7/7 ぶつかり考察

 よく人にぶつかりそうになる。

 エレベーターを乗り降りするときでも道でも、とにかくぶつかりそうになる。相手には悪いと思っているし気をつけているつもりだけれども、鈍くささがそう簡単になおれば苦労はしない。

 そんな自分の「ぶつかりそう経験」の中で、ふと妙なことに気付いた。

 相手はだいたい四十代くらいを境に、ぶつかりそうになったときのリアクションが違ってくることが多い。


 手っ取り早く例をあげてみよう。(年齢層は確かめたわけではないので見た目での判断とする)

 二十代男性「すみません」

 二十代女性「あっ、すみません」

 三十代女性「ごめんなさい」


 これが四十代から五十代以上になると、まったく違ってくる。

 四十代~五十代女性「あっおどろいたぁ」

 六十代~七十代男性「おどろいたっ」

 四十代女性「おうおうおうおう」


 つまり、四十代くらいを越すと人とぶつかりそうになったとき、とっさに謝らなくなる。代わりに心の中の声をそのまま口に出したような反応をする。道で高齢の女性とぶつかりそうになったときは、

「ああ、あぶない、あぶないわぁ、あぶないあぶない、あぶないわぁ」

 と、お互い距離が離れて声が聞こえなくなるまで言われ続けたことすらある。ぶつかりそうになったのは悪いとは思うが、そこまであてつけがましく言わなくても……とやや不満すら出そうになる。高齢者ともなるとぶつかって転ぶリスクに敏感になるのかとも思うが、四十代だとまだそこまでは気にしていないのではないか。

 この違いの原因はなんだろう、とずっと気になっていた。


 とりあえず、ふたつ仮説を立ててみた。

・四十代を越すと社会的地位が高くなるので、「とっさに謝る」という思考がなくなる

 会社勤めだと、四十代以上になるとそれなりの地位にはついている確率が高くなるし、役職に就いていなくても社内で相応の発言力があってもおかしくない。もちろん社内で何かあれば謝罪をすることはあるだろうが、「知らない人とぶつかりそうになる」程度のアクシデントだと、まだ若い人より「謝りグセ」というのだろうか、そういうものが出にくくなるのではないか。

 この仮説には主婦や主夫は含まれていないのだが、ぶつかりそうになるたびに「あなたは主婦(主夫)ですか?」ときいたりしたら怪しいことこの上ないのでそこまで検証はできない。残念である。


・人間は年をとると図々しくなるので、「とりあえず謝る」という判断がとっさにできなくなる

 もちろん全員がそうとは限らないが、わりと人間、生きていると図々しくなる。十代から図太い人間もいるが。自分も学生時代に比べてわりと図太くなったというか、言うことは言うようになったな……と思ってはいる。

 図々しくなると人にぶつかりそうになったとき、「謝ってトラブルを回避しよう」と相手との関係を慮る判断を下す代わりに、自分の感情を優先して思ったことがつい口に出る、ということもありそうだ、と考えてもいる。


 脳科学や心理学などを勉強すればもっと的確な仮説が立てられそうなものだが、脳科学や心理学を学ぶ側からしたら「そんなことにこの学問を使われても……」と思われそうなので、深追いはしないでおく。


 ちなみに今まで自分がぶつかりそうになった相手でいちばん印象的なのは、五十代から六十代くらいの相手に「邪魔すんなお前えぇぇえええ!!」という雄叫びとともに殴られたことである。これはもうサンプルとして役に立たないレベルの反応なので考察からは省いておいた。その人が家族や親戚や同じ会社の人間や近隣住民でなかったことを幸運に思うだけである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る