第12話

[部室]


 合宿を終え、テスト前最終日の部活を終えた僕たち。


 たった1週間のオカルト補修部の活動だったけど、赤点候補の2人の成績は確実に良くなっていた。


「ひなちゃん、あゆむん、最後に聞いておきたいこととかある?」


「いいえありませんわ。30点を取る知識は、すでにわたくしの頭の中にあります」


 西園寺さんは澄ました顔でそう言った。発言内容はさておき、1年間受験勉強をしてきた受験生くらいの凄みがあった。 


「ひなも大丈夫ー。カンニングの仕方もめぐちゃん先輩に教わったしー」


「先輩それは流石に」


「嘘! 嘘だから! 全くひなちゃんも縁起でもないこと言わないの!」


「あはー、カンニングはうそー。実力で赤点回避するー」


 どこか抜けた様子でひなはそう言った。頼むからカンニングはしないでくれ。

 20点取るのはそんなに難しいことじゃないから。


 最終確認を終えた後、東風谷先輩はチョコパイを全員に配る。

 

「それじゃあ2人の健闘を祈って!」


 東風谷先輩の掛け声で、4人はチョコパイを開ける。


 そして僕らは一斉にチョコパイを頬張った。


 オカルト部もといお菓子愛好会の僕たちらしい締めくくりだと思う。


 赤点を回避するという学校からの制約は、正直なところこのチョコパイよりも甘い。


 だけど廃部の危機であることには間違いない。


 2人にはどうにか頑張ってもらいたいと、心の底から思うのであった。


 *

 

[教室]


 試験1日目。


 今日は通常の授業はなく、試験をしての午前帰り。


 あまり勉強にやる気のない生徒が多い二高といえど、流石にテスト期間はどこか緊張感が漂っていた。


 シャーペン、消しゴムよし。試験の準備は完了だ。

 

 隣の席では西園寺さんが筆記用具の点検をしていた。

 

「西園寺さん自身ありげだね」


「ええ。今日は文系科目だけですから。赤点通り越して平均点も射程圏内ですわ」


「良い心意気だね。僕も頑張ろう……!」


「テスト用紙配るぞー。もらったら後ろに回してくれー」


 担任の山口先生の声が教室に響き渡る。


 さて、僕にとっては二高での初めての試験だ。


 そこまで難しい内容は出ないと思うけど、気を引き締めて取り組もう。


 こうして廃部のかかった中間テストが始まるのだった。


 *

 ☆西園寺さん(検討中)

 *

 ☆ひな(死にそう)

 *

 ☆東風谷先輩(余裕そう)

 *

 ☆西園寺さん(死にそう)

 *

 ☆ひな(絶望)

 *

 ☆西園寺さん(手応えあり)

 *

 ☆ひな(手応えあり)

 *


 [部室]


 1週間の試験期間が終わり、土日を挟んだ週初め。


 金土日とオカルト部の活動はなかった。


 だから、オカルト部の面々と顔を合わせるのは試験後今日が初めてだ。


 部室にはすでに西園寺さんとひながすでにいる。


 ひなは遅れて部室に来ることが多いけど、流石に今日は遅刻しない。


 2人とも特に喋ることもなく、部室のソファーに腰をかけてジッと待っていた。


 お菓子を食べることもなく、10分ほどそうして沈黙を貫いていると、東風谷先輩がやってきた。


 僕らの視線が部長へと注がれる。

 

「ちょいちょい! そんなに注目されると緊張するっしょ」


「気楽に行こうぜ、気楽にさ。廃部になっても……まあ悲しいけどさ。学校生活は楽しいまんまだよ」


「先輩、冗談はよしてください」


「…………そうだね。ウチはココが好きだからさ。やっぱり、オカルト部で楽しく過ごしたいっしょ」


「その通りですわ。きっかけはどうであれ、オカルト部はもうわたくしたちの居場所です」


「ひなもそう思うかもー」


「みんな……そんなにオカルト部のこと思ってくれていたなんてウチ、感動っしょ!

