第12話 力が逆転して

 スクアーロは必死に、カンツウォーネに意見する中、彼女はなぜか笑みを浮かべた。


「わかってもらおうなんて、これっぽっちも思っていないわよ。


あたしは、小さい頃からそうだったのよ。


一人娘で生まれて、

あたしは恵まれた両親に育てられたとしても、

秘密を抱え込まなくちゃいけなかったし、

幼馴染の母親とあたしの母親は仲が悪くて、喧嘩ばかりだった。


この気持ちが、誰にもわからないでしょうね」


 スクアーロの言った通りなのかもしれない。

 俺はカンツウォーネの幼馴染で、彼女になにかしろの恨みを買っている。


「もしかして、その幼馴染は井藤真・・・・?」


 俺は、口を開いた。

 それを肯定してほしくないはずなのに、なぜか聞いてしまう。


「そうよ。


2歳になってもおむつが外れず、

夜泣きが激しくて、

おねしょもしていたし、

トイレも失敗ばかりしていた。


2歳になっても、ママと呼んで、

お母さん離れができていない、

幼稚な幼馴染が井藤真よ」


 俺は3歳になってからは、普通にトイレに行けるようになり、

 おねしょも夜泣きもなくなって、

 母親のことを「母さん」と呼ぶようになって、

 という記憶があるのだけども、これは遅い方なのだろうか?

 おむつも3歳で外れたけれど、2歳で外れないのはおかしいことなのだろうか?

 そこらへんは、よくわからない。


「俺が聞きたいのは、どうして井藤真を恨むのかっていうことなんだよ。


君はどうして、そこまで執着する?」


「さっき、言った通りよ。


私は幼馴染も憎いし、

幼馴染の母親である、カンナも憎い」


 カンナっていうのは、俺の母親の名前だということで間違いない。

 だけど、今の話だけでは俺の恨まれる要素がわからない。


「カンツウォーネ、だとしても、この学園にいる人達は関係がないはずだ」


「はん。


井藤真と幸せを築き上げた者は、同罪なのよ。


死んでいいってこと。


むしろ、殺したほうがいいかもしれわね」


 この瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。

 気がつけば、俺は恐ろしいことをつぶやいていた。


「カンツウォーネ、君はこの世界にいてはいけない人間だ・・・・」


 どうして、その言葉を発してしまったのかは、自分でも説明ができなかった。

 とにかく、俺は彼女が許せない。


「いない方がいいのは、君の方だ。


沢山の人の命を奪って、何が楽しい?


奪われた人は、どうなるの?


カンツウォーネのやってきたことが、どれだけの人を追い詰めているのか、全然わかってない!」


 俺は剣を抜き、カンツウォーネに勝負をしかけた。

 カンツウォーネは足で、剣を止めた。


「わかっていたら、大勢の人の命を奪って笑ったりしない!」


 俺は剣を振り回し、カンツウォーネに一撃を与えることができた。


「こいつ、強い・・・・!?」


 カンツウォーネは、動揺している気がした。

 だけど、俺の怒りはここでおさまらない。 


「井藤真のせいにしているけれど、実際にやっているのは、君だ!


カンツウォーネ」


「まずい・・・・!」


 カンツウォーネは顔を腕で隠し、防御しているようだったけれど、俺は剣でふっ飛ばした。


「何が恨みだ!


復讐だ!


君は、純粋に殺人を楽しんでいるようにしか見えない!」


 俺は、剣でカンツウォーネを攻撃し続けた。


「痛い!


痛い!」


 ここで、俺は剣を振ることを止めた。


「ずるい・・・・。


ずるいよ。


君は、どこまで自分を正当化するの?



殺人鬼の一人娘だったとしても、

母親同士の喧嘩があったとしても、

幼馴染がどんなに気に入らなかったとしても、


ここに殺人をしていい理由なんてない!」


「あたしは、痛いのいやなの。


お願い、ここまでにして。


服だって、もうぼろぼろで・・・・・」


 カンツウォーネの服は破けていて、傷だらけになっていたけれど、それは腕とかだけだった。


「もういい。


君は警察行きだ。


死刑になるか、

少年院か、

あるいは、どのルートをたどっても、最悪な結末しか待っていない。


しっかり罪を償うんだ。


分からず屋」


 カンツウォーネは泣いていた。


「あたしは、こうするしかなかったのよ。


どんなに苦しくても、誰も助けてくれなかったの。


手を差し伸べてくれる人もいなかった」


「これは、明らかに君が悪い。


どんな理由であろうと、殺人を犯してしまったらそこに何も残らない。


俺は君を救えない。


だから、罪を意識してくれ。


それでも、俺は一生君を許さないけど」


 ここで、緑髪の女の子が攻撃をしかけてきたけれど、俺は剣で防いだ。


「カンツウォーネ様になんてこと・・・・!」


「緑か?」


「よく、うちの名前を知っているな。


緑だ」


「君も、刑務所に入るんだ」


「誰が入るか」


「それでも、入るんだ」


「分からず屋め」


「分からず屋は、どっちだ!」


 カンツウォーネは泣きながら叫ぶ。


「あたしの大切な従妹を奪わないで!」


 従妹?

 緑とカンツウォーネが?

 俺は一瞬戸惑ったけれど、それよりも怒りの方が勝った。


「何を、今更!」


「あたしは、沢山の人の命を奪ってきたけれど、

緑はあたしの大切な従妹なのよ!


あたしが守ってきた存在よ!


お願い、どうか緑だけは・・・・」


「ずるいよ・・・・」


 俺は怒りと、同情の気持ちが同時に湧き上がった。

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