第14話 前半

[特別棟前]


「さあさついにやって来たっしょこの時間が! いぇいいぇいぱふぱふー!」


「いえーいですわね」


「えーい」


「なんか2人ともテンション低くない!?」


 陽の落ちた学校に先輩の叫びが響く。


 約束の第二回七不思議調査がついにやってきた。


 時刻は19時。当然辺りは真っ暗だ。


 特別棟は以前来た時と同じように、蔦が前面に這っており、なんともそういったオカルティックな雰囲気が醸し出されている。


 もし二高が廃校にでもなったらこの特別棟はお化け屋敷として使えるかもしれない。


 ってなんで廃校前提の話をしているんだ僕は。

 

 あまり乗り気ではなさそうな西園寺さんがアンニュイな表情を浮かべる。

 

「この調査は本当にやらなければなりませんの? やらずとも、部誌を書くことくらい……」


「ひなもそれ思ったー。捏造しちゃおうよー」


「意識が低すぎない!?」


「2人の気持ちはよーく分かる。だけど流石にそれはダメっしょ」


「これでもオカルト部は部費をもらってる部活だからね。不正なんかして廃部になったら先輩たちにも申し訳がつかないよ」

 

 いつになく真剣な様子で先輩は言う。


 チャラチャラとした容姿、言動をしているけどこうみえて先輩はこの部の部長なのだ。


「そこまで言われてしまっては仕方ありませんわね」


「やむなし……いざ戦場へ赴くのじゃー」


「いや、そこまで大層な調査じゃないかな?」


「寛の言う通りだね。特に、今回の調査は前回ほど時間をかけないことにしたからそこは安心してほしいっしょ!」


 そう言って東風谷先輩は前回の調査のように紙を僕らに配った。


「今回の調査は3つ!『理科室の人体模型』『音楽室のピアノ』『美術室のモナリザ』みんな知ってる?」


「モナリザ以外は知っていますわね」


「ひなは全部分かるー」


「一応順に説明すんね」


「まず『理科室の人体模型』だけど、夜中に学校に行くと理科室の人体模型が動き出すってやつっしょ」


「なんかー、学校を歩き回ったりしてるんでしょー? ひな知ってるー」


「ひなちゃん詳しいじゃん! その通り! この七不思議では人体模型が理科室を飛び出して学校を徘徊するというのが主説になってるっしょ!」


「派生系として、美術室の彫刻と夜中踊ってるみたいなやつもあったりするんだぜ。ややこしくなるから今回は調査しないけど」 


「そういうパターンもあるんですね」


「そそ! じゃあ次ね。次は『音楽室のピアノ』」

  

「『音楽室のピアノ』はその名の通り、夜中学校で1人でにピアノが鳴り出すって七不思議っしょ」


「しかもこれ、偶々ものが鍵盤に落ちてきて音がなっちゃったわけじゃなくて、ちゃんと曲が奏でられてしまうらしいんだよ!すごくね!?」


「確かにこれまでの七不思議と比べても幽霊側に求められるテクニックが高いですね。因みにどんな曲が流れてくるんですか?」


「えー、なんだっけ。曲名は忘れちゃったけどこんな曲」


「てれてれてれてん! てれれてん、てれれてん! ててれてれてれてん! てれれてん、てれれてん!」

 

 先輩は精一杯メロディーを口ずさむ。雰囲気はなんとなく伝わったけど、僕も曲名はわからない。


「『エリーゼのために』ですわね」


「あゆむん分かるの!?」


「分かりますわ。だって私、弾けますもの」


「すげぇ! 流石あゆむん! お嬢様なだけあるっしょ!」


「別にお嬢様ではありませんわ。少し家が大きくて習い事が多いだけですの」


 それをお嬢様というのでは……というツッコミは皆心の内に留めた。


「とにかくその『エリーゼのために』がひとりでに流れ出すってのが『音楽室のピアノ』っしょ」


「最後に『美術室のモナリザ』。これは夜に美術室に行くと、モナリザがこっちを見てくるって七不思議ね」


「よくあるやつですね。二高の美術室に入ったことないのですけど、モナリザとか飾られてたんですね」


「え、寛のいた高校飾られてなかったの?」


「そうですね。デッサン用の彫刻はありましたけど」


「寧ろそっちがある方が珍しい気もするっしょ」


 

「これで説明は終わり。何か質問ある?」


「ありませんわ」


「ひなもないー」


「大丈夫です」


「おっけー。そんじゃ、今回も前回同様、ウチら3人が別れて寛が誰かと一緒についていくってやり方にするっしょ」

 

「そうしてくれると助かります。特に、今回の調査特別棟なんで……」


 入学して2週間が経ったけど、未だに特別棟には行ったことがない。


 美術も音楽も一年生の必修科目。理科に関しては実験はまだやっていない。


 だから特別棟は完全に未知の領域だ。

 

「じゃあひなは理科室行きたいー」


「では私は『音楽室のピアノ』を希望しますわ」


「いいね。ウチは『美術室のモナリザ』」


 特にもめることもなく、3人の意見がまとまる。


 やはり今回も3人から期待を込めた視線を向けられる。


 担当する七不思議はひなが『理科室の人体模型』、西園寺さんが『音楽室のピアノ』、東風谷先輩が『美術室のモナリザ』

 

 さて、誰についていこうか


 ◯ひなについていく

 ◯西園寺さんについていく

 ◯東風谷先輩についていく


 

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