第3話 災厄の魔女の災厄

 カインを仲間にできたものの、これは本当に幸運過ぎた出来事だった。



 『魔力病』は最大魔力量以上に魔力が回復してしまう病気で、過剰回復した分が肉体にダメージを与えてしまうと言うものなのだ。

 さすがに完治させる為の薬は簡単には手に入らないようになっているが、症状を緩和させるだけだったら簡単である。



 要は魔力の過剰回復が原因なのだから、それ以上に魔力を使わせたら良い。ただそれだけである。



 そこで登場するのがダンジョン。

 ダンジョンなら魔法を放ったとしても自然への被害はない。

 ゲームでどんな強大な魔法を放っても壊れないダンジョンは魔法が吸収されてるのでは、と言われていた。


 つまりこの方法なら何かに影響を出すこと無く魔力を消費させることができるのだ。

 その証拠に今ではメルシャの体調はずいぶんと良くなっているようだった。



 そろそろ魔法を放つ回数を減らしても良いかもしれない。



 メルシャの問題が解決へ向かったことを確認したあと、そろそろ次の行動を起こそうと考えていた。



 次に攻略すべき相手は西のダンジョンの奥深くに封印されている『災厄の魔女』だ。



 彼女の封印を解くとその者に世界を破壊する力を授けると言われている魔女なのだが、実際は邪な考えを持つ者が封印を解いたせいで悪側に付いてしまったかわいそうな人物なのだ。



 彼女の場合は俺が封印を解きさえすれば問題は解決できるだろう。



 ただ、問題はそこまで行く方法である。


 作中で彼女が封印を解くのは魔族の中でも特に強力な力を持つと言われている四天王の一人である。

 自身が魔王の座に就くべく力を欲した結果、魔女が封印されている彼の地に目を付けたのだ。


 魔女の力がなくてもゲーム中盤で主人公たちを軽く破るほどの実力を持つ魔族が軍を率いて、たくさんの犠牲を払った上で攻略せしめたダンジョンを俺とカインのたった二人で攻略しないといけない。


 通常ならばそんなことまず不可能である。

 どうやら俺に隠れて訓練しているらしいカインは大人顔負けの腕を身に着けている。

 さすがは急成長を遂げる悪役である。


 この調子で力を付けてくれるならすぐにダンジョンに潜れる日が来そうだ。

 その一方で俺の方は全く能力が上がらなかった。



「アデル様もしっかり成長されてますよ」



 カインが励ましてくれているが、自分の力は自分が一番わかる。


 アデルは滅ぶことを前提に作られているキャラであるというのが目に見えてわかる。

 それもそのはずで最大級の成長デバフがかけられているのだから。



 アデル

 レベル:1

 スキル:【成長率:-10】

 魔法:【火:0】【水:0】【風:0】【土:0】【光:0】【闇:0】【回復:0】【時空:0】


 カイン

 レベル:3

 スキル:【剣術:1】【采配:1】

 魔法:【水:1】【闇:1】


 メルシャ

 レベル10

 スキル:【魔力暴走】【料理:2】

 魔法:【水:5】【闇:2】




 今の能力はこんな感じである。



 これだけ見ると俺はチートキャラに見えるんだけど適性があるだけで使えない魔法とかあっても仕方ないでしょ。


 魔法レベルが0というのは、まだ使うことのできない魔法なのだ。

 何かきっかけがあれば……、例えばゲーム中だとレベルアップで魔法を覚えたら使えるようになる、とかそういうものである。


 実質合っても仕方ない魔法ということだった。

 ステータスが読みにくくなるだけとも言える。



 更に成長率はマイナス。


 

 さすがにこの能力だと封印されたダンジョンに挑むには全くと言っていいほどレベルが足りななかった……。




◇◇◇




 それから更に一ヶ月がすぎる。

 すでにメルシャの体は良くなっており、もうダンジョンの水やりにっかはしなくていいのだが、三ヶ月間、毎日繰り返していたこともあり、自然と魔力が尽きるまで水魔法を放つことはやめられないようだった。



 しかし、最近ではそれと別に館の料理も受け持つようになってくれている。

 かなり腕がよく、日々の楽しみが増えたのは予想外の幸運だった。



 カインも順調に力がついているようで見出した俺も鼻高々だった。



 そんな俺は一体何をしているかといえば……。



 結局三ヶ月間毎日特訓をしていたにもかかわらず、一切能力が上がらなかったのでいっそ割り切って、封印のダンジョンを調べていた。



 中に入らないとどんな魔物がいるかはわからないが、ゲーム内の記憶はあった。

 このダンジョンにいたのはスケルトンやゾンビといったアンデット系の魔物で『滅びた町』近くにあるダンジョンらしかった。



 ただ最下層にいる魔女にはダンジョンの中では会えない。

 それは主人公たちには封印を破る術がなかったからだ。



 実際に魔女と戦えるのは、彼女が悪役として君臨するルートだけである。

 全てを破壊する魔女として、主人公たちの前に立ち塞がる彼女の姿は妙に色っぽくて、彼女を見るために何周もしたのだった。



「でも、今の俺なら『災厄の魔女』を仲間にできるんだな。まだまだ先の話だろうけどな」



 このダンジョンの推奨攻略レベルは20である。



 ゆっくりしていられないが、成長に近道もない。

 今はじっくり鍛えるしかなかった。



 そんなことを思っていると、ダンジョンからどこか『災厄の魔女』の面影を残した少女の姿が出てくる。



 黒のとんがり帽子を深々と被り、大きすぎる黒ローブに身を包んだ銀色の長髪をした少女。

 大きな樫の杖を持ち、今は怒りの表情をしながら杖を俺の方へと向けていた。



「お主か!? 妾の家を水没させたのは!」

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