第31話 謎多き集団
俺は皇と背中を合わせながら敵を見据える。
今や黒子の数は50人。ひとりひとりの実力は然程ないが、それでもこの物量を相手にするのはしんどい。
「やあっ!」
近付いてきた黒子を、皇が斬り伏せる。
良い太刀捌きだ。黒子はジュウっと音を立てて地面に吸い込まれていく。
そうすると、黒子の集団からぽつりと新手の黒子が出てくる。
こいつらは、こうして数を増やし続けて今に至るというわけだ。
「東雲さん、どうしましょうか! このままじゃ埒があきませんよ」
「なんとか奴らを一網打尽にできれば、あるいは……」
リポップするのにも制限があるはずだ。
当然のようにエネルギーを使うし、それを枯らしてしまえば何とかなるとは思う。
だが、この人数が相手だ。どうやって全員を一瞬で倒せばいいというのか。
「なあ、何で俺たちをつけ狙う?」
『…………』
「訊いても返事なし、か。傷ついちゃうなぁ」
「そんなことしても意味無いでしょ! ほら、また来ますよ!」
黒子に向かって問いかけるが、安定の無言。
皇の言う通り、何人かの黒子がこちらへ走ってくる。
俺は手元で一度双剣を回転させると、黒子の群れに突っ込んだ。
そして、すれ違いざまに喉元を掻き切っていく。
皇の方も皇で、洗練された見事な刀捌きで舞いを踊るかのように敵を倒していた。
しかし、それでも「何も起きなかった」というように影から復活する黒子たちを見て、俺たちは深い溜息を吐いた。
「東雲さん」
「はい?」
「もうこうなったら、逃げませんか? 僕たちでは太刀打ちできません」
一瞬考えるが、すぐにその思考を取り消す。
「いや、無理ですね」
「何故?」
「魔物は魔力を感知できる能力を持っている。よしんばここから出られたとしても、もちろん魔力の残滓が残っているので、発見されてしまうでしょう。が、だからこそでしょうか、巻き込む形にはなってしまいますが、私たちは善良な他の探索者──いるかは分かりませんが、それを探して協力をしてもらう、とか」
「それは魅力的な展開ですが、実行はむずかしいです……ねっ!」
納得した返事をしながらも、皇は近付いてきた黒子を斬る。
ふと、頭の中に閃光のような煌めきがくだった。
「……ん、待てよ?」
「何か分かったんですか?」
俺は皇の問いに頷くと、持論の説明を展開しはじめた。
「まず、こいつらに恐怖や焦りといった感情は見当たらない。それどころか、倒しても倒しても何度も復活してくるのは奇妙だ」
「これは初めてみる新種のモンスターですし、そういう生物なだけなのでは?」
俺は指を振り、皇に答えを教えてやることにした。
「今回の事件……犯人は恐らく呪術師です」
「じ、呪術師!?」
「そう。存在は知ってますよね?
「じゃあ、その呪術師はどこに……?」
「これだけの数の魔物を使役しているんです。相当近くにいなければ、到底ありえないことだと思いますよ。例えばほら──あそことか」
俺が指差したのは、赤い大きな扉。
多くの黒子が守っており、近付くのは困難を極めるだろう。
「そ、そんな……!? 一昨日来た時は、あんなものなかったのに……!」
「皇さん。このダンジョンは今、進化している最中なんです。だから、何が起きても不思議じゃないんですよ」
皇に説明してやる。
「確かにそうかもしれませんね……昨日、東雲さんの配信見てましたから」
「お、見ててくれたんだ。ありがとうございます」
「いえいえ、そんな……私はただのいちファンですから」
「それじゃ、まずは邪魔な黒子たちから狩っちゃいましょうか」」
「はい!」
気合いを入れるようにそれぞれの武器を構えて進もうとしたときだった。
「待ってくださいっ!!」
俺はよく聞いた、あるいは皇くんにとってはおそらく初めての生声。
そこの階段には、腕を組んでこちらを見ている小鳥遊の姿があった。
さらに後ろからは皐月が顔だけを出し、無言でピースをしている。
小鳥遊は身を乗りだし、顔をずずいっと近付いてくる。
「東雲さん、どうして勝手にどっか行っちゃうんですか!? おかげさまで心配しました!」
「チヒロは、早漏」
「なっ!?」
「えっ」
「ちょっ」
パシィン!
乾いた音がダンジョンに響いた。
俺は右頬いついた紅葉型の手形を見て、悲しみのあまり「よよよ……」と泣いてしまう。俺何も悪いことしてないのに……。
小鳥遊は完全にムスっとしているし、皇に関してはどう接していいのか分からないらしく、「あはは」……と愛想笑いをしている。皐月は案の定こんな茶案に興味がないようで、天井を見上げている。
「まぁ、来てくれたなら丁度いいや、ちょっと付き合ってよ」
俺は何とか気力を取り戻して皆を先導しながら安全地帯に戻ると、全員に作戦を伝えることにする。
「さて、いいか。今俺たちがいるのがここ、安全地帯だ」
地図を青いマッキーペンで丸を付ける。
「んで、黒子どもがうじゃうじゃしてるのが、ここ。」
次、魔物がいる辺り一面を赤い丸で囲む。
「うわぁ……」
「相当いるんだね……」
「敵、多いければ多いほど、楽しい。強かったら、もっと嬉しい」
物騒なことを言っている皐月は放っておいて、俺は本命に黒い丸をつけた。
「んで、ここがボス部屋……みたいなもんだ。
番人がいるかも分からないし、深淵より下の階層なんて聞いたこともないが、この異常事態だ。ここより下の階層があるかもしれないからな。もしそうなったら、探査はまた後日にしよう。」
「リスナーのみんなもそれでいいか?」
:いいよー
:主のトンデモプレイ楽しみにきてるだけだし
;気にせずすきなことやってー
:そうして東雲がアツい戦いをたった一人こなしてるなか、小鳥遊と皇は情熱的なキスを…………
:お前黙れハゲデブコラ中年ニートおっさん
:誰にも愛してもらえなくてかわいそうだねー^
;ふざけんなよ、お前らの恋人やら娘やらも寝取って犯してやるからな
:は?
:頃すぞ
:お前は今越えてはいけない一線を越えた。
そこまでは若干げんなりした気持ちでコメント欄を見ていたが、何やら荒れているようだ。
俺は笑顔のまま怒気を放って威圧した。
当然、さっきの最低な発言をした馬鹿はBANした。これで奴はもう戻ってこれないあろう。
「はいはーい、お前ら俺への誹謗中傷はいいけどラインはちゃんと守れよ~?」
すると、さっきまで戦争勃発寸前だったコメント欄が静かになる。
;ごめんね東雲;;
;地雷踏まれて嫌な気分になっちゃった
:すっごいこころがしんどいから東雲に膝枕シてほしい
「大丈夫大丈夫、きっともっと良い人が現れるよ」
:うーん……
:東雲だからなぁ……
;説得力が……
:まあ、うん、ありがとな
さっきとの掌がえしがすごい!
「まぁ、そんなことは置いといて、だ。遊撃役、いざとなったときの支援役、そして、本命を叩く役があるんだが……。皆希望はあるか?」
すると、意外なことにそこで手を上げたのは皇だった。
「僕は遊撃役に立候補します.。だって、斥候の役割も果たせるでしょ? そういうのが得意な僕には、適した仕事かなって」
後半は恥ずかしくなったのか、下を向いて頬をポリポリしていたが。
「オーケー、じゃあそこは決まりだな。次は?」
「ん」
そこで今度は、皐月が手をあげる。
あいかわらずの無表情。しかし、いつもよりすこしムスっとしているような印書を受けた。
「私は支援役。本当はチヒロと一緒に行きたかったけど、今回はアヤに譲ってあげる」
「ありがとう、皐月ちゃん!」
そう言って小鳥遊が皐月に抱きくと、彼女は少し照れ臭そうに笑っていた。
俺は両の手のひらをパンっと合わせ、皆の意識をこちらに向かわせる。
「よし、それじゃ、作戦会議終了だな!」
とはいえ、このダンジョンは既に色んな人によって何回も踏破されてるから大丈夫……だよな?
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