番外編 幼馴染の恋人は、青葉ちゃん
「今日から、転園生を紹介しまーす」
担任の先生に言われて、出てきたのは、男の子だった。
「この子は、
皆さん、仲良くしてあげてください。
いじめとか、絶対しないように」
って、どんなこと言っているけど、今日は卒園式なんですが?
逆に、いじめとかできなさそう。
卒園式の日に、転園してくるってあるの?
私は、
茜色の瞳と髪を持ち、いつもツインテールにしている。
幼稚園年長の卒園式の日に、転園生がやってきたけど、明らかにタイミングが悪い。
こうして、幼稚園を卒園して、小学生になった。
「赤音ちゃん、同じクラスだね」
声をかけてくれたのは、幼稚園からの幼馴染且つ、親友の
短い水色の髪と、宝石のような綺麗な青い瞳を持った女の子。
井藤真君とも、同じクラスになったけれど、最初のうちはただのクラスメイトでしかなかった。
そう、私が接点を持つようになったのは、席替えとかで、井藤君と同じ席になってからだった。
「あれ、もしかして、西園寺さん?」
「そうだけど?」
「隣の席になったんだあ。
よろしくね」
「よろしく」
その時の笑顔が、私にとってはめちゃくちゃ可愛いものに思えた。
そして、なぜか井藤君は忘れ物が多くて、私が物を貸してあげることが多かった。
「井藤さん、どうしよう。
教科書、忘れてきちゃった」
「私、持っているから、見せてあげるよ」
「ありがとう」
また、ある時は、
「消しゴム、忘れた。
というか、ペンケース自体を忘れてきた」
「また?
何をどうしたら、頻繁に忘れ物をするの?」
忘れ物だけじゃなくて、井藤君はなぜか勉強もできなかった。
「西園寺さんは、算数とか得意?」
「得意だけど、どうしたの?」
「お願い。
この問題がわからないから、教えて?」
「えー」
こうしたやりとりをしているうちに、井藤君と私は、次第に仲良くなっていき、そのうち井藤君は何気ない話もしてくれるようになった。
「俺は、母親と二人暮らしなんだ」
「そうなんだ。
もしかして、卒園式の日に転園してきたのは?」
「そう。
このタイミングに、離婚になったから」
どうして、離婚になったかまでは聞かなかった。
なんとなくだけど、聞いちゃいけない気がしたから。
こうして、私は井藤君に惹かれていくようになった。
そして、井藤君と私と青葉ちゃんと3人で一緒に帰ることも多くなっていった。
井藤君に告白しよう・・・・。
私は、ラブレターと持って渡そうとした時に、青葉ちゃんに声をかけられた。
「赤音ちゃん、ちょっといいかな?」
「青葉ちゃん」
「あたし、井藤君のことを好きになっちゃったの」
その時、私は親友と好きな人がかぶって気まずくなってしまったけれど、ここは平常心でいよう。
「そうなんだ・・・。
よかったね」
「これから、井藤君に告白しようと思っているから、なるべく二人きっりの時間がほしいな」
「いいよ。
青葉ちゃんに、やっと好きな人できたんだね。
おめでとう」
「うん、ありがとう。
ところで、赤音ちゃんは井藤君のことを好きだったりとかしないの?」
「全然、そんなことないよ」
親友に嘘をついてしまった罪悪感があったけれど、青葉ちゃんの恋を応援したい気持ちの方が勝ってしまった。
「そう、よかった。
あたしは、これから井藤君とイチャイチャするから」
こうして、青葉ちゃんが去っていったけれど、私には疎外感しかなかった。
どこで、間違えてしまったのだろう?
青葉ちゃんは、男の人が苦手だから大丈夫だろうって思っていたのに。
まさか、同じ人を好きになるなんて思わなかった。
私が何もできない間に、井藤君と青葉ちゃんは仲良くなっていった。
「赤音ちゃん、聞いて?」
「なあに?」
「今日から、あたしと井藤君は付き合うことになったの」
「そう、よかったね・・・・」
青葉ちゃんは笑顔だったけれど、私は絶望感でしかなかった。
「どうしたの?
