第9話
第一回七不思議調査当日──
「連絡事項は以上。それじゃあさようなら」
山口先生は業務連絡を終えるといつものように、そそくさと教室を後にする。
帰りのホームルームが終わり、いつものようにクラスメイトたちが一斉に教室を飛び出す……かと思いきや今日はなんだか活気がなかった。
天気はいいのになんとも不思議だなぁとか考えていると、僕の心を見透かしたように隣で支度をしていた彼女が口を開く。
「今日からテスト前1週間ですわ。部活によっては、今日から部活がありませんのよ」
「ああ、そういうことね。オカルト部は普通に部活あるけど」
「オカルト部は活動に顧問が必要ありませんもの。テスト前1週間の休みは、わたくしたちの準備期間であると同時に先生たちの準備期間でもあると以前先生が仰っていましたわ」
「へー、それは知らなかったな。……でも今思えば前の高校でもテスト前1週間は職員室に立ち入り禁止だった。そういうことだったんだ」
「今職員室に忍び込めばもしかすると中間試験の問題を手に入れられるかもしれませんわね」
「絶対やらないでね!? 中間試験は真っ当に戦って、真っ当に勝利しよう……!」
「寛さんは何と勝負しているのですの……? わたくしも……中間試験はそれなりに頑張りますわ。あまり勉強は好きではありませんが」
西園寺さんはため息をついた。
「さて、わたくしたちも一度帰りましょうか。今日の部活は7時からでしたわよね?」
「そのはず。ええっと……ご飯食べてから学校に集合だって」
僕はスマホを開きオカルト部のSNSを見ながらそう言った。
「ありがとうございます。それでは、わたくし今日も迎えが来ておりますので」
「お家の人を待たせちゃうとよくないね。校門まで一緒に行こう」
「ええ」
こうして僕らは一度家に戻ることになるのだった。
*
時刻は6時50分。
定刻10分前に学校に到着した。
当然の事ながら下校時刻は既に過ぎている。学内にオカルト部以外の生徒はいないだろう。
校門に一歩足を踏み入れると、そこはまるで自分の足跡が跳ね返ってくるような静けさだった。
「部室に向かおう。西園寺さんたちもういるかな」
*
部室までくると、部屋の前には既に東風谷先輩とひながいた。
こっちに気がつくと彼女たちは手を振った。
「おーい寛、こっちこっち!」
「センパイおそーい」
「いやまだ集合時間10分前だよ。……西園寺さんはまだ来てないんですね」
「そうだねー。まあじきに来るっしょ……っと、ちょっと待ってて」
東風谷先輩は一度部室に入る。
しばらく中でガタガタと物音がした後、彼女は再び戻ってくる。
「これ渡すの忘れてた。はい、寛とひなちゃんの分。一応先週確認したけど、電気つくか試してみて」
「これは……懐中電灯ですか。確かに必要ですね」
「見てみてセンパイ、うらめしやー」
ひなはライトを使って下から顔を照らす。
「あはは、懐中電灯手にするとそれやりたくなるよね。僕もほら……うらめしやー」
「なぬー、センパイもうらめしやの使い手であったかー。このネタはひなの十八番だと思っていたのにー」
「これって鉄板ネタじゃない!? ひなはどこでこれ知ったの?」
「ほんこわー」
「バリバリテレビからの情報!」
「おっ、なになに!? オカルトの話してる!? ひなちゃんたちもついにオカルト部としての自覚が……」
「ううん。小学校のとき一回見たことあっただけー。お昼にやってたー」
「まさかの再放送枠!? オカルト部ならちゃんと新作リアタイ視聴するっしょ!」
「あの番組って夏の終わりくらいに新作やって、それまでお昼に旧作再放送しまくってますよね。僕は割と見てましたよ」
「寛……信じてたで……あんたが本物のオカルト部や……」
「オカルト好き認定雑過ぎません!? 正直僕はほんこわより世にも奇妙な〜の方が好きでしたね」
「『ほんこわ』と『よにも』は全然別物だよ……」
東風谷先輩はトホホと涙を流しながら肩を落とした。
どうやら『ほんこわ』は視聴者投稿が多いからオカルト要素が強くて、『よにも』の方には原作となる小説があるからオカルトではないらしい。
あの手の番組を半ば信じていたので原作小説があることを知って僕はちょっとショックだった。
*
「みなさんお待たせしましたわ」
そうこうしているうちに西園寺さんが到着した。時間は19時5分。
心なしか額が少し汗ばんでいた。
「こんばんわ、西園寺さん。なんか汗かいてない……?」
「ええ、ここまで少し走って来ましたもので」
「走って来たの!? それは大変だったね。流石に夜遅くはお家の人に車出してもらえなかったか感じか」
「いいえ、そもそもここにはお母様たちに内緒で来ているのですわ。裏口から、こっそり抜けてきましたわ」
