第13話 カンツウォーネの過去

 俺は拳を握りしめて、葛藤していた。

 カンツウォーネの大切な存在である緑を助けるか、

 カンツウォーネに復讐するか。

 どちらにしても、彼女は反省なんてしないと思う。


 カンツウォーネはまた、人殺しを行うかもしれない。

 だけど、復讐も何か違う感じがした。


 何がどう違うのか、説明できないし、

 違和感の正体が自分でもよくわからなかった。


 緑は、剣で構えていた。

 カンツウォーネは泣きながらも、俺に説得をしている。


「お願い!


あたしも、緑もかわいそうなの・・・!


助けて!」


 何が、かわいそうだ?

 ここで、被害者になるとか、信じられない。


 今までのカンツウォーネからは、考えられないような発言だった。


「君は、どうしてほしいのさ?」


 ここで、感情的になってもだめな気がするので、

 なるべく冷静になって、聞いてみる。


「へ?」


 カンツウォーネは、不思議そうな表情をしていた。

 その何もわかっていないような表情が、なぜか俺の怒りを買うことになる。


「人の命を奪うことに、罪悪感とかないの?


心を痛めてないの?


カンツウォーネは、それでいて悲劇なヒロインを演じるの?


そりゃあ、無理があるよ」


 今まで言いたいけど、声に出すことができなかった疑問を、カンツウォーネにぶつけた。


 俺は、カンツウォーネが許せない。

 だから、助けを求められても救う気になれなかった。


「それでも、あたしは助けてほしかったの」


「俺は、君が理解できない」


 俺は、カンツウォーネを突き放した。


 復讐心はおさまったとしても、彼女を救済したい気持ちはここになかった。

 あきれるとも、違う気がする。


 言葉にできない葛藤だけしか残らない。

 

 被害者になるくらいなら、

 俺に怒り任せで攻撃してくれたら、

 やり返せるのに、これは完全に卑怯としか言いようがない。


 ここで、スクアーロが口をはさんだ。


「カンツウォーネのやってきた前科も、

緑がやってきた罪もあるんだ。


最初に幼い少女の命を奪った事例もあるしね」


 幼い少女というのは、紫帆のことだと思う。

 俺の初恋の幼馴染で、今はこの世に存在しない。

 初めて、俺が仇をとるって思った人だ。


 だけど、そんな初恋の人も記憶が曖昧になってきている。

 紫の髪と、紫の瞳だったことは憶えているし、

 一人称が名前呼びだったことも記憶にあるけど、

 どういった人物像とか、

 何をして遊んだとか、

 顔も、声も、忘れてしまっている。


 忘れかけている人のために、復讐する。

 最初はそれかもしれないけれど、

 カンツウォーネのことを大切に思っている緑という存在がいることを知ったからには、

 なぜか自分は人に同じ思いをさせたくないという情がわいてしまう。


 ここで、緑が叫んだ。


「やめて!


カンツウォーネさんを責めないで!


彼女は、辛い過去があったんだから仕方がない!」


 緑が剣でスクアーロに襲いかかったけれど、それを俺はとさに剣で防いだ。


 緑も緑だ。

 どうして、ここまでカンツウォーネを尊敬するのかがわからない。

 彼女に尊敬するような要素があったか?


 あるとしたら、あの怪力ぐらいで、

 人望を集められるような人じゃないはずだ。


 納得がいかない。


 俺は苛立ちを抑えて、スクアーロを守ることを考えることにした。


 スクアーロは戦闘能力もないみたいだし、

 誰かが守ってやらなくちゃいけないかもしれないな。


「カンツウォーネさんのことを、何もわかっていないくせに、偉そうなことを・・・」


「何年かかっても、理解できないだろうね」


 俺は、緑に毒舌だった。

 多分、カンツウォーネと緑の考えていることは、他の誰にも理解できないことなのだろう。


「うちは、カンツウォーネさんを近くで見てきた。


殺人鬼の娘で埋まれてきたカンツウォーネさんと、

殺人鬼の姪っ子で生まれてきたうちは、

憧れの警察官になんてなれないし、

殺人犯の家族や、親戚として見られる。


だから、殺人を犯すしかないんだ!」


 ここまでくると、俺は何も言う気がしなかった。

 何を言えばいいのかわからないという方が、正解だろう。


 どうして、殺人を犯すしかないということに結びついたのかな?


 スクアーロも、多分理解していない。

 緑が言いたいことも、カンツウォーネが言いたいことも。


「おいらは、殺人犯の家族としての辛さも、

親戚として生まれる辛さも、経験したことはない。


だからって、みんなが殺人を犯すようになるかと言われると

、それはない。


カンツウォーネは、自分より弱い者相手になると調子に乗り、愉快犯と豹変する。

だけど、強い者が現れると、被害者を演じるところは、何もも変わっていない。


緑よ、無駄な抵抗はやめて、刑務所へ入るんだ。


大量殺人の場合は、

死刑か、

終身刑の二択しかないがな」


「いやだ!」

 と、緑とカンツウォーネが同時に返事をした。


「あたしは、かわいそうなの。


かわいそうな人が、刑務所なんて・・・」


「うちもだ。


警察官になれないのに、警察に捕まるとか・・・」


「おいらは、貴様の両親のことを知っている。


だけど、知っているだけでわかっていない。


カンツウォーネの父親はサイコキラーという種族だからな」


「サイコキラー?」


 俺は、首をかしげた。

 サイコキラーなんて、種族は今まで聞いたことがない。

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