赤音ちゃん、顔色よくないけど」
「ううん、なんでもない」
この気持ちには、蓋をしよう。
井藤君を好きになっても、私が辛いだけ。
中学1年生の春、井藤君と青葉ちゃんは晴れて、カップルになり、校内でも噂になるくらいだった。
ところがある日、青葉ちゃんが真っ青な顔で家にやってきた。
「青葉ちゃん、どうしたの?」
「変な女の人に付きまとわれていて、困っているの。
真君とデートしている時に、カンツォーネっていう、謎の人が後をつけてきて・・・・」
よくわからないけど、こわそう。
気がついたら、誠君なんて下の名前で呼ぶんだ・・・・。
青葉ちゃんからよく話を聞いた上で、私はカンツォーネという女の子に文句を言いに行くことにした。
「あの、君は何ですか?」
「えっ、誰なの?」
「ただのクラスメイトです。
それより、親友が後をつけられて困っていると聞いたのですが」
「あの青頭の、東海青葉のことかしら?」
「青頭なんて、一言いりません」
「ふうん、まあいいわ。
あなたは、真が好きだったりしない?」
「絶対にそんなことありません」
「なら、いいわ。
大丈夫よ、あなたのことは巻き込まないから。
井藤真を好きにならなければね」
そう言い、カンツォーネさんは去っていった。
この気持ちは、ずっと蓋をしておこう。
私は、自分自身に心の中でそう呟いた。
青葉ちゃんが憎らしいという感情がどこからか沸いてきたけれど、大切な親友であるために幸せを応援しようと思っている。
私は、青葉ちゃんの家に向かい、カンツォーネさんのことを報告した。
「そうなの?
でも、大丈夫。
真君は、私の世界一無敵な騎士だから、きっと守ってくれるよ。
だから、あたしのことは気にしないで?」
青葉ちゃんは私のことをなぐさめているつもりかもしれないけれど、それが余計に傷ついた。
私だけの井藤君になってほしいけれど、世の中はそんな簡単にはいかない。
「そう?
何かあったら、相談してね」
私は、なるべく平常心を装った。
無理やりすぎるかもしれないけど、こうするしかなかった。
「うん、ありがとう。
やっぱり、赤音ちゃんは私の大親友だよ」
私は、家に帰ってからも泣くことをこらえたけれど、自分の部屋に入った瞬間に涙があふれてきた。
どうして?
青葉ちゃんは、井藤君と付き合ってしまったの?
私は失恋のあまり、自暴自棄になりそうだったけど、冷静になろうと自分に言い聞かせた。
私は、青葉ちゃんみたくなれないかな?
そういえば、いつも同じツインテールにしている。
ここで、美容室を予約して、日曜日にはボブカットにしてもらった。
月曜日は鏡の前で、茜色のボブヘアー、赤のリボン、ブレザー、赤のチェック柄のスカートをはいた自分を見ていた。
完璧だ、私。
これで、少しずつ井藤君を振り向かせて、青葉ちゃんから一発逆転ができる日を目指そう。
「赤音ちゃん、髪切ったの?」
青葉ちゃんに声をかけられた。
「うん、そうなの。
ちょっと、気分転換にって思って」
「いいじゃん、すごく似合っているよ」
「ありがとう」
よし、今から受験勉強を頑張ろう。
底辺でもいいから、井藤君と同じ高校を目指すんだ。
と言っても、井藤君はいつも赤点ばかりだけどね。
青葉ちゃんと別れる日が来たら、自分から井藤君に告白するんだ。
そう、決心していた。
青葉ちゃんは気がつけば、親友ではなく、恋のライバルになっていた。
これは私の中だけであって、青葉ちゃんはきっとそんなことは思っていない。
帰りに、青葉ちゃん、私、井藤君と一緒に帰っていた。
ここで、目の前にカンツォーネさんが現れた。
「ずいぶん、楽しそうね。
ハーレムでも送っているのかしら?」
「ハーレムじゃありません。
私は、ただの友達で恋愛感情はありません」
「そうですよ。
あたしは、真君と付き合っているんです。
他の女性とそんなことをしたら、許しません」
「ふうん」
「真と、幸せを築きあげたのは、青頭なのね。
よーく、わかったわ」
冷たく言い放ったその言葉には、私は恐怖を感じた。
次の瞬間、青葉ちゃんは血を出して倒れていた。
「青葉ちゃん!」
「青葉!」
私と井藤君は、青葉ちゃんのところに駆け寄っていったけれど、脈も感じないし、息もしていなかった。
「そんな・・・・どうして・・・・?」
私は、目の前の現実を受けれられないでいた。
青葉ちゃんは、死んだ・・・・。
カンツォーネさんは、せせら笑っていた。
「美しい光景ね。
あたしより、幸せになるとか信じらんない。
これで、真を不幸にできたわ」
こうして、カンツォーネさんは去っていった。
ひどい・・・・。
青葉ちゃんは救急車に運ばれて、警察からの事情聴取を受けて、警察はカンツォーネさんを捜しに行く形になった。
カンツォーネさんが何者なのかはわからないけれど、私は恐怖を覚えてしまった。
私もあんな目にあうのなら、井藤君に告白する気にもなれない。
青葉ちゃんがいなくなった今からでも、私は自分の気持ちに蓋をすることになった。
青葉ちゃんに両親はいないから、児童養護施設の職員や子供たちが、お墓参りやお葬式などほかにも参加する形になっていた。
私はというと、お墓参りにもお葬式にも行く気になれなかった。
殺人現場を生まれて初めて見てしまった・・・。
学校がある日は、井藤君がクラスの男子たちから「死人の彼氏がいるぞ!」とからかわれるところを見ては、私が「ちょっとやめなよ」と止めることが多かった。
「お前は、死人の親友か」
クラスの男子生徒たちは、なぜか笑っていた。
どこがおもしろいの?