「えええ……大丈夫だよね? 警察とか呼ばれないよね?」
どうやら僕の知らないところで脱走劇が繰り広げられていたらしい。
「置き手紙をしてきたので大丈夫だと思いますわ。帰りは寛さんが送ってくださいませ」
「わかった。帰りは一緒に帰ろう。ひなはどうする?」
「ひなもお供しますぞー」
「なになにウチだけ仲間外れは酷いじゃーん! もちろんウチもついていくよ。チャリで来たし」
東風谷先輩は握り拳を作るとキメ顔で気合十分にそう言った。
「みなさん……ありがとうございますわ。わたくし、オカルト部に入って本当に良かったですわ!」
「まあオカルト部に入ってなかったらこんな夜遅くに出歩くこともなかったんだけどね!」
「ちょっと先輩良いシーンなのに台無しですよそれじゃあ!」
「細かいことは気にしない! そんじゃ、全員揃ったことだし早速活動を始めよっか」
こうして僕らの第一回七不思議調査が始まるのだった。
*
「さて、今回の調査対象として3つの七不思議を持ってきたよ」
東風谷先輩は事前に作ってきたプリントを僕らに見せる。
日は既に落ちており、あるのは非常灯と職員室の明かりだけ。
このままでは見えないため懐中電灯でプリントを照らした。
「ええっと1つ目は……『おばけ階段』ですか。あれですよね。登ったときと降りたときで段数が違うっていう」
「そのとーり! これはみんなも知ってるよね?」
「ひなは知ってるー」
「わたくしも知っていますわ」
全員の反応を見て東風谷先輩はよしっと呟き笑みを浮かべる。
『おばけ階段』という名前がついているのは初耳だったけど、この七不思議はかなり鉄板ものだろう。
手軽に試すことができるし、小学生のころ学校の階段でやったことがある。
「おっけー、それじゃあ次行くぜ!」
「二つ目は……『動く二宮金次郎像』ですわね。わたくしは知っていますわ。小学校の頃に二宮金次郎像がありましたもの」
「僕も知ってるね。小学校にあったかと言われればなかったけど、割と一般教養みたいなところがあるんじゃないかな」
「えー、みんな知ってるのー? 二宮……なんとかさんってどなた様ー?」
「ひなちゃんは知らない感じね。二宮金次郎さんは江戸時代にいた農家の人だよ。仕事をしながらも勉強を頑張って偉くなったとかそんな感じ。簡単にいえばウチら高校生にとってはお手本となる存在だね」
「夜に勉強するために菜種油を自分で作る話とかも有名ですよね。僕はそんなに努力できないかも……」
「あー、その話は知ってるー。中学生のとき聞いたよー」
「なんでこっちだけ!?」
「あはー、油ってこうやって作るんだーって、興味あったから。ひな揚げ物好きだしー」
「食べ物の話として記憶してた!? 興味関心って大切だなぁ……」
恐ろしき食欲。ひなは食べることに関して人一倍長けていた。
「というわけで、二つ目は『動く二宮金次郎像』ね」
「それじゃ三つ目は『トイレの花子さん』──これを知らない人はまさかいないよね」
東風谷先輩はグルリと僕らを見回す。
もちろん、僕らは全員頷いた。
「おっけー。というわけで、今日はこの三つの七不思議を調査していくっしょ! ウチらは4人、謎は3個……ここは手分けして調査していくぜ!」
「基本1人で調査しに行って、1つの謎だけ2人になる感じですね」
「その通り! じゃあ分け方なんだけど……寛はまだ転校してから日が浅いから、ウチ、あゆむん、ひなちゃんの3人が別々になって、寛が3人のうち誰かと一緒に調査するって形にしようと思う」
「担当する七不思議は、ひなちゃんが『おばけ階段』、あゆむんが『動く二宮金次郎像』、ウチが『トイレの花子さん』……これでいい?」
「おっけー。ひな二宮なんとか知らないしー」
「わ、わかりましたわ。動くか観察すればいいだけですものね」
「了解です。僕はどの七不思議に同行したいか決めればいいんですね」
その一言で、彼女たち3人の視線が一気に僕に集まる。
軽い気持ちで同意したけど結構一大事かもしれないぞ。
「センパイ、ひなと一緒に参りませうー」
「寛さん、わかっていますわね……?」
「寛、やっぱりここは王道を征く……『トイレの花子さん』じゃね?」
「むむむ……」
どうしたものか。3人とも僕と一緒に行きたがっている……
担当する七不思議はひなが『おばけ階段』、西園寺さんが『動く二宮金次郎像』、東風谷先輩が『トイレの花子さん』
さて、誰についていこうか
◯ひなについていく
◯西園寺さんについていく
◯東風谷先輩についていく
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