第11話前半
[部室]
「そうそう! 今回の『泣け』は已然形ね。『泣く』の活用は他どんな感じになってるか覚えてる?」
「かきくくけけー」
「いいじゃんいいじゃん! ひなちゃんめっちゃできるようになってるっしょ!」
「ふふふー。ひな、やればできる子なんだよー」
「……うん。計算ミスもないね。西園寺さん、もう完全にmolから他の単位に変換できるようになったね」
「当然ですわ。22.4はもう親の顔よりよく見ましたもの。とはいえ、元素の表がなければ解けるか怪しいのですが」
「まあ、それはいいんだよ。テスト始まったら用紙の裏にでも書けばいいから」
「あらまあ、それは名案ですわね。水平リーベですわ」
<チャイム>
「そろそろ下校時間じゃん。今日はここまでにしておこっか」
「うわー、疲れたー。チョコパイ食べよー」
「わたくしも一枚いただいでもよろしいかしら? 理系教科は無性にお腹が空きますの」
「はいどーぞー」
「ありがとうございます、日南田さん」
「てやんでい、いいってことよー。あゆむん先輩は戦友だからねー」
「ふふっ……共に試験を乗り越えましょう」
2人は固い握手を交わすと、チョコパイで乾杯した。
オカルト補習部と化した僕たちの試験対策が始まり数日。
僕と東風谷先輩の方針はやはり正解で、短期間でありながら2人は既にヤマが上手いこと当たれば20点は取れそうな理解度まで来た。
問題の選定が上手くいったということもあるけど、もちろんひなと西園寺さんたちが頑張っていることが1番の要因だ。
自宅での学習時間を聞いてみると、補習部の活動が始まってからは一日2時間はしてくれているらしい。
これまで家での勉強をしてこなかった2人からしたら相当な勉強時間だろう。
今日は金曜日──補習部として試験対策をするのは残すところ来週の月曜日のみだ。
このままでも運よく赤点以上取れてしまう可能性もあるが、正直なところそれはかなり分の悪い賭けの様に思える。
残りの1日でどうにか30点分くらいは解ける様になれるのだろうか。
「寛、ひなちゃんたちのこと心配してるっしょ」
「……そうですね。確かに2人ともかなり頑張って解ける問題は増えています。だけど、このままだと一つのミスで赤点になってしまいそうで」
「ウチも同意見っしょ。このまま試験を受けたらどこかしらで運悪く赤点を引いちゃうと思うね」
やはり先輩も分かっている様だ。
というか、そもそも僕が対策プリントから20点分覚えればいいという話をした時、先輩は真っ先に少し余裕を持って対策をすることを提案していた。
「どうしましょうか、東風谷先輩。土日にどこかで集まれればいいのですが……」
「ふふーん。安心しなよ、寛。実はすでに手は打ってるんだぜ」
先輩はキメ顔でそういうと、手を叩き注目を仰いだ。
「ひなちゃん、あゆむん。明日って空いてる?」
「明日ですの? わたくしは午後からなら空いていますわね。午前中はピアノのレッスンが入っておりますので」
「ひなは夕飯がカレーだからそれまでならいいよー。えへへー楽しみー」
「とりあえず2人とも午後からなら空いてるみたいじゃん。よかったー」
「めぐちゃん先輩ひどいー」
「というわけで、2人とも大丈夫そうだから土日も補習部の活動を行おうと思うっしょ!」
東風谷先輩はひなをスルーしつつ声高に宣言した。
そして、一枚の紙を僕たちに配る。
「オカルト部中間直前合宿……? まさか泊まりがけで勉強するんですか!?」
「その通り! 先生にはすでに許可は貰ってるんだぜ!」
「なんて用意周到な」
「合宿ー! ひなそれなら参加するー。楽しそうだしー」
「オッケーひなちゃんは参加ね! ええっと……あゆむんは大丈夫? あゆむんの家厳しいじゃん? お泊まり無しでも大丈夫なようにスケジュールは組んでるから無理そうだったら言ってね」
僕は先輩からもらった紙を確認する。
合宿は大きく分けて3つのタームに分かれていて、1日目夕飯前に模擬試験、夕飯後に復習、2日目の朝にまた模擬試験と進めていくみたいだ。
おそらくこの合宿における最重要事項は模擬試験。
西園寺さんたちに今圧倒的に足りないのは経験だ。いくら対策プリントから問題が出題されるといえど、試験という緊張感のあるシチュエーションで普段通りの実力が出せるとは限らない。これが『運悪く』の正体と言っても過言ではない。
まさに、僕や東風谷先輩が危惧している部分の補強をしてくれるのがこの模擬試験ということになる。
そう考えると、お泊まりなしでもその重要な模擬試験は受けれるようにスケジュール調整されているのは良い案だと思った。
