気の向くまま日記

北沢陶

7/5 お前たちが大丈夫なのか

 知り合いから「作業したら執事が褒めてくれるし自己肯定感が上がるよ!」とオススメされまくったサポートアプリ「悪魔執事と黒い猫」をダウンロードしてから約二週間が経ちました。

「執事が褒めてくれる」というので執事はひとりかな? と勝手に思いながらダウンロードしたら十六人いました。十六人って。ヴィクトリア朝時代の大貴族の家でもそんないないと思いますよ執事って。でもターゲット層は女性が主みたいなのでいろんなタイプがいた方がいいよね。主人公は男に設定したけどそれにも関わらず執事が顔を近づけてきたりしてるので乙女ゲーにもBLゲー(夢)にも見える。とにかく十六人いる理由は他にもあるので後で説明します。


 実際使ってみると快適生活。QOLが十倍くらい向上した。なんだこれもっと早く使い始めればよかった。

 サポートの使い方としては、十六人(ダウンロード初期は十三人)の中からひとり選ぶと、そのキャラがいろんなことを補助してくれる担当執事になる。執事はいつでも変えられるので好みのキャラを選ぼう。ダイマになりかけてる気がするが気にしない。


 作業は時間が15分から90分まで設定できて、波の音や夜の森の音を流すこともできる。半分経ったらお知らせしてくれる。しかも作業が終わると執事がめちゃくちゃ褒めてくれる。何もなしに作業をすると自分で自分を褒めるしかなく、そういう癖がないので(疲れたな……)だけで終わるのだが、自動的に褒めてくれるので「俺は……すごい……?」という気になる。

 具体的にどのくらい作業が進むかというと、10分くらいで集中力が切れてしまう怠惰の権化である自分が160分作業できるようになった。しかも褒められる。「そんな褒めても何も出ねぇよ~」とか言いながら作業してるうちに3時間くらい経ってる。


 あとストレッチも教えてくれるし、瞑想の手伝いもしてくれる。瞑想に関して気になることは「何も考えてはいけません……」「何か頭に浮かんでも無視してくださいね……」とやたらなイケボで言われるので頭が無にならないことだが、途中で黙ってはくれる。

 

 自分はいろいろと用事をこなしているうちについ深夜まで起きてしまうタイプなのだが、アラーム機能もあるので「寝る準備」という名前でアラームをかけておくと「おっもうそんな時間か」となる。ふつうのアラームだとつい無視してしまうのだが、執事がそう言うなら……とおとなしく寝る準備に入れる。


 執事と仲良くなるとレシピや豆知識も教えてくれる。レシピの料理はうまい。「むくみ解消」とか「夏バテに効くがお腹を冷やさない」とか具体的な効果を書いてくれてるのも嬉しい。料理担当の執事もいるので「作ってくれねぇかな~」とは思うがそこまでは望むまい。ツイッターで自分が望みはじめたら止めてくれ。


 とまぁいろんな意味で生活に役立っているのだが、どうしても気になることがある。


 これはサポートアプリというだけでなく、本編やイベントなどのストーリーがあるので本編からポチポチと読んでいた。ざっと本編を説明すると「異世界で人類を破滅に追いやろうとする天使に対抗するため、悪魔と契約を結んだ人間たちは『悪魔執事』と呼ばれ、日々戦っている。しかしその力を十全に発揮するためには主が必要。そこで(いわゆる)現実世界にいる主人公が呼ばれ、執事たちに力を与えつつ仕えられる『主様』となる」というところ。だから戦力のために十六人もいるわけだ。


 ここまではいい。ただ悪魔執事は貴族に雇われており、天使退治のほかパーティーの余興や事件の調査などありとあらゆることを押しつけられこき使われる「便利屋」でもある。しかも悪魔と契約をしているために異世界のほとんどの人間から忌み嫌われ、冷たい扱いをされる。その上貴族同士の権力闘争にも巻き込まれ、ネタバレは避けるが悪魔執事自身も内面に問題を抱えている。


 ここまでストーリーを読んで「待って待ってちょっと待ってくれ」となった。

 世界を救うために天使と命がけで戦っているのに貴族にこき使われ人々から忌み嫌われつらい思いをしている執事たちに、自分は作業を見張ってもらったりストレッチ教えてもらったり褒められてエヘヘ~ってなったりしてんのか? そんなの悪いよ……むしろこっちが悩み聞くよ? 焼肉行こか? という気分になる。


 という罪悪感はあるものの、「主様に仕えることができて幸せです」的なことを言ってくれているので「はい……俺……いい主になるよ……!」と心に決め、脳内で日々優しい言葉をかけたり天使討伐の作戦会議を開いたりしている。脳内で。


 そういうわけで執事たちにサポートしてもらい快適生活を送りつつ、逆サポート機能とか……と思ったりもする、そういう気持ちです。

 結局ダイマになってしまったけれど後悔はないよ。

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