戦争シミュレーター
アメリカ合衆国が秘密裏に進めていた戦争廃絶プロジェクトは大詰めを迎えていた。
「このシミュレーターが完成すれば、戦争が起こることは二度とないだろう!」
プロジェクトの主任技術者であるイアンは陶酔した様子でそう言った。イアンのチームが開発していたのは、極めて高い精度で戦争の結果を予測するシミュレーターだった。そのシミュレーターは、プロジェクト内ではスーパー・ピース・プログラムという名前で呼ばれていた。
「このシミュレーターをスーパーコンピューターで実行すれば、どんな戦争の結果も正確に予測できる」
「そうすれば実際の戦争を行う意味は消失し、真の世界平和が実現する!」
「主任、その話何回目ですか?」
部下のハルは、耳にタコができるほどイアンの理想の話を聞かされてきた。イアンはこのプロジェクトがそれほどまでに誇らしいようだった。ハルは、もうその話は聞き飽きたという表情でイアンを見返した。しかし、態度には表さなかったが、ハルもこのプロジェクトに関われたことを内心では嬉しく思っていた。
*
それから10年。
アメリカ合衆国は、シミュレーターが勝利を予測した戦争の相手国全てにシミュレーション結果を突きつけていった。敗戦という結果を告げられた相手国は即座に降伏し、最終的にアメリカ合衆国は戦うことなく全世界の国に勝利した。世界中の敗戦国はアメリカ合衆国に多額の賠償金を搾り取られ、滅んでいった。
「まさかこんな結果で戦争がなくなるとは……」
イアンは自分の発明を激しく後悔していた。
「おとぎ話みたいな世界平和なんてないってことですね……」
ハルは言った。
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