作者・Re:over 読売新聞社賞:『脅威』の感想
脅威
作者 Re:over
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883813830
『やつ』の脅威に怯えながら、彼女を殺された復讐のために一矢報いようとするも返り討ちにあったゴキブリの話。
一文が長かったり、誤字脱字等は目をつむる。
主人公たちが何者なのかをふせられたまま展開され、最後にオチがある。
一人称で書かれながら、主人公を現す主語「僕・俺・私」などを一切使わず書かれているところは良い。
主人公はオスのゴキブリ、一人称で書かれている。自分語りの実況中継で綴られている。最後にオチがある。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
交際中の彼女がいる主人公は、仲間とともに暮らしている。『やつ』と呼ばれる家主である人間が現れ、拠点へ逃げようとする。
交際痛の彼女の背後に、魔の手が迫る。主人公の元へ書けてくるも、容赦なく煙、殺虫剤を撒く。
彼女を奥へと連れて逃げるも、「好きだよ……」と言い残して事切れてしまう。
叶わない相手だとわかっていながら、怒りを共感する仲間とともに復讐に立ち上がる。無防備な『やつ』人間に一矢報いるつもりで飛びかかる。
手が届くと思った瞬間、左半身を叩かれ、逃げ場のない空間の隅っこへ飛ばされる。死ぬかもしれないと恐怖し、逃げようと拠点へ向かおうとする。が、先に殺虫剤を散布され、のたうち回る。仲間に謝らなければ、感謝しなければと思っても遅かった。
みんな、ごめん……の言葉を口にしたくても、動くことはなかった。そんな中、「ほんっと気持ち悪いわね、ゴキブリは……」と『やつ』である人間の大音量がきこえるのだった。
三幕八場の構成で書かれている。
一幕一場のはじまりで、『やつ』がきたと知らされる。二場の主人公の目的では、拠点へ逃げようとする。
二幕三場の最初の課題で、魔の手に気づいていない交際中の彼女に「早くこい!」と呼びかける。
四場の重い課題で、彼女の進行方向に毒ガスが立ちふさがる。
五場の転換点では、彼女は「好きだよ」といい残して死んでしまい、仲間とともに復讐に立ち上がる。
六場の最大の課題で一矢報いようと『やつ』に迫る。
三幕七場の最後の課題では、返り討ちにあって左半身を叩かれ、部屋の隅っこに飛ばされる。
八場の結末で、毒ガスを散布されて死ぬ間際、『やつ』の「ほんっと気持ち悪いわね、ゴキブリは……」大きな声を聞くのだった。
非常に上手くまとまっていて上手い。
「急げ! 『やつ』が来るぞ!」
セリフからはじまる書き出し、しかも勢いがある。
とにかくなにかが起きたのだ。
誰のセリフかといえば仲間であり、聞いた仲間全員が拠点へ向かいだす。
「迫り来る魔の手に怯えながら走り回る。後ろにいる仲間の生存すら確認できない状況になってしまった」抽象的な表現でぼかしている。
けれど、後ろから逃げてくる仲間が生きているのかも確認する余裕もない状況だから、具体的な説明は後回しになる。
緊急事態を上手く生かした、情報の制限をした書き方は上手い。
一人称で書かれていながら、本作には「僕・俺・私」の主語が使われていない。
主人公がゴキブリであることを、読み手に悟らせないための工夫と思われる。でもこの工夫が、思わぬ効果を生んでいる。
一人称は、自分語りで内面を語るのに適している。
さらに主語を省くことで、より内面、心の内を描くことができる。
つまり読み手は心の中から起こっている状況を追体験していくので、より主人公に感情移入できるのだ。
きっと、作者はそこまで考えて、主語を使わない書き方をしたのだろう。
仲間たちとガスから逃げ惑い、拠点へ向かうも彼女は死んでしまう。敵わないと知りながらも怒りから復讐に立ち上がる主人公。だが、返り討ちに会い、ガスによって命が尽きようとする。そんなラストで、オチが来る。
オチとは、これまでの話はなんであったのかを現すもの。
『やつ』とは人間であり、ゴキブリが主人公だった作品と知って終わる。
読者は、「ゴキブリだったのか」と思う人もいれば、「人間はなんて残酷なんだ」と思う人もいるだろう。
感想がわかれるのは、それだけ、感情移入できる書き方ができている作品だという証拠である。
気になるのは、涙である。
はたして虫、ゴキブリは涙を流すのかしらん。
調べてみるも、昆虫には涙腺がないため涙を流す虫は存在しない。
テントウムシを驚かすと腹側の縁からオレンジ色の臭い液体を出しますが、カメノコテントウを驚かせると、胸部にある目のような斑紋(実際の目は頭部にある)から真っ赤な液体を出すことから、血の涙を流すように見える。そういう虫もいますが、涙ではない。
なぞなぞだと「涙を流す虫は、泣き虫」とある。実際の虫ではない。
ゆえに昆虫、ゴキブリは涙を流さない。海から陸に上がった脊椎動物には涙腺があるため、涙を流す。
本作で四回も書かれている「涙」の表現は、比喩であろう。
ゴキブリには羽がある。
だが、飛んでいる様子がない。
飛べば人でないことがわかってしまうから避けたのは容易に想像がつくのだけれど、少しモヤッとする。
どんなときにゴキブリは飛ぶのだろうか。
調べてみると、ゴキブリは高い場所から低い場所へ移動するときや、身の危険を感じたときに飛ぶ。
また、飛ぶのが苦手であり、高いところから低いところへ滑空するかたちで飛ぶ。
野外では木や住宅の高い場所へ登る習性があり、滑空して遠くへ移動する。飛距離は最大で五メートルほど。
またゴキブリは夜行性で、夏の暑い季節、温度三十度、湿度六十パーセント以上になると活発化する。
つまり、飛ぶのが苦手なゴキブリが飛ぶ条件は、高温多湿の気候と逃げる理由があり、高いところから低いところへ滑空するときである。
本作で飛ぶ描写が見られないのは、逃げる状況でありながら、高温多湿の夜ではなく、低いところを逃げ惑っていたためと考えられる。
読後、タイトルを読んでみる。
シンプルだからこそ、ゴキブリである主人公たちにとって人間が脅威だということが、より伝わってくる。
同時に、ゴキブリに怯える人間にとってもまた、彼らは脅威である。一匹見つけたら三十匹はいるといわれる。
ゴキブリと生活していると考えると、夜もおちおち眠れない。
なので、タイトルにはダブルミーニング、二つの意味がこめられているだろう。
タイトルセンスもまた素晴らしい。
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