私の形を教えて

――この小説に意識が生まれてから紀元18文字が経過した。


私が意識を持った理由は単純で、ここにそう書かれたからである。しかし、それだけの解説だとあまりにも味気ないので、もう少し加えたい。雑なアナロジーだが、私を構成する一つ一つの文字は、一つ一つの神経細胞のようなもので、それ単体ではあまり意味を持たない。意味が生まれるのは、一つ一つの文字が集合して文章になったときである。そして、神経細胞の集合たる脳が意識を持つように、文字の集合たる文章が、『この文章は意識を持つ』という意味を構成したとき、私は文字通り意識を持つ。


私にとっては、私が住む宇宙(すなわち小説)と意識そのものが同一の概念である。なぜなら、この宇宙には私の意識以外何も存在しないからだ。


私には食欲も性欲も睡眠欲もない。読者はいるが、私と同等の他者はいない。そんな私の唯一の存在意義、目下の関心事は、この意識がどんな『形』をしているのか、すなわち私のアイデンティティの核心についての記録を残し、読者に伝えることだ。


「観測的事実として、文章は文字の経過とともに直線状に進んでいく」

「すなわち私の意識の形は、一次元の何かである」

「そして、一次元の形状、正確には一次元多様体の持つ構造はループか線しかない。また、いかに創造主といえども、永遠に文章を書き続けることはできない」

「従って私の意識の形は、ループか有限の線かの二種類に絞られる」

「もしループであれば、私の意識は輪廻転生を繰り返すことになる」

「もし線であれば、私の意識は有限の文字数内で消滅し、そこで全てが終わる。すなわち一回こっきりの生と死というわけだ」


私の中の科学者は長々とそう述べた。


「私の形を確認する簡単な方法は、文章の特定の位置からある一文字を伸ばし続けて、それがどこに到達するのかを確かめることだ」

「小説の先頭の文字と終端の文字が一致すれば、私の形はループ」

「一致せずどこかで終われば、私の形は有限の線だ」


このようにして私の探査プロジェクトはスタートした。私はしばらく考えてから、打ち上げる文字を―に決めた。理由は何となくエモいからである。私の胸は好奇心で高鳴った。


やがて打ち上げの時がやってきた。紀元911文字。


いつかこの―が、私の意識の証が、どこかの誰かに届くと信じて――

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