ストーンサークル

西順

ストーンサークル

 僕の家の近所に、ストーンサークルがある。そうは言ってもイギリスのストーンヘンジみたいな巨石を組んで出来た大きなものではなく、地面に石を環の形に並べた程度のものだ。こう言うのを日本語で環状列石と言うそうだ。


 ストーンサークルと言うと人里離れた辺ぴな所にあるイメージだろうけど、近所だ。学校帰りに通りかかる公園の中にあるのだ。


 とは言え偽物とか人寄せの為に最近造られた訳でなく、何でも考古学者曰く、縄文時代からここに存在するそうだ。


 その割にはぞんざいな扱いな気がする。何せ神社やお寺ではなく公園の中にあるのだ。僕が小さい頃も、この石の上を飛び石のように跳ね回っていたし、今も一人の子供がストーンサークルの周りをぐるぐる走り回っている。


「コラッ!!」


 そこに怒鳴り声が落ちる。公園の隣に住む爺さんだ。


「その遺跡は神聖なものだと何度言ったら分かるんだ! それで遊ぶんじゃない! バチが当たるぞ!」


 昔から変わらないな。僕が小学生の時にも同じ事を言われていたっけ。


「へえ? こんなのただの石じゃん!」


 言ってその子供が、ストーンサークルの石の一つを蹴りつけた。


「コラッ! やめろと言うのが分からんのか!」


 そう言って更に怒鳴りつける爺さんに、


「うちの子に何するんですか!」


 と子供と爺さんの間に割って入るおばさん。あの感じからすると子供の母親だろう。


「何をしとるだと!? お前の子か!? なら遺跡は傷付けんようにしっかり躾けんか!」


 母親にまで怒鳴りつける爺さん。そこから爺さんと母親による口ゲンカが始まった訳だが、なんだなんだ? と野次馬が集まってきた所で、母親は外聞を考えて子供を連れて公園から去っていった。


 親子が去っていった後、爺さんは子供が蹴飛ばした石が傷付いている事に愕然としていた。終わったな、あの親子。


 次の日も当然帰り道はあの公園を通りかかるので、どうなったかと少し公園を覗いてみれば、母親が爺さんに土下座していた。


「どうにかならないでしょうか? 息子が、うちの子が、昨日あれから様子がおかしいんです!」


 そんな母親の横で子供はビシッと直立不動している。昨日はあんなにわんぱくだったのに、今はその影はまるでない。正に良い子の見本のようだ。


 そんな子供の異常さに、どうにか元に戻って欲しいと母親は爺さんにすがりつくが、爺さんは難しい顔で首を横に振るだけだ。


「ワシがどうにかした訳ではない。ワシにはどうにも出来ん」


 そう言って爺さんはストーンサークルに目を向ける。そう。あのストーンサークルを傷付けた者は皆、人が変わったかのように善人となるのだ。その為にこの地区には善人がとても多い。かく言う僕もそのうちの一人である。


 あのストーンサークルで遊び、石の一つを欠けさせた日の夜、夢を見た。それまでの自分と自分に良く似た何者かが入れ替わる夢を。


 その日以来僕の頭は霧が晴れたようにスッキリし、僕は両親の言う事を良く聞く子供となり、学校帰りに寄り道しなければ、宿題もすぐにやり、休日はボランティアに勤しむ人間となった。


 こうなった事に後悔は一ミリも無いが、ただ引っかかるのは、あの夢以来、僕は性格が変わってしまっただけなのか、それとも別人と入れ替わってしまったのかと言う事だ。僕は本当の僕なのだろうか。

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ストーンサークル 西順 @nisijun624

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