第8話 転校先で

「今日から、転校生を紹介しまーす」


「井藤真って言います。


皆さん、よろしくお願いします」


 俺は、小学2年生で、学校を転校することになった。


 転校生であるために、いろいろな人に話しかけられた。


 ここで、俺は桃色の髪と桃色の瞳を持つ女の子に話しかけられた。


「初めまして。


井藤君。


俺は、中央ちゅうおう桃木ももきって言います。


よろしくね」


「よろしく・・・」


 一人称は俺だけど、中央さんは女の子だ。


 俺が図書室で、騎士に関係する絵本を読んでいたら、中央さんに声をかけられた。


「もしかして、この本、俺が先週読んでいたの?」


「知っているの?」


「さっき、言ったでしょう?


俺が先週、読んでいた絵本だって」


 ここで、俺と中央さんは話が合うようになった。


 休み時間の度に、共通の話題で盛り上がることが多かった。


「俺は、保育園に読んでいた、絵本の騎士に憧れててさ、俺もなりたいと思ってたんだ」


「俺も、騎士になりたいと思ったよ。


だけど、さすがに保育園からってことはなかったな。


小学生になってから、学校の図書室で読んだ、あの女の子の騎士がかっこよくてさ、俺もああなりたいなって」


「だよね?」


 彼女といる時間は、すごく楽しかった。


 だけど、俺は転校生だからか、いじめられることも少なくなかった。


「おらよ」


「痛いっ!」


 殴られたら、痛い。


 こんなところで、中央さんが助けにきてくれた。


「君たち、こんなに集団で、卑怯にならないの?」


「あん、何だ?


女だからって、容赦しないぞ」


 こうして、いじめっ子グループが殴りかかってきたけれど、中央さんは素手だけで、男の子たちをやっつけてしまった。


「何だ、こいつ、強いぞ」


 こうして、いじめっ子グループは逃げていった。


「中央さん、強いんだね」


「当たり前でしょう?


騎士になるんだから、これくらい強くないと」


「俺も強くなりたい。


だけど、なぜかいつも弱くて」


 そう。

 俺は喧嘩に強くなりたいはずなのに、いつも負けてしまうし、いじめられる側に回ってしまう。


「そんなことないって。


井藤君も、強くなれるよ」


「どうやって?」


「強さに必要なものって、何だと思う?」


「えーと、何だろう?


修行かな?」


「井藤君は、どんな修行をしたの?」


 俺は、過去を振り返ってみた。


「したよ。


剣を振り回すの」


「井藤君って、天然なんだね」


 なぜか、中央さんが笑っていた。


「何がおかしいの?」


「剣を振り回すことだけが、修行だと思っていたの?」


「うん。


そうだけど、それがどうかしたの?」


「こんなんで、強くなれるわけないって」


「えー!」


 俺は、驚いた。


「剣を振り回せば、徐々に使い方わかってくるんじゃないの?」


「あのさ、剣道やる人は剣を振り回しただけで、全国大会とか出られると思う?」


「それは・・・・」


 確かに、剣道やる人は相手と戦ってばかりいたような気がする。


「だけど、保育園の頃の友達に、剣を振り回すだけでいいって言われて」


「あはは、おかしー!


保育園児の言うことを、真に受けているの?


井藤君って、天然だねえ」


 中央さんが笑っているところに、俺は恥ずかしくなってきた。


「笑わないでよ・・・。


これは俺の中で完全なる黒歴史だから、忘れてくれない?」


「やだって言ったら?」


「それでも、忘れさせる」


「どうやって?」


「とにかく、頭たくさん叩けば忘れられる」


 俺は真剣に言っているのに、なぜか中央さんは笑っていた。


「あはははは、アニメの見過ぎじゃない?


実際、そんなことないって」


「ないの?」


「ない、ない。


記憶喪失とか起こす前に、死んじゃうよ」


「えー、アニメとか漫画では簡単に記憶喪失になるのに?」


「これは、フィクションだからだって。


現実世界では、なかなか起こらないよ。


逆に質問だけど、魔法少女は現実にいると思う?」


「いるんじゃないの?」


「魔女は?」


「いる」


「忍者は?」


「いる」


「神様は?」


「いる」


「じゃあ、悪魔とか天使は?」


「いる」


「宇宙人とかもいるって言うの?」


「うん」


 ここで、中央さんは笑い出した。


「あはははは」


 どうして、すぐに笑い出すんだろう?

 俺、そんなにおかしいこと言っている?


 俺は天然発言しているつもりはないんだけどな。


「井藤君って、おもしろーい!」


「俺、普通に話しているだけだけど?」


「それを天然って言うの」


 こうして、俺と中央さんは学校の中を過ごした。


 いつもなら、学校の中で好きな人を探すけれど、俺はそんなことをする気力がないくらい、恋愛がトラウマになっていた。


 いまだに、転校前の恋が忘れられないでいる。


 ある時、中央さんはなぜか、学校に恋占いの本を持ってきていた。


「井藤君は、恋占いは興味ある?」


「ない」


 俺の返事は即答だった。


「井藤君でも、興味のないものなんてあるんだ。


まわりは、カップルとかいるのにね」


「俺は、恋愛する気になれなくて」


「恋をすれば、毎日が楽しくなるのに?」


「俺はならないな。


恋って、正直に言うと辛いだけだと思っている」


「そっか・・・。


井藤君がいやなら無理なことはお願いしないよ。


もし、井藤君が恋愛したい気持ちになったら、いつでも俺に告白してきてね」


「それ、どういうこと?」


「どういうことだろうね」

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