第1話ガンダム疲れ
卒業を目前に控えわだかまりの無いすがすがしい気分でその日、気の置けない仲間たちと札幌の街中を歩いていた。進路もすでに決まっているので今日のイベントも心行くまで楽しめるだろう。
今回初の試みとなるとあるアニメ専門ショップ主催のスタンプラリーに僕たちは参加している。街角や協賛してくれた店舗を巡りクイズの答えを集め、正解した数で報酬ポイントが決まるという。今回のテーマは「機動戦士ガンダム」。1979年にテレビアニメが初回放映され姿や設定を変えつつも現代まで脈々と続くロボットアニメの金字塔であることは言うまでもない。テレビシリーズに限らずOVAや劇場版からも出題されるので広い知識が必要になりそうだ。
僕の最も得意なジャンルなのだから負ける訳にはいかない。トップマニアの名に懸けて。
最近はアニメも市民権を得ておりヲタクなんて呼び方をされるよりマニアと呼ばれることの方が多くなった。時代が進んでいる実感と共に少し寂しさも感じる。
参加したスタンプラリーは3人1チームでガイドマップとスマホのアプリを頼りに指定範囲に点在しているクイズに正解し答えをスマホに記していく。スマホだけで完結できるはずなのに紙のマップに違和感を感じるが、もしかしたらこのマップが何かの仕掛けである可能性は捨てない方がいいだろう。クイズの問題が街角だけではなく飲食店の中にも設置されている事にも関係があるのかもしれない。確かに行く機会の無かった店や知らない店に入るだけでも興味深いし今後常連になる事も否定できない。運命的な出会いがそこにあるかもしれない。
運命的と言えば、先輩から聞いた話だが同じ目標を目指す中別のチームの女子と意気投合し初めて彼女が出来たとか出来ないとか。参加チームには性別が記載されていないのでいつどこで意気投合できるのかも一つのゲームだ。
もちろん僕たちは純粋な気持ちでラリーに参加しているのでそんな与太話など一蹴してやる。
問題の難易度は5段階。アプリ上に浮かぶマークの色でそれは把握できる。難易度の低い問題から確実に正解を出して行くか、近い所から攻めていくか、時間が限られている中で問題数がはっきりしていないのがもどかしい。
マップを見るとすぐ近くに難易度の低い問題が落ちている。ここを足掛かりにしますか。
問題2
TVアニメ機動戦士ガンダムより
地球連邦軍の新型戦艦ホワイトベースのジオン軍内部での呼び名を述べよ
「これは簡単だ。」
「常識の範疇だね。」
「答えは”
アプリに回答を記入。今は正解かどうかは教えてくれないようだ。まあ、間違いはないだろう。この調子で進めばいいのだが。アプリのマップでは答えた地点のマークが消え、すぐ近くに新たなマークが現れた。どうやら画面には一定数のマークしか表示されず、1問回答すると新たなマークが表示される仕組みのようだ。そこへ向かう。
問題16
TVアニメ機動戦士ガンダムSEEDより
主人公キラ・ヤマトが親友から貰ったロボットバードの名前を述べよ
「トリィと。」
「楽勝。」
記入するとマークが消え更に新たなマークが増える。今度は少し離れた所に出現した。新しいマークは後回しにし最も近いと思われるマークに向かう。
問題37
TVアニメより
X→X
赤→青
緑→赤
シリーズ名を述べよ
「これは・・・。」
「機動戦士ガンダムXでいいんかないか?」
「確かにXと書いてはあるけどひっかけ問題かもしれないし。」
確信を持てずに居ると後ろから声が聞こえる。どうやら同じ問題を解いている女子グループのようだ。
「これは機動戦士ガンダムXで間違いなと思うな。」
振り返るとスマホに答えを記入しているところだった。
「あら、なぜ?って顔してますね。」
だらしなく顎が落ちたままの僕たちに向かって彼女は言った。
「これは恐らく、フリーデンのメカニックであるキッドの手によりパワーアップしたガンダムたちの形と色を差しているんだと思います。ガンダムエアマスターは赤を基調にした色合いから青を基調いした色合いに。ガンダムレオパルドは緑を基調にした色合いから赤を基調とした色合いに変わりましたし、ガンダムXはサテライトキャノンは破壊されたものの印象的なシルエットはそのままですしね。」
「いや、ちょっと待ってよ。」
相棒がたまらず声を出す。
「パワーアップしたガンダムXはガンダム
負けていられるか、そんな気概である。
「ガンダム
「ぐっ。」
人って言葉を無くすと本当にぐっって言うんだな。
しかし彼女、侮れない。
「目の付け所は間違ってないと思います。お互い頑張りましょうね。」
笑顔の素敵な女性だ。
棚ボタで得た答えだったが運がいい。風はこちらに吹いている。
問題41
TVアニメ機動戦士ガンダムより
ホワイトベースがサイド7に入港した当時のテム・レイ技術士官の階級を述べよ
「なんだっけ。」
「誰かが言ってた気がするんだけど、覚えてないな。」
またしても頭を抱えてしまったボンクラ3人衆。またしても聞こえる後ろからの声。このパターンはついさっき経験したぞ。そろりと振り返るとやっぱりそこには先ほどの美女3人衆。彼女たちも同じシチュエーションに驚いている。
やはり風は吹いている。またとないチャンスだ。勇気を出して声をかける。初めてのナンパ体験と言っていい。
「あの、ここで再会したのも何かの縁ですし、もしよかったら。その。」
「はい、いいですよ。」
「え?」嘘だ、ナンパなんて声をかけて100人に1人振り向けばいいって。振り向いた100人に1人とお茶が出来れば大成功だって聞いていたのに、それがこんな必殺必中だなんて。
「答えは大尉です。正解も分け合いましょうね。あれ?どうしました?私の答え間違ってました?」
また顎が落ちていたのであろう僕の顔に気が付いた彼女は不安そうに聞いた。
「あ、いや、違うんです。」
「やっぱり違いますか。自信あったのに。劇中ではブライト・ノアがテム・レイの部屋に訪れた際にそう言ってた筈ですが。」
「いえ。答えが違うとかではなく、そうじゃなくて。」
「あ、答えの事じゃないんですね、安心しました。」
笑顔の会釈を残し美女たちはその場を去った。
僕たちはその場に残されたまま思った。
認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちと言うものを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます