作者・キノ猫 キリンレモン賞:『星屑』の感想
星屑
作者 キノ猫
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886723010
海の見える宿泊施設で一週間手伝いをしに来た僕は、白いワンピースのうみちゃんと出会い、シーグラスを星屑に見立ててお願いをしてから、毎年一度の恒例行事となる話。
疑問符感嘆符のあとはひとマスあける云々は気にしない。
素敵なボーイミーツガール。
ひと夏の恋を描きながら、それで終わりにしていないところが良い。
主人公は、おそらく男子学生、あだ名はそら君。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の思いを知りながら結ばれない状況にもどかいさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
目一杯に広がった海に振り返れば山々がそびえ立つ、駅から数十分歩いた先にある宿泊施設で一週間手伝いするために訪れた主人公に、にゃひひと特徴的な笑い方をする白いワンピースの彼女、うみちゃんが声をかけたのはナンパのため。海岸の砂浜からシーグラスを探すのは、星のかけらが落ちてきたみたいで可愛いから。
ある日、海辺に泣きながら座っていたのは母親と喧嘩し、外出禁止されるかもしれないから。
町に要られる日が残り二日となった夜、浜辺から母と仲直りしたうみちゃんが声を上げて会いに来る。外出禁止令は後三日残っているが、家にいるのはつまらないから黙ってでてきたと告げる。
「僕に逢いに来た訳じゃ無いんだ」
冗談で言ったつもりが、「実は八割くらいかな」と頬を赤らめて笑う。
うみちゃんのあだ名は嫌いじゃないからと彼女は、主人公にそら君とつける。「空って、色んな顔を持ってるでしょ? 明るかったり陰ってたり」「……なーんて。そうだ私星空を見るときにやることがあるの」
とシーグラスを取り出し、「一つお願い事を思い浮かべながらシーグラスを空に向かって投げるの。小さい頃からやってて楽しいし、お願いが叶いそうな気がするの」
二人して一緒に空いっぱいに投げる。重力に従って落ちてくる星屑は、それぞれの額に落ちてきたのをみて、互いに笑った。
最終日、荷造りを終えた後、机に封筒が置かれていた。「彼女から」と書かれていた。「……友達っすよ」と躊躇する自分に不快に思いつつ封をあけると、手紙とペンダントが入っていた。
ペンダントには、うみちゃんが嬉々とし、太陽にかざしていた球状のシーグラスが付いている。お別れの言葉もなく、「これだけ渡しに来たとか馬鹿なんじゃないの」と首に付けた。
電車に乗りながら海を眺めていると、海原を背に経つ白いワンピースの彼女は笑顔で首元を指差し、口を動かすのが見える。何を言っているのかわからなかったが、会う理由が出来た気がした主人公。
今では年に一度の恒例行事となっているのは彼女の影響だった。
三幕八場の構成で書かれている。
一幕一場のはじまりは、星屑に願いをかけるのは馬鹿らしいと思っている主人公が、海の見える宿泊施設に一週間手伝いに来る。
二場の主人公の目的では、海辺で白いワンピースの彼女と出会い、うみちゃんと名付ける。
二幕三場の最初の課題では、砂浜にうずくまる彼女を見て駆けつけるも、シーグラスを探しているところだった。四場の重い課題では、母と喧嘩して泣いている彼女の側にいてあげることしかできなかった。
五場の状況の再整備では、しばらくうみちゃんと会えない日が続き、海がしらけて見える。
六場の最大の課題で、残り二日の夜に彼女と再会し、「僕に逢いに来た訳じゃ無いんだ」と尋ねると、「実は八割くらいかな」といわれ、互いにあだ名の話をする。
三幕七場の最後の課題、どんでん返しでは、願い事を浮かべてシーグラスを空に向かって投げ、『落ちてくる間にお願いすると叶う気がすると言った彼女と一緒にお願いをする。
八場のエピローグでは、「彼女から」と書かれた封筒には手紙とシーグラスが入っていた。電車から浜辺に立つ彼女が彼女の首元を指して口を動かすのがみえ、会う理由ができ、シーグラスを星屑に見当ててお願いするのが年に一度の恒例行事となる。
結論手前、主人公の心情からはじまっているところが良い。
この考えが変化する話が、これからはじまると読者に伝えている。
白いワンピース姿と笑い方。シーグラスを拾っていたり、放り投げて星屑として願い事をするなど、ミステリアスなうみちゃんのキャラクターがいい。
「新手のナンパかなんかですか、こんにちは」
と聞くと、「にゃひひ」と彼女は笑うのだ。
特徴のありすぎる笑いをしながら、「かもしれないね」否定しない。
情景描写もいいけれど、登場人物が二人しかいないところが素晴らしい。短編なので、必要以上に登場させると、伝えたいことが薄まってしまう。
宿泊施設の人や、最後手紙を受け取ったとき、誰かがいるなどすると野暮ったくなってしまう。
二人の会話が少しズレているところが現実味を感じる。
「初めまして。私君と昔会ったこと、ある?」
はじめの声のかけかたからして、普通じゃない。
次にうずくまって心配してる彼女に近づくと、「みっけた!」と球状のシーグラスを手にし、「あ、もしかして私がしんどそうに見えた?」とにゃひひと笑って見せる。
主人公は彼女に意表を突かれて、前半受け身で進んでいく。
でも会話がするようになると普通に話すようになっていく。
最後、封筒に付箋が貼られて「彼女から」と書かれていて、主人公は「……友達っすよ」と口にしながら、ちょっと後ろめたさを感じる。
電車に乗ってるときは、浜辺にいる彼女が、「彼女は笑顔で彼女の首元を指して口を動かしていた」と、きっとペンダントのことだとわかっても何を言っているのかは分からない。
出会ったときのようにズレていく。
このズレで、二人の距離感をうまく演出しているように思う。
こういうところが上手い。
「封を開けてみると、手紙とペンダントが入っていた」とある。
ペンダントはわかる。
手紙にはなんと書かれていたのだろう。
「お別れの言葉なしでこれだけ渡しに来たとか馬鹿なんじゃないの」とあるので、別れの挨拶がかかれているわけではないのだ。
ペンダントつけてね、ということが書かれているのなら、浜辺でジェスチャーしながら口を動かしたりしない。
連絡先か、本名か。
なんだろう。
「何を言っているのかは分からなかった。でも、これで会う理由が出来た気がする」なので、彼女にまあ会おうとは思っていなかった可能性がある。
でも、シーグラスで彼はお願いをしている。
彼女と仲良く出来ますようにとお願いした可能性もあるので、会いに来るきっかけを探していたのかもしれない。
「でも今は、これが年に一度の恒例行事となっている。きっとこれも彼女の影響だ。本当、嬉しいことも、不思議な感情も、全て彼女の所為だ」と最後締めくくられ、星屑に願い事なんて馬鹿らしいとは思わなくなった理由がわかった。
読後、素敵な出会いだなと思う。
ひょっとしたら彼女が、シーグラスでお願いしていたから、主人公と出会えたのかもしれない。それはそれで素敵な話である。
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