「ふふっ……心配ご無用ですわ。お母様は常日頃わたくしの学力について非常に心配されております。普段の怪しい部活内容であれば露知らず、勉強合宿であれば引き止める道理がございません」
「わたくしの成績の悪さがここに来て良い様に働くとは。案外捨てたものではありませんわね」
「よーしこれで決まり! 廃部阻止のためにも、ひなちゃん達自身のためにも……週末は勉強合宿をするっしょ!」
「おー!」
突如舞い込んできた勉強合宿。
これまで学校に泊まったことがなかったからすごく楽しみだ。
帰ったらお泊まり用の準備をしないとだな。
ワクワクとした気持ちを抱えながら、僕らは部室に鍵をかけるのだった。
*
[自宅]
「筆記用具よし、参考書よし、着替えよし、歯ブラシよし、他には何か必要かな」
「まあ忘れ物があったら取りに帰れるからいっか。遠出するわけじゃないし」
お泊まりというと結構大事のように思えてしまうけど、宿泊場所は学校だ。
そんなに気負う必要はさらさらなかった。
「ガスの元栓よし、ゴミ捨ては今朝したし……大丈夫そうだな」
全ての確認が済んだ。
普段スクールバッグ一つで学校に行ってるけど、お泊まりの準備があるので水泳のバッグを追加で装備。
クマのキャラクターが描かれた完全女児向けのバッグだった。
他にバッグがあれば良かったんだけど、いかんせんこの家には僕の私物が少ない。
こういった突発的なイベントに少し弱い僕なのであった。
「まあ、私物を揃えるのはお婆ちゃんが帰ってきてからで良いかな。買った後に実は家に合ったなんてなったら勿体無いし」
「それじゃあ行ってきます」
ここら辺で空き巣とかする人はいないだろうけど、一応挨拶をして家を出る。
よーし、今日は楽しみだ。久しぶりにインスタント以外のものも食べれそうだし。
期待で胸を膨らませながら、僕は家の鍵を閉めた。
*
[部室]
部室に来てみると既に僕以外の部員は集まっていた。
「寛、待ってたっしょ」
「寛さん、おはようございますですわ。今日はよろしくお願いしますわね」
「センパイ遅いー」
「時間通りだよ、ひな。皆さんおはようございます。もうお昼過ぎてるけど」
「芸能界的には1番最初の挨拶はおはようございますになるみたいですわよ」
「へー、そうなんだー。ひな知らなかったー。テストに出るかもー」
「絶対出ないっしょ! それより全員揃ったから場所を移すよ」
「部室じゃないんですか?」
「部室棟の4階が大教室になってるんだ。今日はそこを使って勉強するぜ! あと寝るのもそこね」
「やったー! ひな使ったことなかったから楽しみー」
「わたくしも楽しみですわ」
「移動して少ししたら模擬試験を始めるからね。2人とも対策はしてきた?」
「もちろんですわ。今のわたくしに隙はございません」
「ひな、人生で1番勉強したかもー」
「2人とも自信に満ち溢れてますね」
「これなら結果も期待できそうっしょ! そんじゃ、移動!」
「おー!」
*
[部室棟:大教室]
「うわぁ……広いですね。普通の教室2個分くらいですかね?」
「そんぐらいじゃね? 3年になると進学者向けに放課後に課外があったりして、そのときに使うことになるよ」
「なるほど、確かに課外をするならここは便利そうですね」
「そそ。英語とか課外の希望者多いからね。夏明けからはウチも一応課外受けとこっかな」
「学校課外……わたくしの苦手な言葉ですわ」
「ひなもー」
「オカルト補習部の活動は課外みたいなもんだからそんなに怖くないよ!? それはさておき、そろそろ始めようと思うっしょ」
東風谷先輩は試験用紙をカバンから取り出した。
ひなと西園寺さんは適当な場所に座ると筆記用具の準備をした。
「一教科目はひなちゃんは古典、あゆむんは化学基礎から行くね。別の教科からがいいとかある?」
「いいえ、問題ありませんわ」
「意義なしー」
「おっけー。それじゃあこれ、ひなちゃんの分渡してきて」
「了解です」
「時間は50分。早く終わっちゃったらそこで切り上げてもいいってことにするけど、出来れば最後まで粘って欲しいっしょ」
「ゴクリ……」
「それじゃあ──始め!」
東風谷先輩の鋭い声が大教室に響いた。
*
[部室棟:小教室]
試験開始の合図を済ませた僕たちは隣にある小教室に待機することになった。
2人が試験をしている間は結構暇だ。試験監督とかもすることないし何をしようか。
そんなことを考えていると東風谷先輩から声がかかる。
「ほいこれ。今日の模擬試験。一応ウチ1人で解説できるようにはしてきてるけど、暇なら寛も解いてみて欲しいっしょ」
「あっ、ありがとうございます。そうですね。僕も暇なのでちょっと解いてみます」
先輩から模試を受け取り、中身を確認してみる。
