第4話 魔女との契約
「いや、人の家を水没させた記憶はないが――」
「本当じゃな?」
少女はじっと俺の目を見てくる。
ただ、知らないものは知らなかった。
「もちろんだ。俺がしたのはせいぜいダンジョンに水魔法を放ったくらいだ」
「お主が原因じゃないか!? 妾はダンジョンに住んでたのじゃ!!」
少女は顔を真っ赤にして両手をあげて怒ってくる。
しかし、いまだに俺は少女がなんで怒っているのかいまいち理解できなかった。
「ダンジョンなら魔法を放ったところで勝手に吸収するはずだろ?」
「お主こそ何を言ってるのじゃ。そんな不思議な効果がダンジョンにあるわけないじゃろ」
「ちょっと待て。それじゃあ今このダンジョンの中は水で……」
「もう水浸しなのじゃ。妾の大切な本もベッドも食料もじゃ! これから妾はどうやって暮らしていけばいいのじゃ!?」
目を潤ませる少女。
この状況はまるで俺が泣かせたように見える。
というかそうとしか見えない。
しかも実際に水魔法を使わせていたとなれば俺に反論の余地はない。
「あー、それは本当に申し訳ない。こうなってしまったのは全て俺が悪かった。よかったらうちにくるか? 部屋を用意させるぞ?」
「いいのか? ちゃんとこの耳で聞いたぞ? 撤回はなしじゃからな!?」
少し早まったかな、とも思うが俺が原因で少女が困っているのなら手を差し伸べるより他なかった。
「当たり前だろ? なら話は決まりだな。何か持っていくものはあるか?」
「全部水に沈んだのじゃ……」
「……本当に済まない。必要なものがあったら言ってくれ。可能な範囲で用意させるからな」
「わかったのじゃ!」
ようやく少女は笑顔を見せてくれる。
そういえばこのダンジョンには災厄の魔女がいたはずなのだが、どうしてこんな少女がいたのだろう?
魔女に子供がいたなんて話はなかったと思うが――。
「ところでお前、名前はなんて言うんだ? 俺はアデル・レイドリッヒだ」
「妾か? 妾はシアーナじゃ。気楽にシアとでも呼んでくれればいい」
「シア……?」
確か災厄の魔女の名前がシアじゃなかったか?
「まさかとは思うがお前がダンジョンに封印された魔女って言うことはない……よな?」
「よくわかったのう。いかにも妾は沈黙の魔女シアーナじゃ」
ない胸を必死に張るシアの姿を見て思わず俺は頭を押さえる。
この少女がストーリー開始までに大人の女性に。……ないな。
「何を考えておるのじゃ?」
「
「……? なんでも良いがいくぞ。もう妾は腹ペコじゃ。昼食を所望するぞ」
「うちの料理はとても美味いぞ」
「それは楽しみなのじゃ」
こうして新たな悪役キャラ。災厄の魔女たるシアがうちの家に居候することとなった。
「そういえばシアは魔女なんだろ? 大人になる魔法とか使えるのか?」
「そんな魔法はないのじゃ。でも、そうじゃな。相手に幻影を見せて大人のように思わせることくらいなら妾でも可能じゃな」
つまりゲームのプレーヤーは全員シアに手玉に取られたわけだ。
……クソゲーじゃないか。
確かに攻略キャラではないが、偽りの姿のキャラを出すな!
心の中で悪態をつきながら俺たちは館へと戻ってくる。
◇◇◇
「おぉ、大きい家じゃの。アデルはこんな良いところに住んでおったのか?」
館のエントランスに着くとシアが目を輝かせながら周りを眺めていた。
「一応この辺を治める貴族の嫡子、だからな」
「それは凄いのか?」
「凄いか凄くないかで言うなら俺自身は凄くないな。爵位を持ってるのは俺の親だからな」
「そんなことありません。アデル様は私たちを救ってくれたではありませんか」
訓練が終わったのか、木剣を持ったままのカインが側に近づいてきて言ってくる。
「カイン、ちょうど良いところに来てくれた。メルシャに食事の用意とバランに部屋の用意を頼んでくれ」
「かしこまりました。早急に手配させていただきます」
カインは一礼するとそそくさと立ち去る。
すっかり使用人としての動きが様になってきたな。
その姿に満足しながら俺はシアを食堂へと案内するのだった。
◇◇◇
「美味い! 美味いのじゃ! こんな美味い料理はもう数百年、食べておらんのじゃ」
「まぁ、お上手ね。そこまで喜んでもらえると作った甲斐がありますね」
メルシャが微笑みながらシアの頭を撫でていた。
シアは食べることに必死でそのことに全く気づいていない様子だった。
「そういえばあのダンジョンには魔物がいなかったのか? シア一人だと表に出てくるのも大変だったんじゃないか?」
「どこかの誰かがダンジョンを水で埋めてしまったからな。もう妾以外に生きてる魔物はいないぞ」
「でもしばらくしたら魔物は復活するんだろ?」
「まぁ、水が引けば魔力を糧に自然と……な。今の状況だと無理じゃ」
それを聞いた俺は効率のいいレベルアップ方法を思いつくのだった。
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