1-4

「あ、また君か」


 橋の上に敷かれた線路が近い堤防で、嵐の中で、少女を見つけた。


「……どうも」


「どうもって、ここどこか分かってる?」


「わかってるよ」


「流れの速い川だよ? こんな嵐の中で、危ないよ」


「じゃあなんでここにいるの?」


「私がここにいる理由? そんなの死ぬために決まってるじゃん。前は池だったからカモに迷惑をかけちゃうけど、今回は川だから。いずれ海に行くし、海に身を投げる人なんてたくさんいる」


 少女は、川の行く末に天国を見出したかのような目を投げかける。


「魚はかわいそうじゃないの?」


「こんな激流の中、のんきに泳いでいる魚なんていないよ。っていうか、なんで君はここにいるの」


「……おじいちゃんが外行っちゃったから」


「えっ、おじいちゃんが外に? なんで?」


「田んぼ見に行くって」


「いくら田舎のここでもその言葉を聞くとは思わなかったよ……ほら、行くよ」


 少女はこちらにやってきて、僕の横を通り過ぎる。


「行くって、どこに?」


「決まってるじゃん。おじいちゃん、探しに行くんでしょ?」


「ちょっと、手を引っ張らないでよ!」


「手引っ張るなって、君がもたもたしてるからでしょ! 行くよ!」


 僕は今、手を引っ張られて雨の中コンクリートの道を走っている。

 君の顔は、とても必死だな。

 なんで僕のおじいちゃんを助けるために、こんなに真剣になるんだろう。

 なんで君は死にたがっているのだろう。


 僕は、羨ましいよ。



*****



「よかった。おじいちゃん見つかって」


「ありがとう」


「お礼言ってもらうために助けたわけじゃないから」


「……どこ行くの?」


「どこ行くって、帰るんだよ。もう雨も止んだし。これじゃ死ぬ前に助かっちゃうかもでしょ?」


「そうだね。じゃあまた」


「じゃあまた、ってまさかまた会う気? 君に邪魔されまくって、なんかだんだんモチベーション下がってきてるんだけど?」


「……ごめん」


「……」


 歩いていく少女の小さい背中は、雲間から除く夕日に照らされて光っていた。

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