 ひなちゃんはてっきり冷蔵庫が使えればどこでもいいのかと思ってたけど……」


「それはそうー」


「やっぱりそうなの!?」


「でもー」


「冷蔵庫はあるけど、料理研究部より、オカルト部の方がいいかなー。友達もいるしー」


「ひなちゃん……」 

 

「よし、みんな開封するっしょ。寛は1年生の方開けて」


「わかりました」

 

 東風谷先輩から小さい茶封筒を受け取る。


 中身は先生から渡された試験結果の速報。

 廃部がかかっていることもあり、返却前に結果だけ教えてもらえることになっていた。


 2年生の方を見せないのは、僕への配慮だろう。


 糊付けはされていない。封筒の中から三つ折りになった紙を取り出した。


「ひなちゃんの方から発表にしよっか。ひなちゃん赤点候補多いし」


「それもそうですね」


「うわーん、先輩たちひどーい」

 

「事実なんだから仕方ないっしょ。寛、発表よろしく」


「わかりました」


 僕は結果の書かれた紙を開く。


 そこにはクラス平均と、ひなの点数が表にまとめられていた。


 ざっと目を通した後、僕は読み上げる。


「1年生1学期中間試験結果──」


「現代国語……平均点45点、ひな38点」


「やったー」


「お手柄ですわ、日南田さん」


「まだ喜ぶのは早いっしょ! 他の点数は?」


「はい。次は古典。平均点32点、ひな20点。英語平均点52点、ひな28点」


「うわー、ごめんなさいー。ひなのせいで廃部かもー」


「そ、そうなりましたか……気にしないでくださいませ。日南田さん1人のせいで廃部になるなんてことはありませんわ。元を辿れば東風谷先輩が……」

 

「ちょっと! 2人とも何言ってるの! 52点の半分は26点だよ! 28点はまだ生きてる!」


「……当然気付いていましたわ」


「……ひなもー。めぐちゃん先輩はやとちりだよー」


「ぐぬぬ……解せないっしょ……」


「点数開示中に不安にさせないでくれる!? 数学の点数見るの怖くなってきたんだけど!?」


「センパイ次はー?」


「……う、うん。まあ次行くよ」


「コミュ英平均点42点、ひな46点。日本史平均点45点、ひな36点、世界史平均点34点、ひな22点。生物平均点27点、ひな18点、化学平均点20点、ひな42点」


「ひなちゃんやばい! 平均超え2つもあるじゃん! 化学なんて平均の倍あるよ!?」

 

「あはー、今日からひなは化学マスターなのじゃー」


「素晴らしい結果ですわ。オカルト部の参謀はひなさんで決まりですわね」


「よくやったね、ひな」


 皆に褒められひなは嬉しそうに笑う。というか化学と生物の平均点が低すぎないか!?

 

「コホン。まだ数学が残ってますから喜ぶのは早いですよ。最後に数学、こっちは200点満点です」


「忘れてたー。ひな1番数学苦手ー。手応えもなかったしー」


「だ、大丈夫ですわ。流れはひなさんにありますもの」

  

「ゴクリ……」


「それでは数学、平均点75点、ひな…………」


「38点」


「これは……」


「めぐちゃん先輩計算してー」


「75の半分は37.5。だから38点は……」


「ギリギリ赤点回避っしょ!!!!」


「うおおおおおおー!!!やたー! 乗り切ったー!」


「やりましたわ! やりましたわ日南田さん! 天才です!」


「よくやったね、ひな! 先輩から成績聞いたときはどうなることかと思ってたよ……本当に良かった……」


「ふふふー。ひなやれば出来る子だからー。よゆーよゆー!」


 上機嫌にひなは部室のソファーの上で飛び跳ねる。

 埃が立つからやめなさいと言いたいところだけど、満面の笑みの彼女を止められるほど、僕は薄情ではなかった。


「日南田さんは無事に赤点を回避しました。次は私ですわね……」


 西園寺さんは唾を飲み込む。

 同じクラスで、しかも隣の席でテストを受けてきた彼女の点数だ。

 

