第二章「接近」6


 事態はなかなか深刻で、四人に圧し掛かる空気は暗く重苦しい。しかしそれとは反対に、落ち着いて話す場所として入ったカフェのインテリアのなんとメルヘンなことか。

 アトラクションの一つである室内型コースターと場所を同じくするこのカフェは、上部に入り口が設置されているコースターのコンセプトである『妖精の国』をイメージした造りをしている。

 だからシズク達が座っている椅子には妖精の鱗粉のような粉が光っているし、そもそもカラフルな店内はここで提供される料理よりも色合いが派手かもしれない。

 四人掛けのテーブルは大きい丸テーブルで、四人がそれぞれ向かい合う形で座ることになった。四人だと少しテーブルが狭く感じる。シズクの両隣にリュウトとケイト、そして真正面にコウの席順だ。

「……ケイトちゃん、ちょっとは落ち着いた? 驚かせちゃったんだよな? 俺が、その……男のシズクのことを好きだなんて言ったから……」

 席に着いてとりあえず飲み物だけを注文し、そこから少しだけ沈黙が支配していた。しかしその沈黙を一番に破ったのは、リュウトではなくコウだった。

 コウは話し出そうとしたリュウトを手で制し、そこから言葉を選ぶように優しく、しかし真っ直ぐにケイトに問い掛けた。言葉も視線も真っ直ぐなコウの態度の影響か、ケイトはシズクから見たら幾分落ち着いたように見える。

「……私こそすまない。順序立てて考えれば、いきなり怒り出した私に問題があった。本当にすまない。決してコウくんのせいではないんだ。私が……勝手に失恋したから……」

「え? まさか……そうか……ケイトちゃん……俺が、ごめん」

 コウの言葉が響いたのもあるだろうが、元々竹を割ったような性格をしているのだろう。ケイトもまた、コウと同じく真っ直ぐに彼に向き直り、そして頭を下げてから謝った。最後には少し声を小さくしてしまったが、それでもきちんと己の心に秘めた恋心まで吐露して。

 そんな彼女の態度に、コウは悲しげに目を伏せた。彼のその反応に、シズクは素直に喜ぶことが出来ない。コウは、ケイトを振るのだ。そしてそれを、ケイトもわかっている。

「俺は……ケイトちゃんの気持ちに答えることは出来ない。俺は、シズクのことが好きだから。男同士だけど、俺はずっと……男しか好きにならなかったからさ。俺にとっては、これが普通のことなんだ」

「……そんな辛そうな顔をしないでくれ。私がシズクくんよりコウくんにとって魅力がなかっただけだから。そこに性別を持ち出すようなことをさっき言ってしまって、本当にすまなかった。冷静になってからわかった。私は本当に酷いことを言ってしまった」

「そんなことない!!」

 もう一度、今度はシズクに対してまで頭を下げようとしたケイトを、思わずそう言って遮っていた。

「っ……いや、謝らせてくれ。君達が人を騙すような人間じゃないのは、私がわかっていなければいけなかったんだ。いくら冷静さを欠いたからと言って、許される暴言じゃない」

「違うんだ! 俺は君の気持ちを知ってて――」

「――シズク! ちゃうやろ! これは俺がっ」

「……どういうことだ?」

 目の前のケイトの目の光が冷たくなったところで、店員が注文していた飲み物を持って来た。

 手狭さを感じるテーブルの上に、アイスコーヒーが三つとアイスティーが一つ。苦いコーヒーは飲めないので、シズクだけがアイスティーを頼んだ。皆大人だななんて、こんな時にすら考えてしまった。

 店員が席を離れるまで、四人共に無言。まるで仕切り直すかのように、リュウトが大袈裟な咳払いを一つしてから口を開いた。

「実はな……俺とシズクは、ケイトちゃんがコウに気があるんやろなってわかっててん。俺が話し掛けた前日に、シズクのバイト先で二人が話してるん見てたから。そんで二人がくっつく前に、なんとか間に割って入れへんかって計画立てたんが、今日の遊園地なんやわ」

「……割って入るって……それは、どういうことだ?」

 ぽかんとしてしまっているケイトに呆れたのか、リュウトは頭を掻きながら溜め息をついた。

 さすがにここから先は自分の気持ちだ。自分の気持ちは自分自身が伝えるべきだろうと、シズクは引き継ぐ。

「俺が、好きだからなんだ。ケイトちゃん、俺――」

「――シズクはケイトちゃんが好きやねん!」

 穏やかに伝えようとしたシズクとは何もかもが真逆の声が、よりにもよって親友であるリュウトの口から発せられた。

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