まずは西園寺さんの解いている化学から見てみるか。
補習部で解いてきた内容はもちろん出てくる。しかしだ。
「……先輩。これちょっと難しすぎませんか?」
「そう? もしかして寛も解けないとか……!?」
「いやいや、そういうわけではないです。ただ、西園寺さんが勉強した内容以外のものが結構出ているなと」
「たとえばこの大問4、これって二段滴定の問題じゃないですか。この問題は対策プリントから弾いた問題ですよね」
「そうだね」
「それに最後の大問5も弱酸遊離の問題で、そもそも対策プリントにすら入ってない。これじゃあ西園寺さん手つけられませんよ」
弱酸・弱塩基遊離は中間試験範囲における1番最後の単元。習ったばかりで難しいだろうという配慮で、先生も対策プリントから問題を抜いたものだと僕は思っていた。
僕の指摘を受けて東風谷先輩はニシシと笑った。
「それでいいっしょ。ひなちゃんの古典も見てみて」
言われた通り、問題を確認する。
ざっと目を通した感じ、ひなが対策してきた動詞・形容詞の活用以外にも、形容動詞の活用それに音便まで出題されている。
確かにテスト範囲と言われればテスト範囲なんだけど、特に音便はこれを考慮し始めると活用の問題が少し難しくなるということでプリントから弾いた単元だ。
「まあ、安心するっしょ。今のひなちゃんたちにとって難しい問題は入ってるけど、ちゃんとやったことある問題で30点分はちゃんと入ってるから」
「30点分は入ってる……ああ、なるほど」
僕はてっきり試験形式で学んだ内容の確認をすると思っていた。
しかし、実際は……
「対策を切ってきた問題──ダミー問題がちゃんと入ってるってことですね」
「そういうこと。本番は対策してこなかった問題も普通に出題されるからさ。そういうの見てパニックにならないためにさ」
「パニックって……そんなことあります?」
「結構あるっしょ! じゃあ寛、ウチと勝負しようぜ」
「何をです?」
「今やってる試験でひなちゃんたちが20点取れるかどうかの勝負っしょ。ウチは20点に届かないと思うね」
東風谷先輩は真剣な表情でそう言う。
「……では僕は20点以上取ると言うことで」
「よしきた! 絶対ウチが勝つ! 失敗しろ〜失敗しろ〜!」
東風谷先輩は麦わら人形を握りしめながら呪う。
「こら。教え子たちの不幸を願うんじゃあありません」
「まあいいじゃん。これ本番じゃないんだし! 負けた方は買い出しね」
「食材買ってきてなかったんですか!? 勘弁してくださいよ。学校からスーパー遠いんですから……」
これは負けるわけにはいかなくなった。
がんばれひな、西園寺さん。僕たちの未来は君たちにかかっている。
不純な動機を抱えながら、僕は2人の健闘を祈るのだった。
*
<チャイム>
「つ、疲れましたわ……試験期間はこれが4日間も続くなんて考えたくありませんわ!」
「ひなもー。もう無理脳みそ溶けちゃいそうー」
「2人ともお疲れ〜。冷たいジュースはいかがかね〜」
「ありがとー。甘いものがないと生きていけないよー」
「ありがとうございます。疲れた脳に効きますわね」
西園寺さんは喉を鳴らしてりんごジュースを飲み干した。
僕も額にかいた汗を拭いながらスポーツドリンクを一杯。
まだ気温は高くないが火照った身体に冷たいそれがよく沁みた。
「ところで」
「寛さんはどうしてそんなに汗を?」
西園寺さんは不審げに僕を見る。
「色々あってね。暇だからランニングでもしようかと思ってさ」
「そうでしたの。運動は大切ですわよね」
「あはは……そうだね」
乾いた笑いを返す僕。ご察しの通り、僕は東風谷先輩との賭けに負けた。
点数は、ひなは古典で15点、西園寺さんは化学で18点だった。
2人とも見慣れない問題が入ったところで、自分が解ける問題がどれなのかを見失ってしまったらしい。
「というわけで、模擬試験は終了したのでしばらく休憩とするっしょ!」
「わーい。ひなもう何も考えたくなーい」
「ふぅ……一息つけますわね」
「どんだけ疲れてるのさ。じゃあ寛、ウチらで夕食作っちゃおっか」
「そうですね」
「ごはん!」
椅子を2つくっつけてくつろいでいたひなが飛び起きる。
「ひな味見係するー」
「そんな係はありません」
「けちー」
「ちょっとぐらいいいっしょ。それに味見してくれないと味が不安だから逆にありがたいじゃん」
「確かにそれもそうですね」
「ところで、先輩って料理できたんですね。カレー作ろうって言われたときはびっくりしましたよ」
「え、できないよ?」
「え?」
「え?」
2人の間に沈黙が流れる。
夕飯は自炊にしようと提案したのは東風谷先輩だ。まさか提案だけ……!?