 なんだか僕の方まで緊張してきた。


「今度はウチの方から発表するね」

 

「あゆむん先輩がんばれー」


 ひなはチョコパイを頬張りながら応援する。


「ちょっと先に目を通させて……ほうほう……これは……」


 先輩は結果の紙を見たあと、驚いた表情で僕を見る。


 そ、それはどういう感情なんだ。

 

「文系教科は省略するね。あゆむんおめでとう。現国、古典、英語、コミュ英、現社、全て平均以上だったよ」


「全部平均以上!? あゆむん先輩凄すぎるよー!」


「ふふふ……当然の結果ですわ。私、頭脳派キャラですの」


 西園寺さんは得意気な表情でそう言った。


 テスト前に平均点も狙えるとか弱気な発言をしていたけど、期待以上の結果になったようで僕も嬉しかった。

 

「喜ぶのはまだ早いぜ。お待ちかねの理系教科行くっしょ……!」


「頼む……ここが正念場だ……」


「寛さん、私を信じてください。寛さんの指導が無駄ではなかったと、今こそ証明してみせますわ」


「西園寺さん……! うん……信じるよ」


「それじゃあ結果発表。生物平均点46点、あゆむん……38点」


 西園寺さんがグッと拳を握る。

 一教科目は無事に突破だ。


 しかし、喜びは声にださない。まだ完全勝利には早いのだ。


「先に数学いくよ。1年生と同じく200点満点。数学平均点64、あゆむん……56点」


「な、なんとか乗り切りましたわ」


 西園寺さんは胸を撫で下ろす。


 1番不安だった教科は数学だったんだと思う。

 勉強合宿は1番苦手な化学を中心に勉強していたから。

 

「それじゃあ最後」


「神様お願いしますわ……どうか微笑んで……」


 東風谷先輩はゆっくりとタメを作る。


 流石のひなもこの場面では物音一つ立てないため、部室は時計の針の音が聞こえるほど静まり返る。


 西園寺さんの唾を飲む音が聞こえたあと、東風谷先輩は続けた。


「化学平均点35点、あゆむん……74点!」


「っ!?」

 

 期待以上の高得点に西園寺さんは目を見開く。


 同じ問題を解いたからこうなった理由を僕は知っている。


 ここ1週間、西園寺さんは分子量の計算を徹底してやってきた。


 実は今回の試験内容……その計算問題が大半だったのだ。

 問題のヤマは当たった。そして、彼女はしっかりとその問題を解き切ったのだ。


「と、ということはつまり……!」


「オカルト部、無事に赤点回避ですわー!!!!!」


「うわーい!!!!! これで明日からも冷蔵庫使えるー!!!!」


「ってそこ!? まあとにかくお疲れ様っしょ!!!」


「よくやったね2人とも! お疲れ様! 本当に良かったよ……」


 無事に中間試験を乗り切ったオカルト部。


 最初東風谷先輩に話を持ちかけられた時にはどうなることかと心配していたけど、予想以上の結果が出て本当に安心だ。


 西園寺さんもひなも本当によく頑張ってくれたと僕は思う。

 

「寛さんもお疲れ様ですわ! この結果は寛さんたちのおかげですもの! 感謝してもしきれません!」


 西園寺さんは僕の手を握りブンブンと振った。


「センパイ様ありがたやー。ご利益ありそうだから手貸してー」


 ひなはそう言うと、僕の手を掴み、その手で自身の頭を撫でた。


「わ、私もやりますわ」


「ありがたやー」

 

「ありがたやーですわ」


「僕の手はお寺の線香か!」


「ひなちゃんたち! ウチの手も使っていいっしょ!」


「ありがたやー」


「ありがたやーですわ」


 謎のご利益タイムに突入。


 2人は僕らの手を使ったセルフなでなでを満面の笑みで有り難がった。


 どういう状況だこれ……まあ楽しそうだしいっか。

 

