第6話ぼくらのギャン
休み明けの月曜日、登校中雄介と一緒になった。なんだ?暗い顔してる。
「雄介、昨日ガンプラ買って貰ったんでしょ?何にしたのさ。」
「・・・ギャン。」
「ギャン!?」
そうか、欲しい物買って貰えなかったんだ。だからどんよりしてるんだ。
「そう、ギャン。本当はMG《マスターグレード》って言うのが欲しかったんだけど兄ちゃんが、最初に難しいの選ぶと完成まで漕ぎ着けないぞって言うから。」
「そんな事ないと思うけど、でもなぜギャン?」
「兄ちゃんが言うにはなんか、いい物なんだってさ、よく分からないけど。」
「作ったの?」
「作ったって言うか、殆ど兄ちゃんが作ってさ、あれだったらHG《ハイグレード》でもMG《マスターグレード》変わらないじゃないかよ!欲しい奴買ってくれないし自分で作るしさ。」
そりゃあ、暗い顔になるのは仕方ないか。どこ家でも大人が作っちゃうんだな。
「ギャン、見に行っていい?」
「いいぜ。今日は兄ちゃんも居るけど。」
放課後。
雄介を待って一緒に歩く。帰り道の議題はソフト麵とは何ぞや、だった。今日の給食の際に担任がこぼした一言なのだがそれが気になったのだ。経験値は低いが想像力だけは豊かな二人で討論した結果、のびた麵という事で片が付いた。検索すれば一発で出てくるのは判っている。野暮な事は言わないで欲しい。
「ただいま。兄ちゃん、まだ居る?」
帰ってくる返事は無い。
「居ないんじゃないの?」
「寝てるのかな。」
廊下を進むと手前の部屋からかすかな音が聞こえる。
「雄介、ここにいるんじゃない?」
「そこは書斎で兄ちゃんの部屋じゃないけど。」
書斎の扉をゆっくりと手前に引いて開ける。そこにはヘッドフォンをしながらガンダムを見ている男の背中があった。
回り込み彼の視界に入る雄介。
「おっ、雄介、お帰り!」
「声でかいって!」
「え?何だって?」
ヘッドフォン外せば普通に聞こえるだろうに。画面には赤いMS《モビルスーツ》が岩に隠れている場面が映っている。ザクとは違うようだ。
「こないだ雄介にギャン買ってやっただろう。それで見返したくなってさ。」
ヘッドフォンのジャックをモニターから引き抜くと一気にあふれ出る効果音。急いでボリュームを落とすお兄さん。結構な音量で聞いてたんだな。
画面にはガンダムと鍔迫り合い《つばぜりあい》している青いMS《モビルスーツ》。それがギャンだ。細身の機体に不釣り合いな大きな丸いシールドが特徴でもある。
「37話だけど一緒に見るか?」
なんだか中途半端な気がしたけど素直に従う。
「兄ちゃん、なんか古さ爆発の絵だね。」
「そりゃあ、40年以上前のアニメだからな。でもガンダムの歴史はこのファーストから始まったんだ。」
~君は生き延びることはできるか~
「兄ちゃん、終わったよ。」
見終わった途端顔を見合わせる。
「なんだかギャン、嫌だな。」
「パイロットの印象が良くないからだろうけど、でも、いい物だって言ってたろ?」
「それは壺の事じゃないか。」
「まあ、そのうち判るよ。判らないかもしれないけど。」
「しかも俺のギャンと違うんだよな。」
(違う?)