「ウチはひなちゃんと一緒で食べる専門だから! まあでも、カレーくらいなら誰でもできるっしょ! 簡単って聞くし!」
「ま、まあそれもそうですね。流石にカレーは失敗しなそ」
「調理実習では失敗したけど」
「風向きが変わりましたね。大丈夫なんですか先輩……不安になってきましたよ」
「な、なにをー! そういう寛は料理できんの?」
「ぼ、僕の話はいいじゃないですか。今は」
東風谷先輩と睨み合う。
まずいことになった。
机の上にはにんじんじゃがいも玉ねぎ豚肉──僕が買ってきたカレーの具材たちが並んでいる。
生のままこれを食べるのはあまりに無理がある。
先輩の持ってきたガスコンロが心なしか悲しげだった。
「まさか寛が料理できないなんて思わなかったっしょ……ウチ完全に作ってもらう予定だったし」
「なんて人任せな! 僕は普段3食レトルトですよ」
僕らが揉めはじめたところで、西園寺さんが手を叩いた。
「ご静粛に。全く仕方ありませんわね。今日のところはわたくしが料理を作って差し上げますわ」
「ええ!? あゆむん料理できたの!?」
「失敬な。西園寺家では花嫁修行も当然されていますわ。料理もその一つです」
「花嫁修行って一般人の口から聞くことあるんだ」
「無駄口叩いてないで始めますわよ。わたくしももうお腹ぺこぺこですから」
こうして西園寺さんのお嬢様クッキングの幕が上がった。
*
「はぁ……はぁ……お鍋……買って来たよ」
「お疲れ様です、寛さん。それでは早速ですが東風谷先輩の方を手伝ってください。はいこれ、ピーラーですわ」
「はぁ……はぁ……あ、ありがとう」
「東風谷先輩、じゃがいもはきちんと芽を取ってくださいと言ったではありませんか。やり直しです」
「えー、実はこう言うところが1番美味しかったり」
「毒です」
「やらせていただきます」
「ひなさん、人参の皮できんぴらを作りましたわ。味見します?」
「するー」
「うーん! おいしいかもー! あゆむん先輩天才だー」
「ふふっ、ありがとうございますわ。部室にお砂糖があって助かりましたわね」
「ところでカレーを作るのに何故醤油も買ってきたのですか?」
「えっ、カレーって醤油入れないの?」
「普通入れませんわ」
「ひなでもそれは分かるー」
「……気の迷いです」
「コンロが1つしかありませんから、まずはお米を炊きますわ」
「あいあいさー」
西園寺さんは手際よく料理の支度をしていく。
僕はお米を炊くための鍋を買いに行ってたから、調理風景は見てないけど何やら既に一品作ってしまったらしい。すごい。
「お米ってこの鍋で炊けるの……? その炊飯器とか……」
「炊けますわよ。炊いたことはありませんが」
「そんな! じゃあどうしてそんな自信が」
「お米なんて極論お水を入れて火にかけてしばらく放置すれば炊けますわ」
「そんなメチャクチャな……」
「案外、簡単ですのよ。寛さんもお米くらい自炊してみては?」
「そ、そうなの? そんなに簡単ならやってみようかな」
西園寺さんに言われるとなんだかできる気がしてきた。
「是非そうしてください。寛さんがお望みなら、おかずくらいは作りに行ってあげなくもありませんわ」
「流石にそれは申し訳なさすぎるよ。とりあえず、白米とふりかけから初めてみようと思う」
「いい心がけですわね。満足できなくなったらいつでも頼ってくださいね」
自信あり気に西園寺さんは微笑む。
最近補習部でポンコツな部分を見てきたから忘れてたけど、西園寺さんはとても頼りになる子だと再確認した。
「……そうだ。なんかあれですね。この4人でサバイバルとかできなくもなさそうですね」
「突然どうしたん? まさかこのまま学校に閉じ込められるフラグ……」