「これで私たちこれまでの倍、頭がよくなりますわね!」


「あはー、ひなの点数倍になったら学年一位も夢じゃないかもー!」

 

「私なんて倍になったら化学の点数150点くらいになりますわ! 限界突破ですの!」


「すごーい! あゆむん先輩最強だー」


「100点超えは普通にありえないっしょ!?」


「しかし今なら不可能も可能にできる気がしますわ! 私たちが赤点回避できたのはそれくらい奇跡ですの」


「東風谷先輩、寛さん……1週間私たちの勉強に付き合ってくださり本当にありがとうございましたわ」


「センパイたちありがとー。ひなもすっごく感謝してるよー」


 めずらしくひなも頭を下げる。


 普段お菓子食べながらとかで結構サバサバしてるところがあるから、意外な一面が見れてちょっと嬉しい。

 

「2人とも……そんなこと言ってもらえたら教えた甲斐があるっしょ!」


「そうですね。僕も感謝してもらえて嬉しいよ。これからも勉強で困ったことがあったら気軽に聞いてね」


「あ……そうですわね」


「あ、あははー」


 途端に2人は調子が悪くなる。


 僕は東風谷先輩と顔を見合わせた。

 そして同じタイミングでため息をつく。

 

「まさか2人とも中間だけ頑張ろうだなんて考えてないよね」


「そうっしょ。勉強はコツコツやるのが大切なんだからね」


「そ、それでは皆さんごきげんようですわ。私はお先に失礼します! また明日ですわ〜!」

 

「あはー、ひなも逃げるー」


「あっ、こら逃げるな!」


 そうして2人は脱兎のごとく部室から逃げ出した。


 折角2人が勉強にやる気を出してくれるかと期待したけど、それにはまだ及ばなかったようだ。


 とはいえ、赤点回避は赤点回避。


「まあ、今日のところは許してやるとするっしょ」


「そうですね。2人とも頑張りましたし」


 そして僕らはハイタッチする。


 こうして期間限定のオカルト補習部の活動は無事に幕を下ろすのであった。


 *


 生徒たちに先を越されてしまった僕たちは、彼女たちのお菓子のゴミを片付けたりして、帰宅の準備を整えた。


「ウチらも帰ろっか」


「そうですね。先輩、今日は友達と一緒じゃないんですか?」


「たまには後輩たちと帰ろうかなって思ったっしょ。……まあ2人には逃げられたんだけど」


「あっ……ドンマイです」


 東風谷先輩が部室の鍵を閉める。


 そして僕らは校門へと歩き出す。


「先輩って友達多いですよね」


「ん、そうだねー。ウチ、こう見えて人気者だから」


「クラスの子だけじゃなくて他のクラスの子とも仲良いんだぜ? なんで知り合ったのかあんま覚えてないけど、いつの間にか仲良くなってたっしょ」


 先輩はニシシと笑う。こういう人懐っこそうな表情も彼女の人気に拍車をかけているのかもしれない。


 前に聞いた話だと先輩は本当に色々な人と仲が良いらしく、帰宅時は大所帯になるらしい。

 顔が広すぎて驚きだ。


「いつの間にかって……コミュ力おばけですね」


「そういう寛はクラスで友達はちゃんとできた? ついでに好きな人とかは?」


「好きな人はさておき、友達については……まあオカルト部があるんで西園寺さんと仲良いですよ」


「あゆむん以外で」

  

「西園寺さん以外だと……いませんね。仲が悪いということはないですけど、ほら転校生ですからいきなりグループの輪に入るのは難しいじゃないですか」


「ま、確かに寛のいう通りか」

 

