第59話 帰還
全てが終わった。実際には数時間しか経っていないはずなのに、もう何日もここにいるかのような感覚だ。俺は玉座に腰掛け、煙草に火を点けた。
「スゥ……フゥ~。……長かったな」
:おつかれええええええええ \50000
;よくやった!! \50000
:板橋ダンジョン初踏破おめでとう!!! \50000
:マジで歴史に残る偉業おめでとさん \50000
:≪Toki≫行けるところまで行ったな、おめでとう ¥50000
:≪Nagi≫おまえやばすぎwww \10000
:≪あやチャンネル≫東雲さん!すごすぎます! \50000
:≪皐月のだらだら探索≫さすがチヒロ、わたしの結婚相手 \50000
;≪Stella.C≫は? 私のですが? \50000
:≪あやチャンネル≫違いますー!私です! \50000
「はは、君らほんとブレないね」
もはや心境は娘を見る父の気持ちである。
あと、普通にもったいないから投げ銭で会話すんのやめな?
どうせ言っても聞かないだろうから、胸の内だけに留めておくけど。
こうして見る広間は、寂しいものだった。
こんな空間で73年間……悪魔や魔族からしたら短いのかもしれないが、たった独りで居続けるのは正直かなりキツかったと思う。
だからといって、ヴェルギリアスを肯定したりはしないが。
こいつは結局、少年向けの冒険物語に出てくる倒されるべき悪役でしかなかったのだ。それでも、ほんの少しくらいは同情してやる。
「さて、これからどうするかねぇ……」
天井を見上げながら、ぽつりと呟く。
ソロで行ける限界までは到達した気がする。
理想は身体強化を使わない状態でヴェルギリアスクラスの相手をできるようになることだが、それは先が長いので今は考えないことにする。
後は、パーティメンバーの強化、か。
この世界にレベルなんていう概念はない。だから、ただひたすらに戦って己のスキルを磨くしかないのだ。彼女たちには、自力で頑張ってもらう必要がある。
それはそうと、ステラはパーティに加わるのだろうか?
いつの間にかしれっとそこにいたから曖昧なんだよな。だが、彼女には危ないところを助けてもらった音がある。いつか恩返しをしなければ。
それに、効率的な観点でも彼女は手に入れられるのならば手に入れたい人材だ。
ソロで深層まで攻略できるほどの腕前に、人並外れた回復魔法の使い手。
きっと数多のパーティが彼女を狙うだろう。そんなとき、彼女が俺の手を掴んでくれるかどうかは……D-Walkerでのコメントを見ている限りではありえそうだが。
後はもう一人くらい遠距離職が欲しいところだ。
弓か銃の使い手……そんなに都合よくは現れないだろうが、積極的に探していきたいところではある。
「……って待てよ?」
今の俺の状況、もしかしなくてもハーレム状態じゃないか?
思わず頭を抱えて床に叩きつけたい衝動に駆られるが、何とか自制する。
ハーレムなんてものは創作物だからこそいいのであって、現実世界で嬉しいかと訊かれたら答えはノー。だって、大勢の美少女の中から一人しか選べないのであって、その選択が故に他の女性を傷つける結果になりかねないんだぜ? そんな重荷、ごめん被りたいところだ。
兎にも角にも、そろそろ帰るか。
幸いにも、板橋ダンジョンは深層までしかなかったらしく、玉座の裏に財宝の間と脱出ポータルが用意されている。これ以上潜るのは流石にしんどかったのでありがたい。
「さてさて、そんじゃお宝は~? っと、何だコレ」
そこに入っていたのは、拳大の宝石と一丁の銃だった。
「おお、複数ドロップとか珍しいな」
:すげぇ
:でっかい宝石だな……いくらで売れるんだか
;やっぱこういう光景見るとダンジョンには夢があるってつくづく思うよなぁ
;俺的にはあの銃の方が気になる。多分マジックウェポンだろうし
「あーこれね。確かに気になるよな、見たところ普通の銃っぽいし」
俺は宝箱の中から銃を取り出すと、マガジンを取り外して機構を解析してみる。
……なんて、かっこつけたことを言っているが、実際はぼへーっと眺めているだけである。意味もなくスライドを引いてみたり、空撃ちしたりして遊んでみる。
なお、リスナー全員に「かわいい」と言われたのは屈辱なので墓まで持っていくつもりである。
:んー、その銃さ、魔力を詰め込んで撃つんじゃないかな?
「んお? 有識者ニキいるね、詳しく聞かせてくれ」
俺はそのコメントをしてくれた人物を早速固定して、コメントを見やすくする。
:俺の見立てでは、多分マガジン部分に魔力を注入するんだと思う
「ふんふん、とりあえずやってみるか。……お、青白く光った」
:やっぱりか。後はもう撃つだけだよ。装填されてる魔力が切れたらまた注入すればいい
「いやーありがとう有識者ニキ! おかげで使い方分かったわ。どれ、折角だし試し撃ちしてみっか!」
俺は丁度目に付いた柱に向かって発砲してみる。
途端、物凄いことが起きた。
音で言えば、耳元でダイナマイトが起爆したような轟音。
それは柱どころか壁を何枚も貫き、ここまで通ってきた道がちらりと見えるほどの大威力だった。
:こまくないなった
:みみとれるかとおもった
:うるさい
:うるさすぎる
:責任とってくれ
:マジで鼓膜逝ったかと思ったわ
;≪あやチャンネル≫嫌な予感がして事前に音量下げておいて正解でした……
:≪皐月のだらだら探索≫キズモノにされた、責任はとってもらう
:≪Stella.C≫びっくりしたぁ……思わずスマホ投げちゃいました
「いやホントすまん、まさかこんなにインパクトあるなんて思わなくて……だってほら、このサイズだよ? モデルガンとかで見るほんっと普通のサイズなの。わかる?」
;いいよ
;わざとじゃないしゆるす
;こ、今回だけなんだからねっ!
;別にええで、わいの鼓膜くらいなんぼでも捧げたる
リスナーたちからお許しを貰った俺は、ひとまず銃と宝石をマジックポーチに詰め込んだ。これでいつでも帰れる。……が、その前にあいつ良いモノ身に付けてんじゃん。剥いじゃお。
ってなわけでヴェルギリアスの遺体から金目になりそうな物をあらかた拝借した俺は、リスナーから「追いはぎやめーや」だの「お前はゴブリンか」だの散々な言われようをして、さめざめと泣くことになったのはまた別のお話。
最後に、脱出ポータルの前でお辞儀をして、礼を言った。
「えーっと、まぁ色々拙かったりお見苦しいところもありましたが、最後までお付き合いくださりありがとうございました。投げ銭も沢山ありがとな。でも札束で散々殴られて分からされたから、次回からはいらないよ。あ、アーカイブで見てくれてるそこの君も、ありがとうな。それじゃ、また次回の配信で。ぐっばい!」
;おつ
;おつしの
;おつしの
;おつしの
;おつー
:楽しかったわありがとう!
;また次の配信待ってます!
;早くも次の配信を心待ちにしてしまっている俺がいる
:禿同
;今日のアーカイブでも見直すかぁ
配信がしっかり切れたことを確認した俺は、脱出ポータルに乗る。
そうすると、体が一瞬浮いたような浮遊感に包まれ、目を開くと入り口に立っていた。どうやら無事に帰ってこれたようだ。
後はギルドに立ち寄って、換金してもらって、帰るだけだ。
そう、この時の俺は知らなかった。
まさか、あんな恐ろしい目に遭うなんて……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます