平和を愛した魔女

阿_イノウエ_

 不意に雨が降った日の放課後、玖珂飛鳥は校舎の玄関ホールで立ち尽くしていた。

 傘を忘れてきた。

 どうしようかと途方に暮れて、空を見上げる。

 

「ねえ、君転校生?」

 突然声をかけられて、飛鳥は肩を揺らして、振り返った。

 いつの間にか隣に黒髪の少女が並んでいた。

 肩までの髪を揺らして、彼女は微笑んでいる。

「そうだけど」

 飛鳥は愛想なく短く返す。

「やっぱり。見慣れない子だから、そうじゃないかと思ったんだ。

 僕は皆川恭。ねえ、僕と友達になろうよ」


 明るく笑う彼女を、私は冷たく見つめ返した。

「ならない。私は友達なんて作ったりしない」

「え?」

 彼女が絶句しているうちに、飛鳥は雨の中に走り出した。

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