 ポンと手を打ち先輩は納得する。


 今では普通にオカルト部として馴染んでしまっているため、僕が転校生であることを忘れているのかもしれない。

 というか僕自身忘れかけてる。


「ま、とにかく中間試験については一見落着ってことでさ、ちょっと打ち上げみたいなことしようぜ! 寛にはすっごくお世話になったしさ、ウチの奢りで」


「ああ、それで先輩今日は一緒に帰るとか言ってたんですか」


「そういうこと。本当はみんなでファミレスとかでも行こうかな〜とか思ってたんだけどね。コンビニでなんか食べて帰るっしょ」


「いいですね。奢りとかは気にしなくていいんでお供しますよ」


「いいの? 先輩が奢るって言ってるんだよ?」


「確かに先週の補習部で割と頑張った気もしますけど、1番大変だったのは東風谷先輩じゃないですか。そんな人に奢らせるわけにはいけませんよ」


 思えばオカルト補習部としての活動が成り立っていたのは東風谷先輩のおかげだ。


 先輩は試験までのスケジュールをたて、週末には部室棟の使用許可をもらい、また教材等も作ってきてくれた。


 僕はその補佐をしたにすぎない。


「そっか、寛は律儀だね。だとしても今日は一緒に帰るっしょ。ひなちゃんじゃないけど、ウチも結構甘いもの好きだし」


「ですね」


 *


 <歩く音>

 

 * 


 帰路に着くなか、僕らはたわいもない話で盛り上がる。


 東風谷先輩は3年のクラスはどんな感じだとか、他の部に所属している友達はどうだとか、色々と新鮮な話をしてくれた。


「そういえばさ、寛」


「なんですか」


「ウチさ、寛の点数見ちゃったんだよね」


「あっ、やっぱりそっちの紙に僕の点数載ってましたか」


 人に見せて恥ずかしい点数は取っていないと思うけど、やっぱり他の人に知られるというのは少し恥ずかしい。

 

 東風谷先輩は口元を押さえてニヤニヤと笑う

 

「寛、前さ元の高校は偏差値55って言ってたけどあれ嘘っしょ?」


「……いえ、それは本当ですよ。調べてもらえればわかります」


「ふーん。じゃあ家とか近かった? 試験すっぽかした? 失敗した時が不安だった?それとも……」


 立て続けに東風谷先輩は質問する。


 なんだか心の内を探られているようで怖い。


 別に僕は自分の考えが間違っているとは思わない。だけど人によってはそれが正解じゃないことだってある。


 話を逸らすためにも、僕らは例の話を食い気味に持ち出す。


「そ、そういえば先輩! 例の窓ガラスの件どうなりましたか?」


「ちょっと話の途中なんだけど!? ま、いっか。はいはい、例の件ね」


 少々不満げに口を尖らせながらも先輩は諦めてくれる。

 

 そして遠く山をぼんやりと見ながら先輩は続けた。


「オカルト部のせいにはならなかったっしょ。ウチ、先生たちから信用されてるから」


「それはよかったです」


 勉強合宿の夜、僕らは謎の怪奇現象に見舞われた。

 

 突風のせいなのか、おばけのせいなのか、不審者のせいなのか定かではないが、校舎に窓ガラスの割れる音が響いた。


 合宿が終わったあと僕らが確認しに行くと、確かに特別棟のガラスが割れていた。


 場所は4階。最上階だ。


「一応、強風で飛来した何かによって割れたってことで、先生たちの中では話がついているみたいだよ」


「オカルト部の出した──4人の結論と同じですね」


「そうだね。ま、ウチと寛は別の可能性考えてるけど」


「………………」


「寛、中間試験は終わった。次は第二回七不思議調査だよ」


「第二回調査は今週木曜にすることにする。平日だったら流石に不審者もいないっしょ」


 先輩は少し不安気に言う。


 暫しの沈黙の後、先輩は大きく息を吸い込んで頬を叩いた。

 

「ま、嫌なこと忘れて今は美味しくスイーツでも食べようぜ! 考えててもしゃーなし!」


「よーし寛、何食べる? ウチは今日ロールケーキ食べたいなー」


「いいですね。僕はそうですね何かアイスでも買おうかと思います」

 

 窓ガラスの破片は外側に落ちていた。


 不安は拭えないが、やらなければ廃部は免れない。


 スイーツの甘さで、今はただ問題を先送りにすることするのだった。

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