佐川恭一が作家廃業の危機⁈ ワナビ激震

 佐川恭一さがわきょういちという小説家がいます。

 あえて短く言うと、ワナビの出世頭です。


 個人(筆者)的には、投稿サイト(でもある)『破滅派』の先輩であり、社会的にはワナビの星です。

 さらにくわしくは以下のリンク先を読んでいただきたいし、カクヨムから外部サイトへのリンクを張れない制約は少しゆるめていただきたいものですが、とにかく読んでください。


 高橋文樹×樋口恭介×大滝瓶太×天沢時生 『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』 刊行記念 佐川恭一を語る会

https://www.bungei.shueisha.co.jp/interview/kakyogachi/

 

 「黒い森見登美彦」としての佐川恭一/名もなき男たちの肖像

https://note.com/bintaohtaki/n/n9ae945164cec


 私には〈小説の才能〉というものがよくわからない(100メートル走やバスケの才能に比べてわかりにくすぎる)ので、あえて佐川恭一を「天才」とは呼びません。

 しかし、佐川恭一の小説が持つ謎の力——読者の時間感覚を狂わせるほどの〈読ませる力〉は、きっちり私も食らっています。謎能力としか言いようがないその力の由来については幾つかの仮説がありますが、私は「学歴説」を支持しています。


 「日本における「学歴」は、大学受験歴でしかない」というのは、よくある学歴批判ですが、まさにその「大学受験歴」こそが重要だと私は考えています。

 のちの小説家である受験生にとって重要なのは、「答案を作る」という強い意識です。英文和訳にせよ数学の問題にせよ、英文の意味や、問いに対する答えが「わかった」だけでは国立大学には受かりません。わかったことを文章で伝えられなければ合格はできません。「私とあなたは最低限の常識を共有している」ということを「あなた」に伝えるのが答案です。そんな答案を作れた者にのみ国立大学の教員は、「じゃあちょっと一緒にやっていこうか」という判断を下します。

 佐川恭一の小説に見られる謎の安定感——危うい理路や、時に背筋が寒くなるほど荒涼としたプロセスを書いているにもかかわらず、投げやりな乱れがなく細部まで整えられており読者の意識をしっかりと牽引しつづける文体の安定感は、「A→B」の「→」を文章化することに人生の一時期を全投入してきたのであろう〈学歴の佐川〉の真骨頂であり、才能というものがよくわからない私たちワナビでも手にすることができるかもしれない強力な武器であると私は考えます。


 文学史的というか娯楽小説史的に見ても佐川恭一は、読者の興味と作中人物の頭の運動量を共に持続させるための特異な流儀(スタイル)を確立させた点を高く評価されており、そのスタイルは従来の「自然主義」と「不自然主義」(板垣恵介)の枠にはおさまらない「佐川然主義」とも呼ばれています。


 ・自然主義 : こいつの習性と置かれた環境から導き出される蓋然性最高の結末は?

 ・不自然主義 : そもそもこいつは、とてつもなくどういう奴なの? どこまでいけるの?

 ・佐川然主義 : こいつ、どうなっちゃうんだよ……


 しかしこの、「ドストエフスキーの魔力を現代エンタメに注入した」とまで言われている佐川恭一が現在(※2024-07-19)、廃業の危機を迎えているようです。これから小説家になろうとしているワナビにとっては怖すぎる話です。


 https://x.com/kyoichi_sagawa/status/1813860644829163830


 具体的な事情はわからないため、むしろ極限まで拡大解釈と抽象化をしてから私個人の感想を加えて言うと、これはつまり「現代社会における佐川恭一の評価は不当に低すぎる」ということです。ひいては「社会が小説をなめている」ということでもあります。

 そんな社会で、私たちワナビが小説家になることはほぼ不可能です。仮に、長い努力を積み重ねてようやく小説家になることができたとしても、セミの速度で廃業することになるでしょう。


 これは、私一人が感じている危機感ではありません。私を一人見たら千人いると思ってください。もしも佐川恭一が廃業してしまえば、出版業界は千人のワナビを失うことになるかもしれないのです。

 それは業界にとってもワナビにとっても良いことだと思いますか?

 断じて違います、と言いきれないのが辛いところです。


 思えばこれまで、私たちワナビはあまりにも認識が甘く、そして怠慢だったのではないでしょうか。

 どこまでも昇っていくように見える佐川恭一の姿を、ポカンと口をあけて眺めていただけなのではないでしょうか。少なくとも私はそうでした。


 そういうわけで今、ワナビとしては強い危機感と後悔があります。佐川恭一作品の読者としても、読んで謎の元気を得るための備蓄はあるていど残してありますが、これが減っていく一方になってしまうのは心細いことです。

 なんとかなれと祈りつつ、できることをやっていくしかありません。

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