて、早速、今回の件が書き込まれていた。
『【速報】有名配信者・東雲千が、強すぎる黒騎士こと明墨庵くんに助けられる』
【おいおいもう黒騎士くんの本名特定されてんのか】
【特定もなにも本人が自己紹介してた】
【驚きの展開が続いたせいで、千ちゃんカメラ切り忘れるの巻】
【まああの黒騎士くんはヤバすぎる。おまえら見ただろ。最強だよ】
【最強にクール。黒騎士っていうのもポイント高い】
【でも有名冒険者じゃなかったね。本人曰く新人だってさ】
【あれで新人とかどうなってんだよ。覚醒時期が早かったとか?】
【それにしたって魔力濃度高すぎ。制御能力も恐ろしく高いし、独学で学んだとしたら天才だろ】
【独学だったら世界で五指に……いや三本の指に数えられるくらいの天才】
【神童じゃん。それって誇張のしすぎでは?】
【あの動画だけだと判断しにくいけど、少なくとも片手間でミノタウロス五体を瞬殺できるくらいには強い。可能性としては、あれがまだまだ全力じゃなくてもっと強い場合】
【あれで全力じゃないとか化け物だろ。成長速度おかしいって】
【でも前に似たような天才いなかったっけ? ほら、あの白騎士の】
【白騎士はあそこまで強くなかった。それにサポートメインだし。今でこそ大手ギルドのサブギルドマスターになったけど、黒騎士の火力は別格】
【おい、おまいら。面白い動画見つけたぞ】
【面白い動画?】
【あの黒騎士こと明墨庵くんのチャンネル発見】
【マジか! どれどれ】
【URL貼るわ。でも内容見たらおまいらびっくりするぞww】
【どれどれ……——って、なんで黒騎士くん白魔法なんて使ってんの? しかも発動できてないし……】
【これじゃあ物理で殴って倒してるだけじゃんww 確実に適性ないのがわかる】
【なんでも白魔法使いに憧れているらしい】
【あんだけ黒魔法への適性あんのに?】
【面白すぎるだろww 俺としては、黒魔法でこのまま無双してほしいけど、とりあえずチャンネル登録しとこ】
【俺も俺も。千ちゃん助けてくれてありがとう!】
【あたしも~】
本人の知らないところで、動画サイトのチャンネルやSNSアカウントまで特定された庵。
それがなにかの犯罪に使われるわけではないが、恐ろしいほどの速度で登録者やフォロワーが増えていく。
たまたま庵はその手の通知を受け取っていないので、確認するまでは気付かない。
彼はのんきに、美少女と談笑しながら地上を目指していた。
———————————————————————
あとがき。
※魔剣グラムは主人公が厨二を拗らせていた時に付けた名前です。いまでも名前を変えてないあたり……。
【作者によるタメにならない説明〜】
黒魔法は作中でも適性者の少ない属性。攻防一体でありながら珍しい
謎が多く、適性者の中でさらにどの分野が得意かが分かれる魔法らしい。
主人公?もちろん彼は特別なので全てに秀でています。
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