私には、クラスの男子たちの言動も、行動も理解できなかった。
「いいんだよ・・・。
俺は、まだ青葉のことが好きだし・・・・」
「井藤君?」
「はっ、死人のことを好きとか亡霊とか幽霊が好みなのか」
「言えてる、言えてる」
「ほんとにやめなってば!
本人は傷ついているの!
大切な人を失う気持ちがわかっているの!?」
「なんだよ、偽善ぶってさ」
「そーだ、そーだ」
「第一、井藤みたいなバカで赤点とるようなやつに彼女できるとかありえねーし」
「俺が親切に東海のやろうに、井藤が原因で離婚したことを教えてあげたのに、否定しやがってよ。
そんなことないだって、よ!
事実に目を向けないことが、ほんとの恋愛なのかつっのー!」
「え?
井藤君が原因の離婚?」
「知らねーのか。
こいつのせいで、両親が離婚になって、家族みーんな不幸にしちまったんだ」
「井藤君、どうなの?
本当のことを教えてよ。
でないと、勝手に否定するわけにはいかないから」
井藤君はしばらく黙り込んだ後に、静かに口を開いた。
「すべて・・・・事実なんだ・・・・」
「事実って?
青葉ちゃんは、どうだったの?」
「青葉は、まわりからどんなに言われようと、俺が原因であることは否定していた。
だけど、両親が離婚になったのは、父が愛情を息子にやるって、ぜーんぶ、母のせいにして・・・・。
ごめん、今までそんなこと黙っていて。
俺は青葉に嫌われたくなくて、必死に頑張っていたんだ。
変わり者かもしれないけど、普通でいようって決めていたんだ。
だけど、青葉がこの世界にいない今は、その決心が緩んだ。
西園寺さん、俺は母親に向けた父親に対する愛情を奪った張本人なんだ。
生まれてすぐに発覚した、正真正銘の出来損ないだ。
だから、青葉にバカにされたり、その事実を知ってもらうのは、男としてのプライドが傷つくけど、西園寺さんなら知られてもいいかもしれない。
バカにされてもいい。
バカにしたいなら、西園寺さんも好きなだけ俺をバカにすればいいさ」
「そんなの嘘だよ。
青葉ちゃんは事実を知らない上で、井藤君を肯定してくれたかもしれないけど、私はそんなことしない。
井藤君にどんな理由があろうと、親ガチャが外れていようと、私は真実をわかった上で肯定するよ。
何も知らない状態で否定も、肯定もできないから。
私は、井藤君のことをもっとよく知りたい。
不自由することがあるなら、私が支えればいい」
「西園寺さん、ありがとう。
君は最高の友達だよ。
だけど、俺は青葉が好きだから、嘘をついてでも守りたいんだ。
青葉は幽霊の状態になったけれど、この姿になっても、俺はまだ青葉を騙したいと思っているんだ。
ずっと、騙したままでいるつもりだった。
だから、本当のことを隠さずに打ち明けらるのは、西園寺さんだけだ」
そっか・・・。
井藤君は、まだ青葉ちゃんが好きなんだ・・・。
「つまんねーの。
お前たち、もうここを去ろうぜ」
「そうだな」
井藤君をからかっていた男子グループは、こうしてその場を去った。
「井藤君、私はずっと君の友達だよ」
「うん、そして大事な幼馴染になろうね」
「幼馴染って言うのかわからないけど、よろしくね」
こうして、井藤君と私は親友になった。
幼馴染かどうかはわからないけど、井藤君がそれでいいならいっか。
青葉ちゃんがいなくなってからは、私と井藤君の二人でいることが多くなったけれど、私は彼に告白できないでいる。
カンツォーネさんは、放課後になってから、学校の外で私の前に現れた。
「真は、不幸になっていったかしら?