疑問に思ったぼくは雄介の部屋に連れて行ってもらい棚にあるギャンを見た。
「これが、ギャン?確かにさっき見たのとは違うな。キャノン砲みたいなのが肩から出ている。」
「兄ちゃんが教えてくれたけど、これ、ギャン・バルカンって言うらしいよ。いつか一緒に観たビルドファイターズに出てくるんだってさ。ギャンと一緒にこれも買ってくれたから。そういう物だと思って。」
そう言うとHGUC《ハイグレードユニバーサルセンチュリー》 ギャンの箱にHGBC 《ハイグレードビルドカスタム》ヴァリアブルポッドと書かれた二回り位小さい箱を重ねて持ってきた。
「ガンプラってこんな事もできるんだ。ガンプラって自由だね。」
「ギャン自体は外国の騎士みたいで格好いいんだけど、マ・クベ、腐ってるじゃん。」
確かに誰もがいい印象を持てないキャラだろうな。
コンコン。
ノックをしながらお兄さんが入ってきた。
「雄介、こないだは悪かったな。手を出したら夢中になっちゃってさ。これからどっか行くのか?もし出かけないんだったらもう一回ガンプラ買いに行くの付き合ってくれないか。今度は雄介の欲しい物買ってやるからさ。明斗君も一緒に行こう。」
赤い軽自動車で家電量販店に向かう。雄介のマンションから15分くらいの距離だ。何回か来たけど、改めて見てみると色んな種類のロボットがあるんだな。MS《モビルスーツ》に限らずスーパーロボットを始めとしてAT《アーマードトルーパー》だったりCBアーマー《コンバットアーマー》だったり勇者シリーズだったり。ガンプラだけでも色々とグレードがあるから、色とりどりだ。同じように眺めていた雄介のお兄さん。
「品薄と聞いていたけど、実際の店舗では言うほど品薄には見えないな。SDガンダムからPG《パーフェクトグレード》まで揃ってるし。雄介、買う物決まったか?」
「これ。」
雄介が持ってきたのは拓也さんのお店でも見た”ビルドストライクガンダム フルパッケージ”のHG《ハイグレード》の方だった。あんなにおおきいのがいいって言ってたのに。
「やっぱり主人公機がいいよ。これで練習して、それから大きいのを買って貰うんだ。」
ビルドストライクガンダムとは、ガンダムビルドファイターズの主人公イオリ・セイが操縦者レイジの腕前が存分に発揮できるように制作された渾身作だ。
「なかなかいい事言うじゃないか。でもな、最初からこのMG《マスターグレード》に挑戦してもいいんじゃないかと思うよ。」
そう言いながら出してきたのがビルドストライクガンダム フルパッケージ”のMG《マスターグレード》。
「でも最初は簡単なのからって。」
「作ってる姿見てたら丁寧に作業してるし、慌てなければこっちでも大丈夫だと思ってさ。せっかくだし挑戦してみろよ。」
「うん!やる!俺、やる!」
大喜びだ、雄介。でもなぜ片言?
「それに何回も買わせられるのも迷惑だし。」
今の声はぼくにだけ聞こえたのかな?
「明斗君はガンプラ作ったことある?」
「いえ、ないです。」
「ガンプラだけじゃなく車とか船とか飛行機とかも?」
「車はあります。ゼンマイ式の。」
「今日は付き合ってくれたし何かプレゼントするよ。好きなの選びなよ。」
「でも、難しそうだし、接着剤も無いし。」
「そうか、工具もないのか。」
「いえ、道具はお父さんが持ってます。それを借りれば大丈夫だと思うんですけど、接着剤は無かった筈。」
「明斗君、君はいつの時代の少年だ。今のガンプラはスナップフィットと言って接着剤を使わないんだ。でも最低でもニッパーはあった方がいいな。最新のバンダイスピリッツのプラモデルは手で外せるのが売りだけど、実際に手でもいでみるとゲート跡に小さな窪みが出来ることが多々あるんだ。それが気に入らなくてね。」
「ニッパー?」
「ほら、これさ。」
そう言って棚に掛っていたペンチみたいな道具を見せてくれた。
「これがニッパーか。これならあります。使ったことも何回か。」
「ほう、英才教育されてたのか。じゃあ、大丈夫だね。」
「あの、ガンダムってなぜこんなにあるんですか?あのガンダムは赤いし、あっちは角あるし、そっちのは髭あるし。」
「とりあえずガンダムって名乗れば強くなるからね。」
ホントか?本当にそういうものなのか?
「最初のガンダムは無いんですか?さっき一緒に見たやつとか。」
お兄さんがニヤッとした。
「あるよ。全てのグレードがあるのはファーストと呼ばれる”白い悪魔”RX-78-2 ガンダムだけだからね。ファーストをチョイスするとは君は才能の塊だな。そんな明斗君には是非これを作って頂きたい。」
「MG《マスターグレード》RX-78-2 ガンダム Ver,2,0?最初は簡単なのからと思ってたから難しそう。」
「説明書の通りに進めていけば大丈夫。一日で完成させようとは思わずゆっくり作業すればね。判らないことがあれば恐らくお父さんに聞いても答えてくれると思うよ。」
「判りました、やってみます。」
「よし、みんなで頑張ろう!」
そう言うとお兄さんはレジに向かった。お兄さんは赤いMS《モビルスーツ》を選んだようだ。MG《マスターグレード》三つだと結構なボリュームだった。なので赤い車で家まで送ってくれた。もっと雄介と遊ぶつもりだったのは言わないでおこう。
アル @hivimi
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