第4話ガンダム伝播

小雪のちらつくお昼過ぎ、雪まつりの賑わいも過ぎた今日は暖かくなる予報なのでボッコ手袋は家に置いてきた。毎年雪まつりの頃には気温が上がり真冬日にならない日が必ずと言っていいほどある。でもプラスの気温になるとは言っても素手で歩いていると寒く感じることもある。

「手袋おいてきたのは失敗だったかな。」

少しだけ後悔していると後ろから呼びかける声が。

「おおい、明斗あきと!一緒に帰ろうって約束してただろ!」

「あ、ごめん、忘れてた。」

追いかけてきたのは隣のクラスの馬仁田雄介ばにたゆうすけ。雄介とは幼稚園からの腐れ縁で小学校も五年生に上がる際に行われるクラス替えまで同じクラスだっただし家の方角も一緒だから約束しなくとも一緒になる確率は高いはずなのに今日はわざわざ一緒に帰る提案を休み時間に言ってきていたのだが、すっかり失念していた。

「家、寄って行けよ。」

そう言いながら雄介は大きな通りに向かう。

「分かったけど、そっちに行ったら遠回りになるんじゃないか?」

ぼくを振り返り笑顔で、

「ちょっと見たい物があるんだ。」

通学路は幹線道路から1本入った所にあり、スクールゾーンにも指定されているので登下校の時間帯は車の通行が規制され、しかも除排雪も頻繁に行われているのでとても歩きやすい。でも今日は寄り道するようだ。いつもと違う道を歩くだけで冒険している気がするのはぼくだけだろうか。

雄介が来たのは中央分離帯のある通行量の多い幹線道路沿いのコンビニエンスストアだった。コンビニエンスストアとは言ってもみんなが知ってる大手ではなく個人商店だった店舗を改装した小綺麗な駄菓子屋みたいなものだ。お菓子やお弁当の定番商品の他に駄菓子の種類も多いから子供たちも良く訪れる。いつもは一度帰宅してから赴くのだが今回は言い付けを守らず下校途中に入ってきた。ワルだな、ぼくら。

「いらっしゃいませ。あ、お前ら、学校帰りは来ちゃいけない事になってなかったか?北海道ミルクたっぷりチーズ肉まんだったら今仕込んだばっかりだから一回帰ってから来た方がいいと思うぞ。」

お店の人がカウンターから身を乗り出し話しかけてきた。学校に上がる前から何かと来ていたお店なので顔馴染みなのである。この辺一帯の子供でこの人の事を知らない人は居ないのではないだろうか。

「あ、拓也さんが店番か。今日の目的は肉まんじゃないからお構いなく。」

食べ物に興味のない雄介を初めて見る。珍しい。病気か何かか?

「これこれ。以前は何も気に留めてなかったんだけど。ここプラモデルも売ってるんだぜ。」

「今更言う事か?それ。ぼくも何回かここで買って貰ったことあるよ。結局そのプラモデルはお父さん自身が作ってたけど。」

棚から目を離さずに、

「お前の父さん、プラモ作れるんだ。凄いな。」

聞いていた拓也さんがカウンターから出てきた。

「おいおい、おとこだったら一度はプラモは作るものだろう。戦車とか飛行機とか船とか城とか。」

「今日見に来たのはあれなんだよ。」

そう言うと棚にある箱を指さす。

それを聞いた拓也さんは箱を取り出した。1/100 MG ビルドストライクガンダム。

「びるどすとらいくがんだむ?あぁ、ガンダムね。ロボット作りたいんだ、雄介。」

「ロボットって言われちゃうとなんだかなあ。でも今日明斗を誘ったのもこれを教えたかったからなんだ。よし、帰ろう!」

奇麗な回れ右を見せた雄介に拓也さんが問う。

「店に来て手ぶらで帰る気かよ。」

「買い食いは学校から禁止されているからさ。」

いい子なんだか悪い子なんだかよく分からない雄介。

「あの事件から半年過ぎたけど犯人はまだ捕まってないからな。気を付けて帰れよ、って、もう居ないし。」


帰り道、ぼくは雄介に聞いてみた。

「拓也さんが言ってたあの事件て、雄介のお兄ちゃんにも関係あるんでしょ?」

「関係っていうか、交通整理してただけみたいよ。」

「それだけなんだ。」


雄介の家に入る。雄介は家族四人でマンションに住んでいたがお兄さんは今独身寮に入っているらしい。マンションは上下左右に人が住んでいるので真冬でも今日みたいな日は暖房を付けなくてもほんのりと暖かいのだ。

「この前兄ちゃんのDVDコレクション見せて貰ってる時にこんなのがあったんだ。」

”ガンダムビルドファイターズ”

「兄ちゃんガンダムのアニメだったら何でも持ってるからさ、何か変わったのあるかって聞いたらこれを見せてくれたんだ。

書斎の壁一面が棚になっておりDVDやBlu-rayが収まっている。その半分以上がガンダムだ。一言でガンダムと言っても色んな形のガンダムがあるがほとんどが白い。

「ガンダムって昔からやってるよね。お父さんもたまに言ってるよ、赤がどうとか白い悪魔だとか、三倍がどうとか。アムロ少年がジオン帝国と戦う話でしょ?」

「お前わざとぼけてるだろ。でもそう。1979年に初めて放送された機動戦士ガンダムを皮切りに今まで色んな味付けのガンダムが放送されてるらしんだ。で、兄ちゃんに借りたDVDで俺が初めて見たのが”ガンダムビルドファイターズ”なんだ。”ガンダムビルドファイターズ”は自分たちが作ったガンダムのプラモデル、通称ガンプラを大きな機械に読み込ませてプレイヤー同士がガンプラを操縦して戦うストーリーなんだよ。」

「へ~、そんな事が出来るんだ。」

DVDのパッケージを見ながら聞いた。

「俺も同じ事を兄ちゃんに聞いてみたんだよ、どこかに行けばこういうことができるのか、って。」

「出来るの?」

「それが、ガンプラは現実の話だけどガンプラを動かせる機会はまだ無いんだって。でももしかしたら何年後かには本当にそんな装置が完成して現実になる日があるかもしれないって言ってた。だから俺、ガンダムビルダーになろうと思う。」

「そうか。今から始めれば数年後にそういう装置が出来た時には凄く強くなってるかもしれないね。」

「そう兄ちゃんに言ったら嬉しそうでさ、今度ここに帰ってきた時に一緒に買いに行こうって言ってくれたんだ。」

「今日見てきたやつ?」

「あれがいいかなとは思ってるんだけど、買いに行く所は拓也さんの店の何倍もガンプラを売ってるらしいんだ。だから行ってから考えようと思って。」

雄介がDVDのパッケージをパカパカしながら言う。

「見せてよ、その”ガンダムビルドファイターズ”。」

「そう言うと思ったから今日誘ったんだよ。」

ガンプラの腕前イコールガンプラの強さではない事に彼らはこれから知るのである。

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