彼女がいなくなって」
「カンツォーネさん、どうして、そこまでして井藤君を不幸にしたいって思うんですか?」
私はカンツォーネさんの質問に答えずに、カンツォーネさんに質問を投げかけた。
「それを知りたいの?
知らなくちゃならないの?
真を不幸にするってことを達成できているから、いいんじゃないの。
それに、あなたに関係あることなの?」
カンツォーネさんの目は、冷酷だった。
だけど、青葉ちゃんを奪われた以上は、井藤君のために何かやらないと・・・・!
「関係あってもなくても、相手が井藤君であっても、誰であっても、カンツォーネさんはそれでいいんですか?」
「それでいいって?」
「誰かを不幸にすることで何が残るんですか?」
カンツォーネさんは、腕を組みながら何か考え込んでいた。
しばらく、沈黙が続いてから、カンツォーネさんは答えた。
「残る残らないで、やるわけじゃないの。
あたしは小さい頃から、父からの威圧を受けながらだったわ。
あたしの大好きだった人は、すでにいないのよ。
その人は、あたしを支えてくれた。
だけど、真が生まれてから、家庭崩壊したのよ。
だから、そもそも真がいなければ、そんなことは起こらなかった。
あたしには、もうすでに何も残っていないのよ。
なら、残る残らないの話じゃない。
父にも復讐をとげるわ。
今は、母も憎らしい。
あたしには、最初から何もないのだから、あとは失うだけなのよ。
あなたには、そんな気持ちがわからないでしょう?」
「わかります。
全部ではないかもしれませんが」
「ほんとうに?
言葉だけじゃない?」
「私も家庭崩壊はしています。
ですが、家族を憎んだり、復讐しようとか思いません。
今は父も母もいませんが、私は伯父夫婦と暮らしているんです。
だから、幸せというのは別の形で存在すると思うんです。
私も最初は家族といられる時間こそが幸せと思っていたんです。
でも、私は友達も叔父夫婦もいます」
これで、説得できたかはわからない。
だけど、井藤君をこれ以上は悲しませたくない。
「はあ、あなたって人はいつも斜め上を行く」
「斜め上?」
「まあいいわ。
そんなに言うなら、あなたがあたしを幸せにしてみなさいよ」
「え?」
予想外の返答に、私は戸惑いを隠しきれなかった。
「あたしを救えるんでしょう?」
「そこまで言っていない・・・・」
「あたしを幸せにできなかったら、幸せと主張するあなたの命も奪う。
いいわね?」
「そんな約束、引き受けられない!」
これって、唄さんを満足させることができなかたら、ペナルティーを食らうみたいなデスゲームみたいなこと、私は望んでいない。
「これは、強制よ。
ただの表面上だけの友達だから見逃そうと思ったけれど、このまなざしを見る限り、本物の友情を感じたわ」
井藤君には、相談できなかった。
まさか、私がデスゲームみたいな約束を引き受けてしまったこと。
正しく言えば、引き受けてしまったんじゃなくて、強制的に参加させられたと表現した方が正しいかもしれない。
私は井藤君の家に来ていた。
「井藤君、カンツォーネさんのことを聞かせて。
もしかしたら、言いたくないかもしれない。
だけど、君のことを狙っている以上、私に関係のない話って言い難いから」
「カンツォーネは、人の幸せを妬む女性になってしまったけれど、やっぱり今回も失敗だったかな?」
「井藤君?」
「もっかい、やり直そう。
青葉がいた頃に戻りたいんだ」
「井藤君、急にどうしたの?」
「時間はいくらでも、どうにでもなるんだ」
私は、ここで目が覚めた。
夢?
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