「そうじゃないです。ほら、西園寺さんは料理できるし、ひなは食べれる草とか知ってるし、東風谷先輩はその……手先が器用」
「無理やり絞り出した感が否めないっしょ……」
「ほ、本気ですって! 東風谷先輩、藁人形とか作るの上手じゃないですか」
「あっ、確かに。ウチ手先器用かも」
『めぐちゃんスゴイ』
「丸め込まれましたわ」
「そんな僕が悪意を持ってるみたいにしないで! そして最後に僕は一応男でパワーがあります」
「嘘だー。センパイ腕細いよー」
「……パワーがあります。幽霊とか出ても僕に任せて」
「ゴリ押しですわ。しかしまあ、確かに寛さんの言う通りわたくしたち結構バランスのいいチームになっているように思えますわね」
「でしょ!? わかってもらえてよかった……」
「あはー、ひなたち最強のオカルト部を目指せるねー」
「だねだね! マジ卍っしょ!」
「今日だってあゆむん先輩がご飯作って、センパイが買い出し行って、ひなが味見して、めぐちゃん先輩は……」
「うんうん」
「めぐちゃん先輩は……そうだねー。色々やってたし丁度いい感じかもー」
「何その微妙な評価!?」
「うわああああああん! ひなちゃんまでウチをオチにしやがって! 呪ってやる〜呪ってやる〜!」
どうやらオカルト部はボケツッコミのバランスも良かったらしい。
東風谷先輩はロウちゃんに五寸釘を刺しながら叫ぶのだった。
*
[部室棟:小教室]
「できたー!」
一時はどうなる事かと思っていたが、西園寺さんのお陰で無事に僕らの夕飯は完成した。
紙のお皿にカレーが盛られているとなんだかキャンプに来た気分だ。
4つくっつけた机の中央には、西園寺さんが急遽アドリブで作ったきんぴらにんじんも鎮座している。
「それではみなさん」
『いただきまーす』
いただきますを済まして、早速カレーへスプーンを伸ばす。
西園寺さんが作ってくれたカレーだ。
心なしか、家で食べていたものより色が濃いように思える。
テカテカと光るライスと共にカレーを口に頬張ると……
「美味しい! 西園寺さん、これすごく美味しいよ!」
「おいしー! あゆむん先輩結婚してー」
「当然ですわ。カレーは失敗する方が難しいですもの」
「ちょっとそこ、ウチの古傷を抉らないで!」
「隠し味とか入ってるの? なんか家で食べてたカレーより断然美味しいんだけど……」
「特に入れていませんわよ。もちろん、状況が状況でしたからメーカー指定の方法ではありませんが、普通に作っただけですわ」
「そうなの!? じゃあなんでこんなに美味しいんだろう」
「もしかすると、寛さんのお家での作り方が間違っていたのかもしれませんわよ。例えば水の分量を守らないとか、ルーを入れてから煮込んでしまうとか」
「まさかそんなこと……」
僕は普段家で食べていたカレーを思い浮かべてみる。
心なしか、いや確実に西園寺さんが作ったものより水っぽかった。
多分、分量通り作ってなかったんだな……
「思い当たる節があるようですわね」
「あはは……そうだね」
「案外、普通が1番難しいのかもしれませんわね。人とは得てして、変にオリジナリティを出してしまうものですわ。件の醤油のように」
「うがっ」
「東風谷先輩も一度きちんと説明書通りに作ってみたら如何でしょうか?きっと成功して、苦手意識がなくなると思いますわよ」
「あゆむん……いや、師匠! ウチ今度リベンジしてみるっしょ!」
東風谷先輩はカレーを口に運びつつ目を輝かせた。
僕も今度お米だけじゃなくてカレーに挑戦してみようかな。
来週の小さな目標を設定しつつ、久しぶりにありつけた手作り料理のありがたさを噛み締めるのであった。
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